第5話 新しい技とか陣形……じゃない⁉︎

 歌と踊りヴォーカル&パフォーマンス——。


 オーリーから聞いたときは、新しい技か陣形の名前かな? なんて思ったものの、そんなことはまるでなかった。


 オーリーから金欠を訴えられた翌日。俺たちは修練のためにノクタリア草原まで来ていた。


「おっ、この動き……師匠から足捌きの修練が足りない、と不安がられていたが……これならいい練習になりそうだ」


 古文書『アイドルのすべて』には、古代魔道具アーティファクトがついていた。


 デーブイデーとかいうその古代魔道具アーティファクトは、魔力を流してアレやコレすることで、宙空に映像を映しだすことができるものだった。


 俺たちは、キラキラした内容のデーブイデーの映像を流して観ながら、試行錯誤を繰り返していた。


 ——な、なんだ!? めちゃくちゃ細身の少年たちが、めちゃめちゃ激しく踊り出したが⁉︎ えっ、嘘。あんな激しく身体捌いてんのに、ぶつからない……? えっ、やっぱりコレ、新しい技と陣形の極意では? や、やってみたい! あの動き、やってみたい!


 激しく動揺し、闘志を燃やしていたのは、俺だけじゃない。


「……ウルスラはどうです? なにか掴めました?」


片目瞑りウィンクの後に魔法で光効果を入れようと思ってな。これがなかなか繊細な魔力捌きが必要で……ふは、やりがいがある」


「僕の方もロングトーンの発声練習は、咆哮と威嚇のいい訓練になります!」


 音声は出ず、俺たちが使っている言語体系とは異なる言語と文字。

 そんな得体の知れない情報で溢れているデーブイデーを観ながら、俺たちは三者三様に技術スキルを習得していった。


 俺は主に、身体の捌き方を。

 ウルスラは、魔法の運用方を。

 イヴァンは、プレッシャーの出し方を。


 ——ほ、ほんとにこれで夢と希望と愛を売るアイドル(オーリーに何度も発音を矯正された)になれる……のか? 武闘演舞にしか見えないんだが?


 俺が若干の不安を抱いているのをよそに、イヴァンは積極的にオーリーに助言を求めていた。


「あ、オーリーさん! ちょっと聴いてみてください! 見よう見真似でやってるんですが……この映像、音が聞こえないから不安で……」


「わかりました。どうぞ、声を出してみてください」


「〜〜〜♪♪♪!!!」


 イヴァンの声量は凄まじかった。

 ビリビリと震える空気、固まる魔物モンスター


 ——お、凄いなイヴァン。向こうで魔物モンスターがビクついてんのに、俺たちには影響がない。


 けれど。


「イヴァンさん、加減を覚えてください。それでは観衆の方々が萎縮されてしまいます」


 キリリと厳しいオーリーの声が飛ぶ。その声は真剣そのもので、指導者の声をしていた。


「はーい、すみません! ……あ、アレクさん。ちょっと僕と合わせてみませんか、重ねるといい感じに相殺されると思うんですよね……」


「わかった、やってみよう」


 イヴァンの提案に乗った俺は、カウントを合わせて声を出す。


「「〜〜〜♪♪♪!」」


 イヴァンと俺の声が合わさり混ざったソレは、イヴァンひとりで声を発したときよりも、まろやかな響きになっていた。


 ——うわ。気持ちいい!


 イヴァンの突き抜けるような高い音と、それを支える俺の低い音。

 戦うこと以外でこんなにも全力で声を出したことは、はじめてだった。


「うわっ、アレクお前……いい声しとるの。ゾクっとしたわ」


 発声が終わって真っ先に肩を叩いてくれたのは、ウルスラだ。ウルスラは美貌の顔を輝かせ、嬉しいことを言ってくれた。


「マジですか! やった、ウルスラに褒められた!」


 滅多に他人を褒めないウルスラに褒められて、拳を握って確かな満足感に浸ってしまう。


 褒められ忘れたイヴァンは、というと、ウルスラにダル絡みしていた。


「ええ〜、ウルスラさん、僕は? 僕はどうですかイイ感じでしたかゾクっとしました?」


「近い近い、離れろイヴァン!」


「ヤです、ちゃんと評価してください!」


「……ウルスラ、イヴァンは褒めて欲しいんだと思いますよ」


「それがわかっていて褒めるお人好しがどこにいる。ここにはいない!」


 と、そんな感じで俺たちが戯れ合っている一方で、オーリーはひとり、そろばんを弾いて含み笑いを浮かべていた。


「これなら……これなら、贅沢しなければ次の街までの旅費くらいは稼げる……のでは!?」


 悲しいほどの現実に、俺はオーリーの呟きを聞かなかったことにした。


 俺とイヴァンの併せセッションに興味を惹かれたらしい魔物モンスターの群れが、地平線の彼方からドドドと押し寄せてくる影を視界の端で捉えたからだ。





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