裏話的あらすじ お留守番の警備鎧(遠隔操作)編

 南地区の裏通りを、捻くれ過ぎてしまった少年ダズロンズは、歪んだ笑みを浮かべながら歩いていた。

「何も彼も旨く行かねぇが、全部あの糞餓鬼の所為だ! ふへ、知ってんだぜ、今この街に居ないって事はよぉ!!」

 そんなダズロンズは、南地区の奥まった場所に在る、壁と一体化した黒い門の前でにちゃりと更に顔を歪める。

「ふひへへへへ。ここだぜ。全部俺の物にしてから、盛大に燃やしてやらぁ!!」

 ふへぇ! と門へ突撃して、ふひぃ! と門を開け放とうと暴れ回り、ふほぉ! と開いた門から中へと入ったダズロンズ。

 しかしその前に立ち塞がるのは、異様な雰囲気の黒い館だった。

「ふ、ふ、ふへ! な、生意気な、家に、住みやがって!! ぶっ壊してやる!!」

 だが、そんなダズロンズに、遥かな頭上から、赤い光が投げ掛けられる。

「な、なんだ!?」

 ダズロンズが見上げると、そこには黒々とした影を纏った大巨人、いや、巨大な剣を携えた老剣王が、目を赤く光らせてダズロンズを睨め付けていた。

『な~に~よぉ~じゃ~~?』

 ぎしぎしと体を軋ませながら、ダズロンズを覗き込む老剣王。

 館の右を守る老剣王に対して、浴びせられる赤光は左側にも。

『ここは、あなたが来る所では無いわ……』

 冷気すら感じそうな声音で、巨大な女剣士が今にも剣を抜き放とうとしていた。

「ふへ! ふへ! ふへ! 何だ! 何だお前らは!!」

 そんなダズロンズの前で、容赦無く館の扉が開け放たれる。

 真っ黒な闇の中から現れたのは、白銀の鎧騎士。見上げるばかりの偉丈夫で聖騎士にも見紛うばかりの神々しさだが……兜の合間から洩れる赤光、鎧の隙間から揺らめく気煙、そして、

『くっくっく……留守を預かる我が前に、ぬけぬけと顔を出すとはでかしたものよ』

 幾重にもくぐもって響くその声が、そんな物とは違う何かだと、もっと悍しい何かだということを知らしめていた。

 更に言うなら、足下の砂利までが明滅し、異界の様相を漂わせ初めている。

「ふ、ふ、ふひゃーーー!!!!」

 溜まらず背中を見せて逃げ出したダズロンズ。しかし――

『くはははは、逃がさぬわ! くぁあああああ!!』

 裂帛の気合いの声に、思わず振り返ったダズロンズが見たのは、グッと大地を踏み締めた鎧騎士が、何かを掴まんと右手を突き出したその姿だった。

 次の瞬間、ダズロンズの体を衝撃が走り抜ける。姿の見えない何かがダズロンズの体を掴み、宙吊りにしたのだ。

「ふへ! ふへ! ふへ! ふへ! ふへ! ふへぇーーー!!!!」

 手を振り乱し、脚をばたつかせ、幾ら暴れても丸で拘束は緩まない。そんなダズロンズの直ぐ傍に、右手を握り締めた鎧騎士が何時の間にかその兜を寄せていた。

『我が留守を預かるということがどういう事か分かるかぁ? ――お前の生も死も我が手の内ということだーーー!!!!』

 高笑いを上げる鎧騎士の謎の力で宙吊りにされながら、ダズロンズは門の前まで運び出される。そして、そこで地面の上に降ろされた。

『だが、お前は運がいい。見よ、この門の前は少し寂しいと思わんか? くははははは、お前はここで門を守る木に成るのだ。そぉれ、べるべるべるべる、お前も一緒に唱えるがいい、べるべるべるべるべるべるべるべる――』

「べ、べる、べる、べるべる、べるべるべるべるべるべるべるべる――」

 ダズロンズの口が、己の意思に因らずにべるべると言葉を放ち始める。

『そぉだ。べるべるべるべる、お前はゆるゆると木になるがいい!!』

「――べるべるべるべるべるべるべるべるべるべるべふへぶひゃぎゃーーー!!!!」

『くくくくくく、ふはははははは、はーっはっはっはっはっはーー!!!!』

(嗚呼、俺は、木だ! 俺は木だ! 俺は木だーーーーー!!!!!)

 ダズロンズがどれだけ後悔しようとも、もう遅い。ダズロンズが忍び込もうとしていたのは、恐るべき大巨人と鎧騎士に守られた、恐怖の館だったのだ!



 このお話は、そんな館の主人である少女が頑張るお話です。



『あ、オルドさん、ちょっていいですか?』

「おお!? ノッカーか。いや、行き成り話し掛けられるのは吃驚するな。ベルの様な音を鳴らすことは出来んのか?」

『あー、次から考えておきますね。それより、私の家に悪さをしようとしに来たのが居たので、捕まえてあるのですがどうしましょう? 正直うんちやおしっこを漏らされて、臭いし汚いしで迷惑なのですよ。門の前にべるべる薬で立たせていますので、回収宜しくお願いしますね?』

「おいおい、何をしたんだ? ……たく、仕方が無い。おい! 誰か手の空いている奴は居ないか!?」



 序でに、そんな少女に振り回される、周りの人々のお話です。

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