5 デート


 告白をしてから初めての休日を迎えた。

 今日はなんと、海凪さんとデートをする日だ。

 待ち合わせ場所に着いた僕は、大きなあくびをする。


 「ふわぁ……っ、眠い」


 というのも、昨日は楽しみ過ぎてあんまり寝れなかったのだ。だって、相手はあの海凪さんだぞ? 遠足前の小学生以上にドキドキするのは推して知るべしだ。

 それでも、無様な姿は見せられない。服装もバッチリ決めてきたし、お金もたくさん持ってきた。

 あとは彼女に楽しんでもらえるか、それだけ。


 「温森くん、おまたせ」

 「あ、冷奈……――っ!?」


 後ろを振り返った瞬間、僕は息を呑んだ。

 だってそこにいたのは女神だったのだから。いやそう表現したくなるほど美しい海凪さんなんだけど。

 彼女は白のロングワンピース姿だった。清楚なその雰囲気が、いつもの氷のような面影を溶かしていて、普段はあんまりお目にかかれない柔らかさのようなものを感じる。とにかく綺麗だ。


 「どうかしら?」

 「うんっ、すごく似合ってるよ」

 「ありがとう」


 僕の言葉に、ふわりと柔らかな笑みを浮かべる海凪さん。え、そんなに簡単に笑顔を見せてくれちゃうの? ドキドキが止まらないんだけど!

 きっと顔が真っ赤になってるだろうけど、今日は日差しが強いので勘違いしてくれるかもしれない。って、ぜんぜんこっち見てないんだけど。

 

 「どうしたの、そんなにキョロキョロして? 珍しいものでもあった」

 「こういうとこ来るの、初めてだから」

 「え?」


 彼女の発言を聞いた僕は、キョトンとした。だっていま僕たちがいるのは、遊園地だったから。

 子供のころであれば誰しも行ったことのあるような、割とメジャーな娯楽施設。そこに行ったことがないって、もしや箱入りか?

 あんまり詮索をして怒られるのは嫌なので、僕は笑いかけてあげることにした。


 「そっか。じゃあ楽しんでもらえるように、僕がリードしてあげるね!」

 「温森くん……」

 「ほら、いこっか?」

 

 海凪さんの手を掴み、指を絡めてやる。いわゆる恋人つなぎってやつだ。

 つ、付き合ってるんだし、これぐらいはいいよね!? 情熱的じゃない!? と、焦りながら横を見れば、喜んでくれてるらしかった。

 周りの視線が痛いけど、まぁ慣れるしかないか……。


 最初に訪れたのは、ジェットコースターだ。そこそこ高くて、まずまず速い、なんともいえないクオリティのもの。

 そんな微妙としか言えないようなものだったけど、海凪さんは楽しんでくれてたようで。


 「すごかったわね……車より速いかもしれないわ。息をするのも一苦労だったわ」

 「そ、そっか……あ、冷奈、髪が乱れちゃってるよ」

 「温森くんに整えてほしいのだけど」

 「ごぉ~めんよぉ! 手櫛しかできないけど我慢してねぇ~!」

 

 カバンに手を突っ込んだ(おそらく中にスマホが)タイミングで僕は彼女の髪を梳いてあげた。うわっ、髪サラッサラじゃん! めっちゃ気持ちいい……。


 続いてメリーゴーランドなるものに乗ることになった。振り落とされるかもしれないと海凪さんが言うので、二人で乗ることに。


 「すごい、すごいわ! 景色が目まぐるしく変わっていく」

 「ちょ、冷奈っ、危ないから暴れないで!」


 どうにか周回を終えた頃には、僕は疲弊していた。まぁ、海凪さんが楽しそうだったからいいんだけどね。

 

 「次はあそこに行きましょう」

 「え、ほんとに行くの? やめといたほうが」


 海凪さんが指をさしたのは、お化け屋敷だった。この遊園地のお化け屋敷は怖いということを、僕は昔経験している。なので正直お断りしたい。

 

 「私、行きたいのだけど」

 「……っ、じゃあ、行こうか」


 そんな子供みたいに純粋な目で見つめられたら、断れるはずもない。海凪さんに腕を引かれる形で、僕はそこへと乗り込んでいく。

 

 「うぎゃあぁぁぁ!」

 「うおぉぉぉっ!!」

 「くぁwせdrftgyふじこlp――!?」


 お化け屋敷から出た瞬間、僕はその場に膝をついた。ちなみにいまの悲鳴は全部僕のやつだ。海凪さんはほとんど微動だにせず、普通に歩いていた。その様子にオバケ役の人の方がビックリしてたぐらいだ。


 「温森くん、驚き過ぎじゃないかしら?」

 「ぜぇはぁ……そ、そうかな?」

 「まぁいいわ。私、お腹が空いてきたのだけど」

 「それなら、フードコートに行こうか。いろんなものがあるからさ」

 

 僕は海凪さんを連れて、近場のフードコートに向かう。

 メニューを見ると、カレーとかラーメン、ハンバーガーとか定食などさまざまそろえられていて。

 うーん、これは迷ってしまうな。どれも美味そうだ。

 

 「れ、冷奈はなにが食べたい?」

 「私は人の温もりが感じられるご飯が食べたいわ」

 「それは、全部そうなんだけど」

 

 二人であれこれと悩んだ結果、僕はラーメン、海凪さんはオムライスを頼むことになった。

 注文を終え、並んで空いている席に腰かける。箸を取り、麺をすすっていく。


 「ん~、美味い。醤油もあっさりめでいいなぁ」

 「温森くん、一口欲しいのだけど」

 「え、あ、うん。はいどうぞ」

 

 僕はおぼんに乗ったままのラーメンをスッと差し出す。けれど、海凪さんは鋭い目をさらに細めた。


 「誰も全部欲しいとは言ってないわ」

 「いや、一口食べていいよ? ってつもりで渡したんだけど」

 「そう」


 ラーメンから目を外した彼女は、カバンに向けて手を伸ばしていく。あれっ? これってもしや……。


 「ごめんごめん! お化け屋敷のあとだから、ちょっと気が動転してて! 気づいてあげるのが遅くなっちゃったなぁ!」

 「なに?」

 「あーんしてあげるよ! 少しだけ待っててね!」


 僕の言葉にかすかに口角を上げる海凪さん。どうやら判断は間違ってないらしい。

 渡したラーメンを引き戻し、レンゲにひと口ぶん乗っける。それを彼女の方に差し出すと、小さな口をめいっぱい開いて、パクついた。


 「んっ……んっ、おいしいわ」

 「そ、ならよかった!」

 「お返しに私のもあげるわ」

 「え、ほんと? ありがと!」


 スプーンにひと口ぶんのオムライスを乗っけてくれた海凪さんは、僕の方へと差し出してくる。もちろん、食べないという選択肢などない。

 アホみたいに頬っぺたを緩ませながら、大口を開けてパクついた。


 「ああっつい――っ!? はふはふっ!」

 「どう、おいしい?」

 「おっ、おいひいれふ……!」

 

 正直、熱すぎて味とか分かんなかったけど、大きく頷いてみせる。すると満足そうに微笑む海凪さん。あ、可愛い。


 それから、お互いにパクパク食べ進め、ぺろりと平らげた。

 満腹感を覚えてお腹をさする僕をよそに、キョロキョロと辺りを見回している。


 「どうしたの? また行きたいとこあった?」

 「次は、あれに乗ってみたいわ」


 彼女が指をさしていたのは、観覧車だった。

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