第9幕 見よ、これが伝説の筋肉魔法なのだ!

 ラスボス、ヒーヨワーが瞬殺された後、黒くなった宝石マザープロテインが世界中のあらゆる生き物からプロテインを奪い取り、ガリガリーズへと変えていく。マジカル☆ドリーマーズの五人は自身の魔法でなんとか耐えているものの、宝石に攻撃を与えることができない。


 ちなみに世界は今、超巨大な台風のような暴風雨が吹き荒れている。空は真っ黒、地獄絵図。


 そんな中、バリアに包まれて無事なぷっちょ君は、黒い宝石の中に一筋の光を見出したのである。


「!!」


 その光が、ぷっちょ君の脳裏に過去の映像を映し出す。それは、歴代のマッチョ・キングたちがいかにしてマザープロテイン(繰り返すが、これは宝石である)の力を維持・制御してきたかというものだった。


「みんな……筋トレをしている」


 スクワット、腕立て伏せ、ベンチプレス……歴代の王たちが、宝石の前で限界までトレーニングをしている姿が浮かんできたのだ。


「そういうことか……」


 ぷっちょ君は理解した。マザープロテインは王の筋トレが生み出した努力の結晶なのだということを。宝石の中に詰まっているのは、努力、筋肉、汗。ヒーヨワーによって魔改造されてしまった宝石を元に戻すには……やはりこれしかないのだ。



「ふん! ふん! ふん! ふん!」



 マジカル☆ドリーマーズの面々は、近くから聞こえてきた怪しげな息遣いに驚く。なんとバリアに守られているぷっちょ君が突然、スクワットを始めたのだ。



「ぷっちょ君?」

「どうして今、筋トレを?」

 マジカル・エターナル、李紗、真弥の三人はなぜぷっちょ君がスクワットを始めたのか理解できていない様子だった。


あの子あいつ……」

「ボクたちを励まそうと……」

 マジカル・バタフライ、マジカル・オーシャンの筋肉組は、ぷっちょ君が筋トレをして自分たちを励まそうとしているのだと勘違いしていた。



「ふん! ふん! ふん! ふん!」


 スクワットが終わると、今度はその場で腕立て伏せを始める。黙々と回数を重ねていくぷっちょ君。じわぁっと体から汗が湧き出てくる。額に浮かんだ汗が、頬を伝い、顎の先からポトリと地面に落ちる。


「ふん! ふん! ふん! ふん!」


 ぷっちょ君の近くは、汗のプールが誕生していた。それほどまでに自分を追い込んでいるのだ。腕立て伏せを終えると、今度はお尻をついて膝を曲げ、クランチ(腹筋)を始めた。



「……本当にわけがわからないんだけど……」だんだんと気持ち悪がる李紗に対して、

「しかしお姉さま……だんだんと風が弱まってきている感じがしませんか?」と真弥が言う。


 そう言われれば……マジカル・エターナルが強力な力に耐えながら、空を見上げると確かに、さっきまでの夜のように空を覆っていた真っ黒な雲が少しだけ明るくなってきている感じがした。そして風も先ほどまでに比べると明らかに弱まっていた。



「もしかして、筋トレにマザークリスタルの暴走を防ぐ力があるというのってのか?」

 マジカル・バタフライとマジカル・オーシャンはお互いの目を見て「うん!」とうなづいた。



「ふん! ふん! ふん! ふん!」


 ぷっちょ君の腹筋が悲鳴をあげる。「はあっ、はあっ……きつい! でもここでやめるわけにはいかないんだ!」彼は汗だくになりながらも立ち上がり、再びスクワットを行う。


 ――僕はまだ王じゃないけど、一応この国の王子だ。僕の筋トレによって、確実にマザープロテインの暴走は収まりつつある。……もっと、もっと筋トレを。もっと、もっとマザープロテインに筋肉と汗を……。



 とっくに限界を超えていたぷっちょ君はそこでふっと力が抜け、意識を失い、倒れ……



 ガシッ!



「……蝶介! 秀雄!」


 なんと、倒れかかったぷっちょ君を、蝶介と秀雄が抱き抱えるようにして支えていたのだ。相変わらず彼らの筋肉は隆々としており、肩はメロンパン、腹筋はチョコレートと形容されるほどだった。


「え、二人とも変身解除しちゃって……大丈夫なの?」目を丸くして李紗がツッコむ。


「見てください、お姉さま……蝶介と秀雄お兄様の体から溢れ出るマッスルMパワーPを!」真弥が感動のあまり涙を流しながら、二人を指差すが、マジカル・エターナルにはそんなもの何一つとして見ることはできなかった。



「さ、一緒にスクワットしようぜ!」

「一人よりも、みんなで一緒にすれば限界をさらに超えられますよ! 超天才の僕が言うんだから間違いないです!」



 蝶介と秀雄はふらふらなぷっちょ君を補助しながら、一緒にスクワットを行っていく。ぷっちょ君の顔は、汗なのか涙なのか……いや、そこを詮索するのは野暮ってものだろう。嬉しそうに、筋肉の限界を超えていく。



「……ありがとう。君たちは僕のマッチョ・フレンズだよ」

「へっ、よせやい。照れるじゃねぇか!」

「アニキ! 嬉しそうっす!」



 おとこたち三人は笑顔を絶やすことなく、スクワットを、腕立て伏せを、クランチを繰り返していく。


 マジカル・エターナルがジト目で三人を見ていたが、ふと気づいてしまった。

「あ……嵐が……」



 いつの間にか嵐は止んでいた。

 そして、マザープロテインは乳白色の輝きを取り戻し、美しく光っていた。

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