第10話 肉パン

 翌日からアタイは街に飯を食いに行くことにした。とりあえず冒険者の店の酒場に行くことにしようか。


「お、フィアちゃんじゃねえか。どうした?飯でも食いに来たか?」

「ああ、そうだ。ニクドンだったか。あれをくれ。」


 それを聞いて店長は首を振る。


「残念だが、今日は肉丼を出せねぇ。」

「なぜだ!」

「ああ、昨日あの後肉丼が山程売れてな。まだ仕込みが終わってないんだ。」

「……そうか、食べられないのか。」


 アタイは項垂れた。


「代わりといっちゃなんだが、これを食べるか?」

「ん?なんだ。」


 店長が店の奥に入り、何かを出してきた。それは、パンを半分に切って肉を挟んだものだった。


「肉パンだ。本来はバケットを半分に切ってそこに塩漬け肉を挟んだものなんだが、昨日の肉丼の端切れ肉を挟んだものだ。」

「それは美味しそうだな。いただきます。」

「あ、ちょっと待った。そいつは持ち歩けるから外で食べな。幸い天気もいいから広場で食べるといいだろう。それに量もないから食べ歩きするんだろう?」


 ふむ、確かにその方が良さそうだな。


「そうだな、そうさせてもらおうか。」

「おう、じゃあまた来いよ。」


 アタイはこうして肉パンを持って広場まで行くことにした。




 アタイは広場のベンチで肉パンを広げる。


「さて、食べるか。」


 そして肉パンを一口噛る。お、これは……。


「旨いな。パンに肉のタレと肉汁が染み込んで若干柔らかくなってるのが食べやすさに繋がっている。そして、パンに染み込みすぎないように葉野菜でおおっているのがいいアクセントになってるな。まあ、味は昨日の肉丼に近いが、持ち運びできる分こういう風に食べるにはちょうどいいな。まあ量は少ないけど。」


 アタイはそう呟きながら食べていたようだ。周りにいたおばちゃんから声をかけられた。


「ちょっといいかい?」

「ああ、なんだ?」

「ひとつ聞きたいことがあってね。そのパンどこで買ったんだい?」

「ああ、肉丼を食べに行こうと行った冒険者の店の酒場で肉丼が仕込み終わってないからと言われて代わりに貰ったんだ。肉丼の端切れ肉で作ったらしい。」

「そうかい……。じゃあ、行ってみるわね。」

「ああ、売ってくれるといいな。」


 おばちゃんは知り合いだろうか他の人たちに話して冒険者の店の方に向かっていった。まあ、アタイの腹はまだ膨れきっていないんで他の店に行ってみるか。




 いくつかの店を梯子して冒険者の店の前を通ると、行列ができていた。あれじゃあアタイが食べに行けなさそうだな……。




 アタイはこの時すでに《赤髪の大食い食べ歩き少女》として認識されていたことに全く気づいていなかった。アタイが食べたものの感想を言うと店が繁盛するという噂で有名だったらしい。どうりで店に行くとよく「これ食べてみるか?」と言われるわけだ。

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