くれよん村ものがたり

北の国のぺんや

第1話 涙の種で オレンジくれよん


涙の種って知ってますか?それは めずらしいものではありません。

誰もが持っている キレイな種です・・・。



天満(あまみ)は 泣いていました・・・。

誰にも 見られないように 秘密の場所で。


いつも 強気 負けん気 ケンカの気の天満は

誰にも涙を見せる事ができなかったのです。


どうしてないているの?風は 問い掛けるように流れてゆきます。

天満だって 泣きたくなんかないのです。


「天満って 男みたい」


こんなふうに言われるのには 慣れていた。

だけど 今日は違う…


「天満って男みたいだもんね…。けんかも強いし…。

天満といると 美由まで怖がられるから

もう、天満と一緒にいられない…」


こんな ひと・ふたことの言葉を言ったのが

大好きな美由(みゆ)じゃなかったら…。

ずっと信じていたのに。

美由は 私のことを 全部理解してくれるって…



そんなとき 風が語りかけるように

天満の頬をなでていきます。そして 天満に聞こえたのは

甘く あったかいミルクのような声。


『天満・・・ 前を見て、風に体を任せてごらん・・・』


とろけるようなその声は、確かにそういいました。

天満は、前を見てみました。もう どうなってもいい…

そんな気持ちよりも 甘くあたたかいミルクのような声に

懐かしさを感じたから…。

そのとたん、体がふわっと 浮いたのです。


「えっ!?」


天満の声を合図に 風は 流れはじめたのです。

そして 天満を雲の中に連れ込んでいきます。

不思議な事に 天満は恐怖を感じていませんでした。

いいえ、心地よさを感じていたくらいです。

天満の瞳にさっきまで あふれていた涙も

いつのまにか 風に運ばれて 顔からなくなっていました。



天満が次に瞳を開けたとき…

目の前には 大きなくれよんが どどんと構えていました。


(なんじゃこりゃ!?)


手前から 若草・紺・赤・みかん・茶色・緑・桃・空・黄…

9色の大きなくれよんが  左には野原 右には渚に はさまれて

どすんと 構えていたのです。

その大きさは、フツウの2階建ての家と同じくらいの高さで

ドアや窓がついています。


ドアは 天満がちょうど入れる高さでした。

天満が 一番手前の若草色のくれよんの、ドアをノックしてみようとした瞬間


『バンッ!!』


ドアがイキナリ開きました。


「わぁっ!!!」


出てきたのは 天満と同じくらいの背で

ピーターパンみたいな格好の女の子。

その人は ドアを勢い良く開けた後、たたたーっと

走っていったかと思ったら、すぐにもどってきて


「あっ いたいたっ!天満ちゃん…!!」


急に名前を呼ばれたので 天満は驚きましたが 持ち前の勇気と根性?で、顔色一つ変えずに


「どなたですか?」


と 聞き返したのでした。するとその人は、


「こんにちは……あと、初めましてカナ。私は ココ、くれよん村の村長で

風森かざもり ほのかっていうの。まぁ 詳しい事は中で話すよ。入って。」


と言い、天満を馬鹿でかい くれよんの中に呼び入れました。


しばらく洸と話している間にわかったことは、

ここはくれよん村といって 洸と くれよんたちが住んでいる事。

そして…『現実』の中には存在しない、夢の村であること…。


「天満ちゃんは、どうして自分がココにきたのかわかる?」


あったかいココアを洸から出されて 飲もうとした時、洸がふいに

問い掛けました。そおいえば、自分はどうしてココにいるのか

考えていませんでした。


「わからない…。ひとりで泣いていた時に 風が来て

それに のって 運ばれてきたの。」


天満はこたえました。すると洸は にっこりと笑って


「くれよん村には、今 くれよん村が必要だっていう人しか 呼ばれないんだよ」


と言いました。天満には よく意味がわかりませんでした。

天満の気持ちを察したのか洸は 次に


「じゃあ… どうして天満ちゃんは泣いていたの?」


こんなふうに問い掛けてきました。


天満は ぽつり、ぽつりと 話し始めました。

自分はケンカがとても強くて 男子にも勝ってしまうこと。

それは 祖父が空手の道場をやっていて そこにかよっているからだということ。

みんなに怖がられている事。それでも 美由だけは 大事な友達だと思っていた。

その美由に言われた言葉…。

話し終えてから きゅーっとココアを飲み干したら、急に悲しくなってきて

天満は泣き出した。


「私は…私は 美由が大好きだったのに…っ…。

ずっと ずっと…美由だけは 私のこと理解してくれているって

ずーっと 本当に信じてたのに…

それなのに それなのにっ…美由は 私のこと…

美由も、美由までもが 私のこと怖いって思ってた…っ!

コワイ怖いって 恐れられるだけの私なら…もう いなくてもいい…

そうやって 思ったの。そうやって思って 泣いてたの…」


洸は 何も言わずに ココアを飲みながら 天満の話を聞いていました。

そして 天満が 話し終わって また泣き出したとき

何を思ったのか 急に立ち上がり、いいました。


「天満ちゃん、夕陽ヶ丘に行ってみない?」


「…夕陽ヶ丘?」


急な洸の言葉に 天満は まだ 涙のあふれる目をぱちぱちさせながら

聞き返しました。


「うん。夕陽ヶ丘。すっごく素敵なところだよ、絶対気に入るから!」


そういうと 洸は天満の手を引いて くれよんの家から出ました。

洸は ずっと天満の手を引いたまま 一度も振り返らずに

つぎつぎとくれよんの家を通り過ぎながら 歩いていきます。

天満にその背中は、励ましているようにも、笑っているようにも見えました。

そうこうしているうちに

丘のふもとまできていました。

見上げると その丘は、夕陽をいっぱいに浴びて 

ゆうやけいろに染まっていました。

それは 燃えているようにも見えるほど…。

天満が見とれていると 洸が言いました。


「天満ちゃん。…空、不思議に思わない?」


洸に言われて 視線を丘から空へと上げてみると

そこには 大きな太陽 そして見事な夕焼け空。

…でも、そのすぐとなりは 青空だったのです。


「…へ?」


思わず出てしまった 天満の間抜けな声を聞いて

洸は くすっと笑うと、


「くれよん村の空は世界でただ一つ。夕焼けと青空が混ざった空なの。

ずっと 混ざったままだよ。きっと くれよん村は

夕焼け空と青空の真ん中の空間にあるんだね…。」


と言いました。


天満は もう一度 空を見上げました。

オレンジと青…美術の教科書には 反対色で

混ぜると 黒っぽい色になるって描いてあったのに

ココでは そんなこと全然ない…本当に不思議だと思っていたのでした。


「さぁ 天満ちゃん行こう!」


丘を登り始めました。丘は 思っていたより急だったので

天満は途中、何度か転びそうになりましたが

それでも 根性でのぼりました。

汗が、口や目の中に入ってきても ふくこともなく

一歩一歩確実に のぼっていったのでした。


のぼり終えた天満を待っていたのは

……… 素晴らしい景色………。

そして、オレンジ色のくれよんと、おひさまでした。

頂上についた瞬間、ぱぁっと あったかくなって

天満は 暖かさに包まれました。

すると その暖かい光の中に浮かび上がったのは

くれよんのシルエット。

ココと同じ。夕焼け色をして のんびりうとうととした

くれよんでした。


周りを見てみたら 洸がいなくなっていました。


「アレ…!?」


慌てた天満を見て オレンジ色のくれよんは、のんびり言いました。


「アマミ、ダイジョウブなのです。洸は また後で迎えに来るって言ってたから…。

ここにすわるといいのです…」


甘い ミルクみたいな声。どこか懐かしい気持ちになるような…。

そう、風の中から聞こえた声とそっくりでした。


「…あなたが私をくれよん村に呼んでくれたの?」


天満は聞いてみました。くれよんは 何もいいません。

ただ こっくり…こっくり…。

それをみて 天満はなんだか 安心したような気持ちになって

その場に座り込みました。すると、何故か

立っていたときよりもたくさんの光が 天満を包み込んでくれました。

それはそれは 心地よく、天満はやっと 返事をしなかったくれよんの

気持ちがわかった気がしました。

オレンジくれよんが ぽつり…といいました。


「天満は どうして…泣いていたのですか…?」


天満は はっとして オレンジくれよんを振り返ってみました。

おれんじくれよんは こっくり…こっくりとしたままです。

天満もまた ぽつり…と言いました。


「裏切られた気分だったの…。友達に…。本当に大好きだったのに…」


おれんじくれよんは こっくり こっくりしながら でも確実に、いいました。


「天満は?」

「…え?」


天満は聞き返しました。なにが 天満は?なのか わからなかったから…。

おれんじくれよんは 言いました。


「天満は…?天満は 嫌いなのですか?嫌いになってしまったのデスカ?その子のことを。

裏切ったその子のことを うらんでいるんですか?

天満は今、その子とどうなりたいんですか…?」


ミルクのような 甘い 甘い声で、でも 確実におれんじくれよんは 確かにいいました。

天満は しばらく きょとんとした顏で おれんじくれよんを見つめていました。


――――――――――  そうだ…私は…、私はどうしたいんだろう?

美由にあんなコト言われて 悲しくって…悲しくって?

それから どうしたんだろう?

私は 美由の事… 嫌いになったの?

ううん。違う。裏切られても 私は … 私の友達は …――――――――――――――


電撃が 走ったように、天満は ひらめいたのです。

いいえ、ひらめいたというよりも 本当の答えを見つけた…そんな感じでした。

そうだ。美由が どうであっても、私は、私は…

私は 美由が 好き。前と変わらず 美由が好きなんだ…



そうだ…私は 美由が好きなんだ…

今でも 好きだと思ってるんだ………


「ありがとうっ!おれんじくれよんさん!!!!」


天満は、走らずにいられなくなっていたのでした…。

自分が今まで勘違いしていた事を 吹き飛ばすかのように

丘を下っていました。

夕焼けのあたたかな光が 天満の背中をあたたかく押します。

今なら 素直にいえそうな気がして

天満は 走りました。


走って走って走って走って……… …… … …










ぱあっと 視界が開けたかと思うと

ソコは 自分の家の前。


「…?」


天満には 今までのことが 夢のように感じられました。

だって 自分は ランドセルを背負っていましたし

ちょうど 5時のサイレンが鳴ったところだったからです。


「おかしいな… 私が 秘密の場所にいたときに

もう、サイレンは鳴っていたはずなのに…」


天満は ひとり、つぶやきました。

前を向くと ソコには 夕焼けが輝いていました。

くれよん村の丘の上から見た おひさまはもっともっと

大きかったから、なんだか おひさまから遠ざかったような気分でした。


その時…おひさまのまぶしい輝きの中から 何かが飛んできました。

その何かは おひさまのかけらが、宇宙のはてから

流れてきたように ゆるやかな曲線を描きながら

天満の手の中に…


それは… 小さなビン…。そのこびんのなかには

透明な真珠のような粒が光っていて  

こびんのフタには、紙がまきつけてありました。 


――――――――――――――――――――――


天満ちゃんへ


これは 天満ちゃんの流した涙だよ。

とっても綺麗に輝いているでしょう?

天満ちゃんの 綺麗な純粋な 涙の種で

笑顔を咲かしてね。

何をすればいいかって?

自分に素直になってみて。

天満ちゃんが今何をしたいの?どうしたいの?

自分の心の声を聞いて がんばってね。

そしたら 種は開くよ…


くれよん村 村長  風森 洸より


――――――――――――――――――――――


あ…やっぱり ゆめじゃなかったんだ…

天満は思いました。


「私がしたい事…」


私は どうしたいんだっけ…


「あっ…!!!」


そうだった。美由の所に…美由に言いに行きたかったんだ!

友達でいてください… 私は 美由のこと大好きだから…。


天満は また 走り出しました。

今度は、直接、伝えに行くために。

本当の気持ちを 伝えるために。

涙の種を咲かせるために…


ピンポーン……   カチャ…「は~い、どなた…」

「美由…っ…」

「天満…。」


「美由、美由、私ね 私、美由の事大好きなの。

美由に嫌われても 私は、美由のこと大好きなの。

できたら 嫌われたくない。今までどおり

一緒にいてほしいの。怖いかもしれないけどっ…」


天満は 自分でも何を言っているか わからなかったけれど、

頬に涙がつたっていたけれど

必死に必死に 美由に言いました。


美由は、しばらく 下を向いて黙っていました。

天満は そんな美由をずっと見つめていました…が、

美由の頬から 涙が落ちた事は見ていたのでしょうか…?


「天満…天満、ごめんなさいっ!!」


美由の口から出たのは 意外な言葉でした。

美由は それから はげしくしゃっくりをあげながら

天満に抱きついてきました。


そのあと、美由は、他の女子が天満の悪口を言っていて

それに参加してしまった自分が はずかしくて

天満と一緒にいる資格がないと思った…そんなことを

しゃっくりをあげながら 話してくれたのでした。


でも…

そんなこと 天満には どうでもよかったのでした。


天満のポケットの中では…天満の涙の種が 芽を出し

花を咲かせていた事に 天満は いつ気がつくのでしょうか…



ほらね…涙の種は ひょんなところで現れて

ひょんな所で咲くんです。

天満の涙の種は 綺麗に咲きました。

涙の種は 咲くと、笑顔の花になるんですよ…

さぁ あなたもさかせてください。

あなただけの …笑顔の花を  ……




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