07 謀略



「ナグナス!」


 するとフードの男は、にぃっと口の先端をあげる。だが顔は見えない。

 ユウラは危険を察知し昇と自分に防御結界をかけ警戒する。


「へえ俺の名前を知ってるか。シュラ達に聞いたか」

「――」


 ナグナスは顎に手をあてユウラをじっと見る。


「おまえ見たことねえな。新しい守護神か。だからだな、爪が甘いな」


 ナグナスは右手をのぼるに翳す。刹那、昇めがけて閃光が走った。


「!」


 ユウラは咄嗟に昇の前に防御壁を展開しナグナスの攻撃を防御。それを見たナグナスは、一瞬目を瞠り「へえ」と声をあげる。


「思ったよりやるじゃねえか。仕留め損ねた」


 ユウラは先ほどよりも強い防御結界を作り、昇の前にでるとナグナスを睨む。


「昇はやらせない」

「へえ。あんたも頑丈な結界張るじゃねえか。これじゃあすぐに殺すのは無理か。残念。あいつ、名前なんだっけなー? 今度は『かける』だったか? 仲間が死ねば悲しむと思ったんだけどな。まあいいや。用は済んだ。まあここであんたらとチマチマしてる暇もないしな。トスマと八将神はちしょうしんがきたら厄介だからな」


 ナグナスは、今度は右手のてのひらをめいっぱい開き、昇とユウラに翳す。すると昇とユウラの防御結界ごと蜂の巣のような結界が張られた。

 ユウラが解除しようとしてめる。その行動にナグナスは、ほうと感心するように呟く。


「へえ、気付いたか。そうだ。動かないのが正解だ」

「くっ!」


 悪辣な笑みを浮かべるナグナスにユウラは歯噛みする。意味が分からない昇は首を傾げる。


「ユウラ、どういうこと?」

「昇達の世界で言う液体気化爆弾みたいなものです」

「え?」


 それはどういうことだと昇は眉を潜める。


「僕が今解除をするために能力を使えば、爆発が起るということです」

「!」


 するとナグナスが応える。


「その通り。なかなかいいだろう?」

「そんな。どうすれば……」

「大丈夫です。これは中から何か行動を起こせばそうなるというものです。トスマ達が外から外せば何ら問題もないものです」

「ま、そういうことだ。今この場であんたを殺してもいいんだが、時間がない。これを逃すと現代に戻れなくなっちまうからな」


 ユウラは眉を潜める。


 ――この結界、僕達天部同士の連絡手段を遮断している。トスマへの連絡が出来ない。だとすると、トスマがすぐにないようにする時間稼ぎということか。


「あんた達はそこでおとなしくしてな。俺が今用事があるのはその男だから」


 ナグナスは男の拘束をいとも簡単に解く。そして男に歩みより男を覗きこむ。


「あんた、現代に戻る機械持ってる?」

「誰だ? お前」

「質問に応えろ。現代に帰れるのかって聞いている」


 ナグナスは男の胸ぐらを掴むと、殺気を帯びた冷めた声で聞く。


「あ、ああ。戻れる……。機械もある」


 男は隠し持っていた現代に戻る機械をポケットから出す。それを見たナグナスの顔はほころび、男の胸ぐらを掴んでいた手を離す。


「よかった。俺戻れなくてさー。一緒に連れてってよ」

「な、仲間はどうしたんだよ」


 この仕事は、もしものことを考えて1人で時渡りをすることはないことは常識だ。


「いたけど、2人とも死んじゃったんだよね」

「!」


 その言葉にユウラと昇はその意味を理解する。


 ――こいつが殺したんだ。


「あんたは俺が助けてここから逃げれる。俺は現代に帰れる。いい交渉と思わないかい?」


 男は少し考えたが、自分に不利なことがないことを思い承諾した。


「じゃあ決まりだ。さっそく戻ろうじゃないか」

「わかった」


 男は機械の起動ボタンを押そうとしたが押せない。それを見たナグナスは舌打ちする。


「ち! 3時間の縛りか。仕方ない時間が来るまで身を隠すか」


 そして昇とユウラへ視線を向ける。


「じゃあね、時渡りの者。また会おう」


 ナグナスと男はその場から消えた。




      ◇




 そして現代に戻った盗賊の男の最初の言葉がこれだ。


「なんで?」


 盗賊の男は翔琉達を見て驚く。まさかいるとは思わなかったからだ。


「そんなの、捕まえるために待ってたに決まってるだろ――」


 翔琉が応えるが、あることに気付き盗賊の男の後ろを睨み叫ぶ。


「なんでお前がいる」

『翔琉?』


 シュラの声だけが聞こえたがそれには応えず男を睨む。


「翔琉? どうした?」


 亘も不思議に思い尋ねる。それに応えたのが未桜だ。


「ナグナスが男の後ろにいる!」

「!」


 シュラとリュカが姿を現す。それに驚いたのは翔琉だ。シュラ達は過去と同じように義体の姿でいたからだ。


「なんで現代でも義体が?」


 翔琉の疑問にシュラが応える。


「別にやろうとすれば出来るが、いろいろ面倒だからしないだけだ。それに今は依頼の最中だから簡単にできるんだよ」


 依頼中なら時を司る神の許しの範囲ということのようだ。


「翔琉! 見えるようにしろ!」

「あ! そうか」


 翔琉が両手で印を結ぼうとした瞬間、目の前にナグナスが剣を持って襲ってきていた。


「!」


 だがシュラ達は姿が見えないため気付いてない。


 ――こいつ、シュラに気付かれないように近づいた! 間に合わねえ! やられる!


 だが剣が翔琉に当たる寸前に翔琉の体が横に引っ張られた。


「!」


 隣りの未桜が翔琉の体を自分の方に思いっきり引っ張ったからだ。それに気付いたのは、未桜の上に倒れた時、未桜が翔琉の腕を掴んでいたからだ。


「翔琉!」

「未桜!」


 シュラとサラがすぐに翔琉と未桜を抱きその場から離れる。翔琉はその瞬間、印を結び呟く。


「【開眼かいがん】」


 そこにいた全員がナグナスの姿が見えるようになった。


「ちっ!」


 ナグナスは舌打ちすると、懐から何かを取り出した。黒い金剛杵こんごうしょだ。それを見たシュラとリュカは目を瞠る。


黒呪金剛杵こくじゅこんごうしょ!」


 亘が眉を潜めて聞く。


「なにそれ」

「呪いの類いを発動させる道具だ。だがなぜここにある」

「どういうこと?」

「あれは今はこの時代にないものだ。平安時代から行方不明になっていたはずだが」


 リュカはそこではっとする。


「なるほどな」


 シュラも気付いたようだ。


「ナグナス、お前が盗んだんだな」


 ナグナスはにぃッと笑い頷き返す。


「ああそうだ。だが盗んだのではない。返してもらったんだよ。これは元々俺の物だ。そこのやつが捕まっていた屋敷に保管されていたんだ。だが丁重に結界がされていてな、取り返せなかったんだ。だがお前らの仲間が来てくれたおかげで取り返すことが出来た」

「じゃあお前が!」

「ああ。そうさ。そこの男を逃がしたのも俺だ。まあ【つちのえ】のやつらは俺がそいつをひっぱり魔法陣から引きずり下ろしたことには気付いていなかったがな」


 ナグナスの姿は翔琉と未桜しか見えない。【つちのえ】の者が気付くはずがない。


「で、あの屋敷にそいつを捕まえさせ、結界を解くことができるお前達の仲間にさせて、戦わせている間にどさくさに紛れて黒呪金剛杵を取り返したのさ」


 ナグナスは満足げに応え、そして笑う。


「あ、そうそう。あの角刈りのやつ、越時と言ったか? そいつ生きてるかなー」

「どういう意味だ」


 リュカが睨みつけながら聞く。


「背中刺されてたからなー」

「!」


 亘は目を見開く。


「嘘言うんじゃねえ!」


 翔琉が叫ぶ。


「嘘じゃねえよ。なんなら確かめて見ればいいさ。トスマになー」

「!」


 亘の顔から血の気が引く。


「親父……」


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