タイトル未定

冬瀬 攬(Fuyuse Ran)

信仰方正Ⅰ

 地球温暖化進行なんて世界がうめいている夏、例年よりも一層溶けてしまいそうな暑さの中、僕はセミの生きた証を視界の隅に捉えながら、硬いアスファルトの地面の上、人口樹林の木陰の下を一歩一歩踏みしめて歩いていく。

忘れられた死者が眠る小さな墓場で働きアリたちは汗を流すこともなくただ黙々と与えられた仕事をこなしていた。

僕は木陰でそんな仕事ぶりを眺めながら休息を取っていた。

昔のこの世界なら死者を弔いお迎えするシーズンだというのに静かな墓地には

うるさいくらいの蝉の声たちの叫びで満たされていた。




そんな見捨てられた墓地で生きる世間から見放された僕のお話。




僕は神様が世界だと言っても過言ではない世界に生まれた。

小さいときから”神様”の存在を信じていなかった。

世界の人間はほぼみんな信者、

テレビには神殿の様子を映し、ときに祈祷を行う様子を中継するだけの専用チャンネルがある、

どのチャンネルにも置物のように何もせずにただ存在している神父さまがいる、

どんな本を見ても必ず神様が出てくる、

みんな”神様の下僕”という意味の全く同じ苗字、


何もかもが”神様”で構成されたこんな世界においてあまりにも僕の存在は異質で生まれた瞬間から罪人だったように思う。

きっと信者さんの中にも信仰心の度合いはそれぞれ違っただろうが、それでも信者かそうでないかという違いは大きかった。


世界が揃って右を向いて進んでいて、寧ろそれ以外考えられない、というような風潮がある世界で左を向いて生きていたら浮くのは当然だろう。オセロで言うなら角に一つ追いやられた黒だろうか。周りと真反対の悪いいぶつ。

ましてや敬遠な信者だった母からすればこれ以上ないくらい腹立たしくて恥ずかしい話だろう、がっかりしただろう。

実際、其のことで何度も蔑まれ、ムチを打たれ、信仰を押し付けられてきたし、昔の世界ではギャクタイと称されていたであろうことを僕にたくさんしてきた。無抵抗な僕はただ、居やしない神様を恨みながら時間をやり過ごしていた。

今でも僕の首には無理やりつけられた信者の印とそれを消そうともがいた傷跡がはっきりと残っていた。グレーな人間に塗り替えられてしまった。

どんなに教えられても、どんなに泣かれても。

それでもどうしても自分にはとても信じられなかった。

昔は様々な宗教が世界に満ちていて信仰の自由なんて言葉があったらしいと知ったときどれほどその世界に焦がれたかわからない。


神様が世界をお作りになった。

神様が与えてくれた命。

神様を信じれば報われる。

すべて戯言だと一蹴して周りに馴染めずに生かされていた。


そんな思いを腹に抱えて入学した私立の中学校で、先生は神様という存在の前提には”カミサマという存在はとてもカンペキなものである”というものがあるのだと狂信者の先生は言った。

ただ気だるい時間だと思いながら時間をやり過ごしていた僕の空っぽの耳にその話だけが強く残った。

カンペキなカミサマは自分のような失敗作品をお作りになったのだ。カミサマはカンペキなんかじゃなかった。自分の中で神様という存在がより一層不確かなものになったその日以来、

何度も何度もファッション信者の自分を傷つけて、みんながお祈りを唱えているとき僕は固く口を一の字にしてくそくらえと心のうちで唱えて。

自室からは壁に埋め込まれたお祈りが書かれた板以外信仰に関連するものをなるべく排除し、学校の教材も制服もリビングに置いて自分はカミサマなんて信じないという意思を今まで以上に強めたのだった。

それでも僕が逃げなかったのは、逃げられなかったのは、両親のガードの強さと僕の心の弱さ故だった。病魔に侵される1歩を踏み出すタイミングを常日頃掴み損ねていた。

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