第6話 誰


「一番最初に目が覚めた場所は?」


「ここの隣の部屋のベッド。カナタ君は?」


「僕はここの部屋のベッドかな」


「やっぱりそうだったんだ」


「やっぱり?」


「うん。だってここ元々何もない部屋だったから」


「......どう言うこと?」


「昨日──ううん、眠る前の話だけど、大きな音がしたの。地震だったかな? 揺れも凄かった。私は誰か居ないかこの町を探索してた途中だったから、急いでここに戻ってきたの」


「そしたら、何もなかったこの部屋に僕が居たと?」


「うん。元々机だって、時計だって、ベッドだって、カーテンすらなかった。それなのにいきなりカナタ君が居たからびっくりしたよ。まぁ、驚き以上に喜びの方が大きかったけどね」



 今の証言と自分の体験を照らし合わせる。

 確かに僕が目を覚ました直後に大きな揺れが合った。

 彼女がそれを元にここに戻ってきたという話も嘘ではないだろう。


 ここには元々家具すらもなかったというが、僕と一緒に運ばれたものだろうか?


「揺れを聞いてから直ぐにここに戻ってきたんだよね? この家はどのくらいの時間空けてたの?」


「そんなに空けてないと思う。ここは小さな町のようになってて、一番端まで行ってみたら、海? みたいな所が行き止まりで、そこまで一キロくらいだと思う」


「家を出る前にこの部屋は確認した?」


「した。この部屋に限らず全部。変化が合ったのは多分ここだけ」


「ここに帰って来る時に人の気配とか、車の気配とかはあった?」


「特になかったと思う」


 僕と一緒に家具も運ばれて来たと仮定しよう。

 彼女がここを空けていた時間──往復で二キロと考えて、徒歩では四十分程度──余裕を持たせて一時間程度だとしよう。


 その時間内に、外からここへ僕とこの大きな家具達を運ぶのは可能であろうか?

 家具はトラックなどで運ぶとして、ここは三階だ。

 トラックから運び出すだけでそれなりに時間がかかるはずだ。


 それにただ運び出すだけじゃなく、部屋として違和感がないように丁寧配置されており、ハルカさんにも気づかれる事なく撤収している。

 僕を運び出すのを含め一時間程度で可能なのだろうか?


 仮に可能だったとして、一人では無理だろう。

 一人ではないとすると、集団だ。

 僕とハルカさんを監禁している者はグループである可能性が高い。


 グループだと考えて、この空間の準備、手際の良さを考えて、かなり大きな組織が関わっていると予想出来る。


 それを踏まえ、何故僕なのだろうか?

 何故ハルカさんなのだろうか?


  何の為に、誰がこんな事をしている?

 目的は? 人選は? 終わりはあるのか?


 思考を巡らせても答えは出ず。

 強いて、僕とハルカさんの共通点を挙げるとすれば、高校生──若いと言うことだけだ。


「カナタ君、大丈夫?」


「......大丈夫。考え事をしてただけ。それとさっき海? って言ってたけど、どんな感じだった?」


「見渡す限り一面が水だった。町からだと、終わりが見えなくて、変わった所で言えば、黒い穴が合ったことくらいかな」


「黒い穴?」


「海の先に黒い穴みたいなものが見えた。かなり遠かったから、もしかしたら穴じゃないかも」


「場所は分かる?」


「うん。ずっとこの町を探索してきたから。案内するね」


「お願いするよ」


僕はハルカさんの後をついて家を出た。



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