第12話 蹂躙終わって……

 さて、アタイはほとぼりが冷めるまで山に籠るか。


「お、お前……フィアちゃんか?」

「ん?ああ、アタイはフィアだよ。すまなかったな。正体を隠して……。アタイはそこの山のドラゴンなんだ。」

「……そうであったか。」

「迷惑になる前に帰るよ。」


 アタイがそう言って山へ帰るために飛び立とうとすると、


「おい、フィアちゃん、ちょっと待ってくれ。」

「なんだい?」


 冒険者のリーダーが声をかけてくる。


「ああ、うちの店の料理人があんたが食べて感想を言ったメニューは確実に売れるので店としてはありがたいと言っていた。それに……。」

「それに?」


 その冒険者のリーダーは親指を後ろに向け。


「実はまだ門を閉めてなかったんであんたがドラゴンに変身する姿を町のみんなが見てるんだわ。」

「え?」


 アタイが門の方を見ると、門は全開で大通りが丸見えで、多くの住民が歓声を上げながらこちらを見ていた。


「ついでいうと、あんたはこの町じゃあ《赤髪の大食い食べ歩き少女》として有名で、あんたがよく食べ歩きをする店はうまい店と認識されて評判なんだ。大食いに関しては……あんたがドラゴンだったって聞いて納得したよ。」


 そう言うとコクコクと頷く冒険者と騎士たち。


「それに、町の恩人たるフィアさんをこのまま帰したら、私もこも町を治める子爵として立つ瀬がないので、祝勝会には参加して貰いたいのだが。」

「ん?グローケンってここの領主だったのか。」

「ああ、そうだ。あの時は正体を隠してすまなかったね。私がこの町の領主のグローケン・デニス・ボルストラ子爵だ。この町の英雄たるフィア嬢、どうか祝勝会に参加してほしい。」


 そう言って膝をつき頭を下げるグローケン。


「……う~ん。そこまで言われちゃ参加しないわけにはいかないね。」

「おお、ありがとう。このまま町にいて貰えるとありがたいが、無理強いはできんからな。」


 そう言うグローケンの言葉にアタイはがっはっはと笑い。


「そうだな、アタイはドラゴンだからここにいる全員がかかってきても負けはしないさ。」

「それ以前に蹂躙されますよ。」


 そう言い笑うグローケン。


「じゃあ、行こうか。祝勝会だと言うなら旨いもんが腹一杯食えるんだろう。」


 アタイがそう言いながら人化をする。


「そうですね、食料を食らい尽くされると困りますが、幸い食材の一部は手に簡単に入りそうですからね。」


 そう言い、騎士や冒険者たちにモンスターだったものの解体が始まる。


「フィアちゃんは町の中へ入ってくれ。俺たちは食材を回収したあと、町に帰る。」

「では、エスコートは私がやろう。」


 こうして、領主がドラゴンをエスコートして門を潜る。すると、町では大歓声が上がった。行きつけの店の店員がいたり、聖職者みたいな人物がなぜか私を崇めてひれ伏したり――――って、アタイは赤竜神として崇められてたんだっけ。そりゃ、ひれ伏されるなぁ。



 夕方になり、祝勝会が始まる。アタイは町の広場の一段高い場所に座らされ、グローケンの長い話が始まった。アタイは話を半分聞き流していたんだが、どうやら町の屋敷のひとつを贈呈されるらしい。別に巣から町まで飛んでくるからいらんのだけど。あと、報奨としていくらか金を貰えるらしい。それもいらんけど、貰えるなら貰っておくか。飯代はいくらあってもいいからな。


 グローケンの話が終わり、乾杯の音頭を取る。そして祝勝会のメインイベントの食事会が始まった。今回は町にある各店が大量に料理を提供しており、アタイはそれら料理が置いてあるテーブルを回っていった。たまに神殿の神官が声をかけようとするが、そこは騎士や冒険者がカバーしてくれる。そりゃあ、神殿の人から見たら神様と崇める存在だからなにか言葉を貰おうとしているのだろうけど、冒険者や騎士たちからも《赤髪の大食い食べ歩き少女》として注目を浴びるからなぁ。冒険者や騎士たちは、神官が神様として崇めて引っ付き回られて鬱陶しいから町に来なくなることを恐れているのだろう。確かに食べ歩きの邪魔になるからなぁ。

 アタイがテーブルを回っていくと、料理を提供している料理人が町を救ってくれたお礼と、また食べに来てくれと言ってくれた。それはアタイをドラゴンだとか神様とかではなく、常連客として話してくれるのが嬉しかった。


 祝勝会は一昼夜続き、町自体に被害がなかったので、そのまま日常に戻った。



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今回で第2章終了となります。


第3章ですが、後半はかなり重く、残酷シーンが多めになる予定で執筆に時間がかかると予想されます。そのため、少し時間を置いて再開する予定です。しばらくお待ちください。

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