妖精村の事件概要を聴取せよ2

 シャロさんのその行動にハッとなり、

「失礼、しました……」

と謝罪をする妖精の方。

シャロさんは咎めるわけでもなく、静かにこう続けた。

「君達が滅びを免れる方法は一つ。【掟を破るな】それだけだよ。」

「っっ! でも、それじゃ……」

「村が滅びるのを阻止したいんだろう? ワタシに言えるのはこれしかないね。」

「そんな、昔の、誰が決めたかも知らない掟を破ったくらいで……」

「事実、事件がちゃんと起きてるじゃないか」

「それは……偶然で……、ちゃんと調べてもらえたらっ」

妖精の方は必死に訴えるが、

「ワタシは村には行かない。もちろんトワソン君も行かせる気はないよ。」

シャロさんは、はっきりとそう答える。

「……何が、名探偵ですか。事件を解決してくれないなんて……」

「最初に言ったじゃないか。解決できるかは分からないが、話は聞いてあげよう。と」

「………………」

妖精の方は黙り込んでしまう。


「あ、トワソン君。テーブルにある飴玉を取ってはくれないか?」

 シャロさんは黙り込んでしまった妖精の方なんて構わずに、いつものペースでボクに指示する。

「え、あ、はい……」

ボクは様子を気にしつつも、言われた通りテーブルに置かれた飴玉を手に取り、シャロさんに渡す。すると

「え…………?」

と、驚愕した声が聞こえた。声の主は妖精の方だった。

「なん、ですか、それ?」

驚き、目を見開いたままの彼女は、信じられないと言うばかりの声で聞いた。

「……最後に、教えてあげようか」

妖精の方に対して、シャロさんは声のトーンを落とし、こう言った。

「これは『飴玉』だよ。」

「?」

その不可解なやり取りにボクは首を傾げていると、

「え、違う、それは、え? なん、で、私……」

妖精の方は、混乱し、頭を抱えだした。

「……そろそろ、時間じゃないのかな。これ以上長居すると、君の足では、村の門が開く時までに帰れるか怪しくなってしまう」

そんな状態を見ても、対応を変えないシャロさんがそう言うと、

「…………はい。そうですよね。わかり、ました」

混乱したままの彼女は、ブツブツ何かを呟きながら、屋敷を出ていってしまった。


 一部始終を見ていたボクは、彼女が心配になる。

「いいんですか? このまま帰してしまって」

「別にもう彼女の中で事件は解決したんだから、いいんじゃないか?」

シャロさんは飴玉を口の中で転がしながら言った。

「解決……?」

さっき妖精の方には、解決ではなく、話を聞くだけ。という主張をしていたはずだったが、いつの間に解決になったんだろうか?

ボクは、よくわからないことにひたすら頭を悩ましていた。

それを承知だろうシャロさんは、そんなボクを置いたまま続けた。

「しかし、これじゃあ埒が明かないかもしれないね。」

「え? それって……」

ボクは、妖精村の事件概要を振り返る。

ある女の子が村を出てしまい、それを探しに村を出た両親が、村に帰ってきた途端、発狂し閉じこもり、ついには餓死。

それを見かねた親戚も、またその親戚も、次々に村の外へ行き、帰ってきたら、同様の事件が繰り返されていた。とすると

「あの女性も、このまま村に帰ったら、同じようなことになるってことですか?」

「そうなるね」

平然とシャロさんは、答える。

「じゃあ余計に、帰しちゃダメじゃないですか! 止めないと!」

ボクは焦って屋敷を出て行こうとしたが、何かに足を引っ掛けてその場で大の字に転んだ。

「いだっっっ」

足場には何もなかったはずだと、見てみると、シャロさんが前に使っていた魔法道具の指示棒が伸ばされていた。

「ちょっ何するんですか!」

ボクはシャロさんに怒り気味に聞いた。

「いや、マリィが居たら、君をマリィが止めにいっただろうが、この場にいないからね。仕方なく。」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「彼女なら、追っても無駄さ。というか、追ったところで君はどうする?」

「どうするって……」

「居候の身で匿うのか? 村の真実も知らずに?」

「う……」

「考え無しで行動するのは極力控えた方がいい。時にはそれが正解なときもあるが、今は不正解だ」

「……すみません」

ボクは立ち上がり、服を叩いた。

「でも、結末を知っていて、見殺しにするってことですよね? そんなこと……」

「……君は、勇者か何かなのかい?」

珍しくシャロさんは真面目なトーンでボクに聞いてきた。


「……いえ、違います。」

 そう、これだけは確実にボクも答えられるのだ。

異世界に来たところで、剣も魔法も持たないボクは勇者ではない。無闇矢鱈に他人は救えない。そもそも一人すら救えるかわからない。

「ボクに出来ることは、ないんでしょうか?」

「そうだね。ワタシもこれ以上屋敷に来られても対応するのは面倒だ。」

「……シャロさんが面倒じゃないことなんてあるんですか?」

ついポロッと本音が出てしまうボク。

「そこで、君に妖精村の真実を教えようと思う。聞く勇気はあるかい?」

それは完全に無視され、問われた。

「はい!」

ボクは、はっきりと返事をする。

「ふふ、『勇者』というのは元は、勇気を最初に出した者。のことを言うんだよ。いつの間にか、魔物を倒すことだったり、その強さ自慢やらで、稼いでいる奴らのことを指すようになったけどね。」

「?」

「この世界で、勇者は職業としてある。それが前提だ。彼らは今話した通り、魔物討伐やらで生活を成り立たせている。」

「それは、初めて知りましたけど。妖精村の話をするんじゃなかったんですか?」

ボクはシャロさんの向かいのソファーに座りながら、質問した。それに対しシャロさんは、

「それもまた関係あるんだよ。異世界人の君には、少し話が長くなるかも知れないがね」

と説明し、話を続けた。

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