ずっとバカにしていた彼が実はモテモテと知った彼女の理性が崩壊中

三葉 空

第1話 変わらないようで、変わる世界

 高校2年生になったからと言って、特別に何かが変わる訳でもない。


 ただ、クラスメイトの顔ぶれが変わるだけ。


 それはさして、重要なことじゃない。


 若い頃は、友達との関係で大いに悩むものだけど。


 それだって、社会に出れば、雲散霧消うんさんむしょうする。


 それくらい儚く、あっけない関係。


 だから、そんなことで悩むくらいなら……


「――あら、見知った顔ね」


「ん?」


「新学期早々、そんな風に踏ん反りかえって……恥ずかしい人ね」


「何だ、月島つきしまか」


 俺が言うと、彼女は長い黒髪をスッと耳にかけ、ため息をこぼす。


「また、あなたと同じクラスなんて……新生活早々、運がないわ」


「新生活て(笑) たかだか、進級しただけだろうが」


「あなた、分かっていないのね。この2年生の時期が、どれだけ大切かを」


「ああ、まあ3年生になったら、受験だからな。遊ぶなら、今の内か」


「はあ、愚かな人ね。ちゃんと将来を考えている人は、もう今からスタートを切っているの」


「月島もか?」


「当然よ。この私を誰だと思っているの?」


「月島秋乃あきのさん」


「フルネームで呼ばないでちょうだい」


「ちなみに、身長は160数センチ、体重は50キロ前後?」


「ちょっ、はっ?」


「そんで、スリーサイズは上からきゅうじゅ……むぐぐ」


「ド変態、この口を切り落とすわよ?」


 月島は鬼の形相で言う。


「あなた、ストーカーなの?」


「いや、1年ずっと同じクラスでお前のことを見ていたからさ」


「気持ち悪いわね……」


 俺の口からパッと手を放し、月島はため息をこぼす。


「そうだ、月島」


「何よ?」


「あまり、俺に話しかけないでくれる?」


「はぁ?」


「お前みたいな、注目を集める女と一緒にいると、色々と妬みが面倒なんだよ」


「……あっそ」


 月島は不機嫌そうに頷く。


「元より、そのつもりよ。今のはただの、義理でのごあいさつだから」


「そうか」


 俺は短く答える。


 月島は鼻を鳴らして、スタスタと去って行く。




      ◇




 あぁ、もう。


 新学期早々、サイアクの気分だわ。


 私は自分の席に腰を下ろす。


 その時……


「おはよ~」


 緩く間延びした声に呼ばれる。


 顔を上げると、1人の女子がいた。


 私の顔を覗き込むことで、サイドテールが垂れている。


 この子は、確か……


「……朝宮あさみやさん……よね?」


「えっ、あたしの名前、知ってくれてるの?」


「ま、まあ、クラスメイトだから……」


「や~ん、うれしい~」


 彼女は唇を噛み締めて、身をくねらせる。


「改めまして、朝宮陽菜ひなちゃんです、よろしく♪」


「つ、月島秋乃です」


「てか、良かった~。月島さん、もっと怖い人だと思っていたけど」


「そ、そうなの?」


「うん。でも、2年生になって、同じクラスになれたからさ~。1度、話してみたくて」


「私なんてそんな、大したことないわよ」


「いやいや、有名な優等生じゃん。美人でおまけに巨乳だし」


「さ、最後のは余計よ」


 そういう彼女も、ご立派なものを……いえ、はしたないわ。


「てかさ~、アッキーって、イッチーと仲良いの?」


「はっ? アッキー? イッチー?」


「あ、いきなりあだ名呼びは、ウザかった?」


「い、いえ、新鮮で悪くない気分だけど……」


「えへへ、やったぁ。じゃあ、あたしのことも、好きに呼んで」


「えっと……慣れるまでは、朝宮さんで良いかしら?」


「うん、分かった」


「ところで、イッチーっていうのは……」


「ほら、竹本一郎たけもといちろうくんのことだよ」


 その名が出て、また嫌な気持ちになる。


「……竹本くんが、どうしたの?」


「いや、さっきも話していたし、アッキーはイッチーと仲良しなのかなって」


「いえ、違うわ。1年生の頃、たまたま同じクラスで、ちょっと顔見知りなだけよ」


「ふぅ~ん?」


「朝宮さん、あんな男とは関わらない方が身のためよ?」


「って言っても、それなりに話したことあるからな~」


「そ、そう……」


「それに、イッチーってモテるから、ワンチャン狙いたいし」


「…………は?」


 私は目をパチクリとさせる。


「誰がモテるですって?」


「だから、イッチーが」


「……またまた、ご冗談を。朝宮さんは、おもしろい子ね」


「え、ガチの話だよ?」


「……ガチ?」


 驚きのあまり、私は普段あまり使わない言葉を言ってしまう。


「そ、それは……あなたの中だけで?」


「ううん、他の女子も、けっこうイッチーのこと好きだよ」


「……嘘だと言って欲しいわ」


「あっ、その反応。やっぱり、アッキーもイッチーが好きなの?」


「違います」


「否定はやっ。何か怪しいな~」


 朝宮さんは、ニヤニヤとしながら私を見て来る。


 そんな最中、私はチラッ、とあの男を見る。


 相変わらず、ふてぶてしい態度のまま……


 あんな男が、モテるですって?


「……彼のどこが良いの?」


「えっ? う~ん……クズなところ?」


「世も末ね」


 新学期早々、私は暗澹あんたんたる気持ちが押し寄せた。




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