第7話 いつだって急すぎる告白

「ということで、ライブステージを明日、開催します」


「「「……急すぎる!」」」


 たった1日、歌と踊りヴォーカル&パフォーマンス修練レッスンを積んだだけの俺たちに、無慈悲なオーリーはそう言った。


 今日も元気にノクタリア草原で修練を積むぞ! と意気込んでいたときに、オーリーはサラッと端的に告げたのだ。


 オーリーの告白は、いつだって急すぎる。


 イヴァンはデカい口をハクハクさせているし、ウルスラは美貌を歪めて口やら頬やらをヒクヒクさせている。


 俺に至っては、逆に冷静に頭を巡らせていた。前向きな現実逃避、ともいう。


 ——世間的には3日で完成させるとか、アリなのか? いや、俺たちがのんびりしすぎているだけ……っていう可能性も……。


 勇者一行パーティ養成機関で育った俺たちは、世間の時間感覚スピードと常識について行けないときがある。


 王都ゼランを旅立つときも、そうだった。


『よし、このまま魔王城に乗り込んで魔王を倒そう』


『そうじゃな、こういうのはサクッと終わらせるに限る』


『ですよねー! 装備品も壊れて大丈夫なように何本か買いましたし、回復薬も万能薬も買い占めましたから、いけますね!』


『魔王軍の拠点潰しはどうするのですか?』


『あっ、いっけねー……忘れてた⭐︎』


 そういうわけで、商業都市プラナにいるわけだ。

 そしてプラナで勇者としての活動ではなく、アイドルとしての活動に向けて準備をしているわけである。


 ——それにしても、明日? 明日、ライブステージ? アイドルってのは、たった1日、2日修練しただけでモノになるような職業なのか? 違うだろ?


 いくら俺が、俺たちが、常識皆無で世間の時の流れとは違う感覚を持っているといっても、それくらいわかる。


 デーブイデーの中の少年や青年たちは、誰もが真剣で、何日も何ヶ月も何年も修練し続けているように観えた。


 陣形フォーメーションだとか、通しだとか。曲すら与えられていないこの状況で、ライブステージだなんて。


 それを、こんな、ポッと出の俺たちが、いくら『アイドル』なる存在を知らぬ民が相手とはいえ……無理では?


 俺がオーリーに意見しようと口を開きかけたその時だ。


「すみません。実を言うと、明日の宿泊費も危うい状態なんです」


 再び勇者一行パーティの俺たちは、驚愕と衝撃を分かち合った。


「う、嘘ですよね、ちょっと前には一週間くらいは持つ、って……」


 一行パーティを代表して勇者・俺が、恐る恐るオーリーに問う。


 しかし、である。


 無慈悲なオーリーはなんの悪びれもなく、むしろ清々しいまでの潔さで、あっけらかんと告白しやがった。


「いいえ。ライブステージのために広場を押さえましたから、資金はすっからかんです!」





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