第10話 将来目線
俺は決して引きこもりという訳ではないが、2週連続で外出するとなると、正直に言ってしんどい。
もし、これがどうでも良い奴の誘いなら、適当な理由をつけて当日ドタキャンをかますだろう。
けど、今日の相手は……
「イッチー、おまたせ~♪」
見るからにキラキラでリア充なやつ、朝宮がやって来た。
トレードマークのサイドテールが揺れる。
そして、その豊かなモノも。
「おい、あまり走るな」
「へっ?」
「乳揺れ、周りの男が見ているぞ」
「ほぇっ!?」
朝宮は両手で胸を覆い隠す。
「……イッチーのエッチ」
「いや、むしろ感謝しろよ。周りのスケベどもから、お前を守ってやったんだぞ?」
「ふん、とか言って、普段からあたしの胸をガン見しているくせに」
「おい、ガン見なんてしてねーよ。チラ見だ」
「って、どちらにせよ見ているんかい!」
ベシッ!
「おふっ……だから、俺はお前らみたいに胸部装甲が厚くないの」
「てか、そのお前らって、アッキーのことも含んでいるの?」
「そうだよ」
「……今はあたしのことだけ、考えて」
「えっ?」
ふと見ると、朝宮はどことなく、潤んだ瞳でジッと俺を見つめている。
「ああ、分かったよ。どの道、お前はうるさいから、他の思考が遮られる。
「はい、次はお腹を殴りまーす」
「おい、静かなるバイオレンスやめろ」
こうして、朝宮とのデートがスタートする。
まあ、あくまでも、練習だけどな。
「ちなみに、朝宮は今まで、男とデートしたことあるのか?」
「どうして、そんなこと聞くの?」
「気になるからだよ」
「ふぅ~ん? もし、あたしが他の男子とデートしていたら、どうなの?」
「がっかりするな」
「おっ?」
「将来、グラドルになった時の商品価値が下がるから」
「って、うるさいよ! 結局、あたしのことそんな風にしか見ていないんだね!」
「お前は本当にうるさいな~」
「だって、イッチーが……」
「まあ、俺はそんなに騒がないからな。お前がいてくれると、その場が明るくなって良いよ」
「イッチー……えへへ」
「まあ、それは主に、他の奴らもいる時、気まずい沈黙が生まれなくて済むって話で。2人きりの時は、やっぱりちょっと、キツいな」
「ねえ、思い切り殴ってあげようか?」
「だから、暴力はやめろって」
「違うよ、おっぱいで♡」
「えっ? いや、確かにお前の胸は高校生にしては大きいけど、さすがにそのレベルの爆乳ではないだろ?」
「……イッチー、嫌い」
「別に嫌っても良いけど、ちゃんと仕事はしてくれよ?」
「えっ、ていうか、将来もしあたしがグラドルデビューしたら、イッチーがマネージャーするの?」
「ああ、それも良いな」
「ふぅ~ん?」
「で、将来的に、女社長になった月島に、お前のこと売り込むから。だから、お前も今のまま、ちゃんと月島と仲良くしておけよ?」
「…………」
「また怒ったか?」
「……ううん、もう呆れているの。イッチー、自分で言うのもなんだけど、あたしってモテるんだよ?」
「ああ、知っているよ。明るくて可愛くて、巨乳だし。オタクにも優しいというか、みんなに優しい良い子だし。そりゃあ、モテるよな」
「うっ、そ、そんな風に言われると……照れるな」
「ただし、俺にだけは暴力的なのがマイナスだ」
「それはイッチーのせいでしょうが」
「まあ、でもみんなのアイドルしていると、ストレスも溜まるだろうからな。どうしようもなくなったら、俺のことサンドバッグにしても良いぞ?」
「イッチー……」
「その代わり、これからも俺と仲良くしろよ? あくまでも、表面上だけでも良いから」
「アハハ、本当にクズだね」
朝宮は笑う。
「ねえ、イッチー。あたし、服屋に行きたい」
「んっ? ああ、良いぞ」
「じゃあ、レッツゴー♪」
朝宮はまた元気にノリ良く歩き出す。
俺はその後ろ姿を見た。
こいつも、月島に負けず、良い尻だな。
おっと、いけない。
また、他の女のことを考えてしまった。
「もう、イッチー? ボーっとしてないで、早く早くぅ~!」
「お前がせっかちなんだよ」
「だって、1分1秒でもムダにしたくないんだもん……デートの時間」
「朝宮……」
「あれ? 珍しく、ジーンと来ちゃった?」
「ああ、そうだな……お前、やっぱりグラドル向きだよ」
「はっ?」
「そうやって、彼女目線で彼氏目線のファンに訴えたら、クソほど人気出るぞ」
「あっそうですか~」
「おい、朝宮、ちょっと早足がすぎるぞ?」
「ごめん、付いて来ないで」
「朝宮」
「何よ?」
「スカートめくれてんぞ」
「えっ、ウソっ!?」
「嘘だよ」
「……イッチー、嫌い」
「あー、その表情もたまらんわ」
「どうせ、グラドル的にでしょ?」
「まあ、そうだけど……俺もうっかり惚れないように、気を付けないとな」
「ほえっ? ふ、ふぅ~ん?」
「よし、将来への投資だ。お前に好きな服、買ってやるよ」
「えっ、ホントに~? あたし、遠慮しないよ~?」
「安心しろ。まだ、金は残っている」
「それって、もしかして……アッキーをダシにして稼いだお金?」
「ああ、そうだ」
「やっぱり、イッチーって、クズだね」
なぜか、飛び切りの笑顔で言われてしまう。
「気に食わないか? だったら……」
「ううん、良いよ。ほら、早く行こ♪」
「おい、腕を組むな。カップルじゃないのに」
「これも練習、練習~♪」
「まあ、そっか」
とりあえず、服屋を目指す。
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