第12話 クズとハーレム?

 昼休み。


 今日は2人きりでお弁当を食べている。


 朝宮さんと。


「……えっ?」


「てな訳で、あたしもイッチーとデートしちゃった」


 彼女はどこか照れ臭く、また嬉しそうに言う。


「そ、そうなの……何でまた?」


「それは……もう、聞かないでよ」


 ぽよんっ。


「あっ」


「あっ、ごめん。うっかり、おっぱい触っちゃった」


「ちょ、ちょっと、うっかりって」


「でも、アッキーのおっぱいが、そんなに大きいのがいけないんだよ?」


「う、うるさいわねぇ。あなたこそ、大きいじゃない」


「えへへ、それほどでも~」


「……ちなみに、あの男と、どんな風に……デートしたの?」


「あっ、やっぱり気になる?」


「べ、別に。ただ、私は……」


 モゴモゴとしてしまう。


「服を買ってもらったよ」


「そうなの?」


「うん、アッキーをダシにして稼いだお金で」


「あの男め……」


「その後、ラーメンを食べたよ」


「ラーメン? デートで?」


「うん。本当は、アッキーと同じクレープが良かったんだけど。イッチーが甘いのは嫌だって」


「ひどい男ね。ていうか、あの男に聞いたの? その、私たちが……」


「うん、仲良く同じチョコ味のクレープを食べたんだったね」


「べ、別に、仲良くなんて……」


 またしても、モゴモゴしてしまう。


「あっ……おーい、ザッキー!」


 ふいに、朝宮さんが大きな声を出す。


 私も視線を向けると、その先に1人の女子がいた。


 失礼ながら、メガネをかけた地味な見た目。


 けれども、確かな存在感を放っている。


 不思議な魅力を持った子。


 山崎千尋さん。


「あ、朝宮さんと月島さん」


 彼女はこちらに歩み寄って来る。


「どうしたの? こんなところに1人で」


「えっと、今日はお天気が良いから、わたしも中庭でお弁当を食べようかなって」


「そうなの~? じゃあ、ここどーぞ」


「へっ? でも……」


 山崎さんは遠慮がちな目を私に向ける。


「どうぞ」


 ニコッと微笑みを返すと、山崎さんはぺこっと頭を下げて座る。


「ねえ、ザッキー」


「えっ?」


「ちょっと、お弁当を見せて」


「へっ? い、良いけど……」


 山崎さんは、パカッと弁当箱を開く。


「ふむ……普通だね」


「う、うん。どうして?」


「いや、あたしよりも1カップ上のお乳を育てたのは、どんなごはんかなって」


「朝宮さん、いくら女子同士とはいえ、セクハラよ?」


「うるさいよ、アッキー。同じFカップだからって、余裕ぶっこかないで」


 ごめんなさい、本当はGカップだなんて、言えない空気ね……


「で、でも、わたしは大きくても……2人みたいに、モテないし。触らせる相手もいないから……」


「おやおや、ザッキー。その言い方は……誰か触って欲しい人がいるのかなぁ~?」


「そ、そんなことは……」


「てか、ここにいる3人とも、イッチーのことが好きでしょ?」


「違います」


「否定はやっ。もう、アッキーのツンデレは良いよ」


「ツ、ツンデレなんかじゃ……」


「ザッキー、実はあたしらさ、イッチーとデートしたんだよ」


「そ、そうなの?」


「うん、だから、公平を期すためにも、ザッキーもイッチーとデートしとく?」


 朝宮さんは言う。


 山崎さんは少し考えるようにしてから、


「……ううん、わたしは大丈夫」


「えっ、どうして? ザッキーも、イッチーのこと好きでしょ?」


「……正直、ずっと気になっているよ。告白された、あの時から」


「でしょ?」


「でも……いま無理してデートする必要はないかなって」


「どうして?」


「デートって、何だか特別なものだから。付き合う前なら、なおさら。けど、わたしは何気ない日常の中で見つめる竹本くんが……」


 山崎さんは、それ以上は言葉にせず、口元で微笑む。


「むむむ、ザッキー。やっぱり、侮れない子だね」


「そ、そんなことは……わたしも、2人みたいに魅力的だったら、自分から竹本くんを誘っちゃうかも」


「そっかぁ。まあ、おっしゃる通り、あたしは自分から誘ったけど。そういえば、アッキーは?」


「私は……最初、彼が私をダシにお金を稼いだお詫びに、何かごちそうしてくれるって言って」


「うんうん」


「その日の放課後に、行こうって誘われて」


「ふんふん」


「でも、その……改めて、休日にして欲しいって言ったの」


「つまり、アッキーも自分から誘ったってことね?」


「そ、そうなっちゃうのかしら?」


「なっちゃいますね~、ムッツリスケベのアッキーさん♡」


「だ、誰がムッツリスケベよ」


「じゃあ、ドスケベさん?」


「朝宮さん、ビンタするわよ」


「ごめんなさい」


 その時だった、


「よう、ア◯ズレども」


 出会い頭に、そんな失礼極まりないことを言うのは……


「あっ、イッチー」


「ほう、巨乳2人が……地味子をサンドか」


「ちょっと、イッチー。いきなりセクハラなんだけど~?」


「そうよ、自重しなさい」


「ていうか、ザッキーは……」


「あ、朝宮さん」


 山崎さんが、慌てて朝宮さんの口を塞ぐ。


「むぐぐ……そっか、内緒だった」


「すまん、百合の最中なら、立ち去るぞ」


「いや、別に百合ってないけど……どしたの?」


「特に用事はない。ただ、散歩をしていただけだ」


「そっかぁ、教室で一緒に喋るお友達がいないんだね?」


「ああ、そうだな。あいつらは所詮、俺にとってただの顧客だ」


「クソ最低な男ね。そして、私たちは商品ってことかしら?」


「さすが、物分かりの良い女は好きだぜ、月島」


 竹本くんはビシッと私を指差す。


「本当に腹立たしい男ね……」


「はいはーい! あたし、イッチーのために働きまーす!」


「ちょっと、朝宮さん?」


「その代わり、ちゃんと一生、愛してね?」


「ああ、そうだな。お前が俺の役に立つ限りは」


「本当にクズ! でも、そこが好き♡」


「しっかりしなさい、あなた」


 私はため息をこぼす。


「あの、竹本くん」


 ふと、山崎さんが声を出す。


「んっ、何だ?」


「今日の放課後って、何か予定はある?」


「えっ?」


「へっ?」


「いや、別にないが?」


「わたし、本屋に行きたくて。今後の人生のためになる本を選びたいんだけど……良ければ、竹本くんにアドバイスをもらいたいなって」


 山崎さんの予想外の発言に、私と朝宮さんは口をパクパクさせる。


「ほう、山崎よ。お前はやっぱり、面白い女だな」


「うん、ありがとう」


「よし、気に入った。俺の貴重な時間を、お前のために使ってやろう」


「ありがとう、竹本くん」


「では、また放課後にな」


 そう言って、竹本くんはサッと去って行く。


 彼の姿が見えなくなった頃……


「……って、ザッキー!」


「えっ?」


「さっき、イッチーとデートしなくても良いって言ったじゃん?」


「ああ、うん、けど……やっぱり、ちょっとしたくなっちゃった」


「何それ、ちょっとエロいんだけど」


「いや、どこがよ」


 こうして、山崎さんもあの男とデート(?)することになった。




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