回想

第4話 安寧

 クシヤキのおっちゃんの話でアタイは昔のことを思い出していた。あれは二、三百年くらい前だったと思う。アタイがこの山に住み着いて120年位した頃だったかな。アタイの住処に冒険者が押し寄せていた頃だ。といっても、年に2~3パーティーが来る程度だったんだけど……。ある日、アタイの住処に16歳ぐらいの少女が冒険者パーティーと一緒にやってきた。


「ドラゴン様。お話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 冒険者たちが一緒なので臨戦態勢を取っていたアタイは、まさか話しかけられるとは思っていなかったので驚いた。


「何の話だ?」


 アタイは臨戦態勢を解くことなく、話に応じることにした。そもそもアタイは争いは嫌いだったので面倒なことがなくなるのを期待した。

 アタイが話に応じる姿勢になったことで、人間たちは驚いたようだ。


「話に応じていただけるのですか?」

「構わんよ。」


 今まで問答無用で襲いかかってきたんだから、話しようがなかったしな。


「では……、これ以上人間を襲うのをやめていただきたいのです。もし聞き入れていただけるなら毎年1人生け贄を捧げさせていただきたく―――――――。」

「いつもこの場所まで来て問答無用で襲いかかってくる人間を返り討ちにするだけで、こちらから人間を襲ってないぞ。」

「――――えっ?」

「…………えっ?」


 なんだ?何か話が噛み合っていないようだが……。


「ひとつ確認といこう。そちらの、人間の町でここのことはどう伝わっている?」

「あ、はい。近隣の国を襲って財宝を奪ったドラゴンがここに住み着き、周囲の町の財宝を目当てにこの山を拠点とするため住み着いたと。」

「ふむ。その情報は全て誤情報だな。なぜならアタイは今まで一度もこちらから人間を襲ったことはないし、この先襲う予定もない。ただここでのんびり暮らしているだけだ。」


 アタイがそう言うと冒険者の一人が声を上げる。


「だったらあんたの後ろにある財宝はなんだ!町を襲って得たものじゃないのか!」

「ああ、これか。こいつはこの住処まで来てアタイを襲ってきた人間を返り討ちにしたときの戦利品だな。なにせアタイを見た瞬間問答無用で襲ってきたんだ、アタイも死にたくはないから返り討ちにするだろう。それにあんたら人間も住処に押し入って襲ってくる人間を返り討ちにせず出迎えるのか?それに人間なんぞを食わずとも、食料にはさほど困ってはおらんしな。」


 声を上げた冒険者は言葉を失ったようだ。


「この周辺はアタイの縄張りではあるが、別に誰がいようと構いやしないよ。たまにオークやらミノタウロスを探して食うくらいだな。人間の生け贄なんぞ興味はないね。」

「そうですか。…………そうですね。ではドラゴンさんの縄張りに住まわせていただくということで、毎年町で育てた家畜を一頭ドラゴンさんに税――――というよりは家賃かな。家賃代わりにここに持ってこさせましょう。」

「ええーっ、お嬢さん、そんな話を勝手にしていいんですかい?」


 娘が言ったことに対して、冒険者の一人が反論する。


「別にいいじゃないですか。もしお父様が何か言っても『山のドラゴンがそう言った。』と言えば反論できないでしょう。それに、人を生け贄にするよりも町で育てた家畜を捧げ物にした方が反論も少ないでしょ。なにもしないで怯えて生活するよりも心の安寧は得ることができますし。」

「……確かにそうですけど。」


 そんなやり取りを聞いてアタイは面白くなってきたので、笑顔でこう言ってやった。


「じゃあ、あんたの言う通り、毎年家畜を一頭貰おうじゃないか。まあ無理なときは無くても構わんぞ。」


 これにはその娘も一瞬驚いた顔をしたが、すぐに微笑みを返してきた。


「ドラゴン様の御慈悲に感謝します。」


 こうして娘たちは山を降りていった。




 そしてこの年から毎年、アタイの住処に丸々と太った家畜が一頭送られてくることになった。それが変わったのは100年以上経ったある年の事だった。

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