【完結】魔法才能マンの自由気ままな辺境スローライフ~王族を追放されましたが、前世の知識で未開の森を自分好みに開拓していきます。あれ、なんだか伝説の存在も次々に近づいて来るぞ?〜

むらくも航

第1章 出会いと開拓 編

第1話 嫌われ者で慕われ者の追放

 「お前は追放だ!」


「ええぇ……」


 そう告げられたのはたった今。

 俺──『ルシオ・フォン・グロウリア』、通称ルシオが、十五歳の誕生日を迎えた次の日の朝だった。


 つい先日、この国『グロウリア王国』の王位を、一番上の兄上である第一王子『クリス・フォン・グロウリア』が継承した。


 それで、最初に行う執務が末弟の追放とは呆れたもんだね。


 ここグロウリア王国は、まさに魔法の力で権威を保っている国で、周辺国からも一目置かれる大国である。


 そして、その王家の三男である俺は、グロウリア王国の第三王子だった。


 まあ、今まさにその“王家”が剥奪はくだつされようとしているわけだけど。


「ええぇ……ではないわ! お前のせいで私がどれほど苦労したことか!」


「そんな! 俺には心当たりは……」


「ないとでも?」


「うっ」


 正直、めちゃくちゃある。


 俺、ルシオの別名は「ヤンチャ王子」。


 自由奔放ほんぽうな性格に始まり、この国では奇行を繰り返し(俺はそんなつもりないんだけど)、王族のなり振る舞いとは真逆の遊びほうけっぷり。


 言うならば、俺は王家には似合わぬ自由な生き方をしているんだよね。


 それとおそらく……昨日のことが決定打だろう。


「ふっ、兄上、良いざまですよ」


 そう言ったのは家系では次男に当たる兄上。

 この国の第二王子だった『メンド・フォン・グロウリア』、通称メンドだ。


 俺は昨日、いきなりメンドこいつに決闘を申し込まれ、一対一でボコボコにしてしまった。

 それも、名目は俺の誕生日会の余興ということで、公衆の面前で、だ。


 決闘を申し込んだのは、次席を証明したかったとか、そういうことだと思う。


 メンドも、王族の名に恥じぬ魔法の才覚を持ってはいる。

 それがまさか、五つも年下の俺に負けるとは思っていなかったのだろう。

 

 日々陰口やら嫌がらせを受けてきた俺は、ちょっと本気になってボコすと、メンドはその場で泣いてしまった。

 当然、メンドが勝つ予定だったのだろう。


 盛られた腹痛薬は魔法で解毒し、俺を狙った仕掛けなんかも全て回避して、ボコした。


 その余興が最後のイベントだったので、昨日はなんとも言えない空気のまま会は終了となったが、昨日の今日で俺の追放が決まったようだ。


「お前というものは、王家の名を汚すようなことばかりしおって!」


「はぁ……そうですか」


 他にも、一応思い当たる事はある。


 良かれと思って進言したこと、俺が独自に研究を進めてきたことなんかは、お堅い今の貴族や王家さん方にはどうもウケがよくなかったんだ。


 まあ、それもそうか。

 俺の発想は、こことはのものだしな。


 俺の中に“前世の記憶”が蘇ってきたのは、八歳の頃だった。


 俺は、日本という国で普通の大学を卒業し、地元の企業に就職。

 けれど、その企業がよくなかった。


 そこは、一言で言えばブラック企業。

 今思えば、SNSなんかでツイートすれば大炎上しそうなほど過酷な環境。


 それでも何故、辞めたり暴露しなかったのか。


 俺は多分、すでに企業の奴隷となっていたんだ。


 無駄に責任感が生まれ、終わる事のない仕事量をしょうすいしながら死んだ魚のような目でこなす日々。

 貰えるのは当然、低賃金。


 それで気がつけば過労死だ。

 まったく、笑えない冗談だよ。


「幸い、お前なら一人でも生きていけよう。もう二度とこの国に顔を見せるでないわ!」


「はあ……」


 兄上は怒り心頭の声で、俺を振り払うような仕草を見せた。


 兄上が「一人で生きていけよう」と言ったのは、俺が魔法の才能にあふれているから。

 それでも、ほんの力の一端しか見せたことないけど。


 前々王であった父は早死にで、俺が九歳になる頃には他界してしまった。

 その時はまだ魔法の才能も自覚しておらず、悔やんではいるが仕方ない。


 そして王を受け継いだのが、父の弟だった男だ。

 だがそれも、兄上のクリスが成熟するまでという約定だったので、先日正式にクリスに王位が継承されたのだ。


「ふん、強がるなバカ者め。王家を剥奪されたお前には、前までのように人は寄ってこぬぞ」


 なんだよ、それが悔しかっただけじゃん。

  

 まあいいんだ。

 

 なにしろ、俺は将来王様になる気もさらさらないし、王家の責務なんかはまっぴらごめんだ。


 俺は野望なんて大層なものは持ち合わせていなくて、ただ魔法が好きだから研究もしてきたし修行も怠らなかった。


 幸い、魔法の才能はあったようで、どんどん出来ることが増える感覚は本当に楽しかった。


 前世からすると、魔法が使えるってだけで夢のようなのに、才能もあるとなればもうやめられない。


 ただそんな俺は、嫉妬と憎悪に塗り固められた上流社会では特に邪魔な存在。

 二人の兄上をはじめ、三人の姉上、多くの貴族から相当に嫌われていた。


「別に構いませんよ」


 だから、いつかは追放されるとは思っていたし、実際にされて清々もしている。

 返事が軽かったのも、こういった思いからだ。


「そうか。ならば黙って出ていくがよい」


「それでは」


 クリスに言われ、玉座を後にする。


 負け惜しみなどではなく、こんなところは微塵も思い入れがない。


「でもなあ」

 

 本当は最後に一人、顔を合わせたかった人がいるんだけど。


 と、そんなことを考えながら荷物をまとめるべく自室に向かっていると、


「ルシオ様!」


「!」


 その声に反応して、俺は後ろを振り返った。


「リーシャ!」


 声の主は、今まさに思い浮かべていた人、俺が最後に顔を合わせたかった人だ。


 メイドのリーシャ。

 王家の中では唯一(?)俺に味方してくれる人で、リーシャがいるおかげで俺は大嫌いな王家の中でも日々を過ごせていた。


「追放されたというのは、本当でしょうか……?」


「うーん、そうなんだよね。ごめんね」


 ごめんね、と言ったのは彼女にも「この城のメイド」という役職があるからであり、別れを告げる意味を込めている。


「その件なのですが……」


「え、うん」


 リーシャは俺の手をとって真っ直ぐに俺を見た。


「私もルシオ様についていきます!」


 え。


「ええええ!」


 まさかの発言に俺はびっくりしてしまう。


「ダメだよ、リーシャ! 君はメイドという役職があるし、それに」


 俺に付いて来るということは、もれなくリーシャも無職となる。


 城の中でも間違いなく一番優秀なメイドである彼女。

 探そうと思えばどんな仕事でも見つかるだろうが、責任は持てない。

 

おっしゃりたいことは分かります! ですが!」


 リーシャはぐっと顔を近づけてきた。


「私はルシオ様と、どこまでも共にくと決めているのです!」


「!」


 顔の近さと、共にやってきたかぐわしい甘い匂いにドキドキする。


 リーシャは優秀なだけではなく、その美しい顔と抜群のスタイルを以て、貴族社会の男の中でもかなり人気が高い。


 だがその分、同業者メイドや女性陣からは反感を買っており、嫌われ者同士というと少々気が引けるが、そんな感じで俺とはすごく仲が良かった。


「でもなあ……」


「私にはすでに養う家族もおりません! 私が慕うべきはルシオ様のみと決めております!」


「そ、そうか」


 ここまで素直に告げられると嬉しいな。

 

 ここまで言われて追い返すのも、彼女の為とは言えないかもしれない。


「わかった」


「……! それでは!」


「でも一つ、先に聞いておかないといけないことがある」


「はい、なんでしょうか」


 俺はリーシャの目をまっすぐに見た。


「俺が向かおうとしているのは、“あの場所”だぞ」


 俺が口にすると、リーシャは「なーんだ」という表情で笑ってみせた。

 その顔もとても美しい。


「そうだろうとは思っていました。何も心配ありません。私も行かせてください」


「頼もしいよ」

 

 



 『収納魔法』が付与された軽めの鞄を背負い、俺とリーシャは王城の門を抜ける。

 この魔法によって、鞄には何倍もの容量が詰め込める。


 リーシャもいつしか俺が追放された時のため、とお金や最低限旅に必要な物を揃えていたらしく、お互いそれほど時間も取らなかった。


 まったく、優秀が過ぎるよ。


 王城を出た先、街中の晴天の空の下で思いっきり背伸びをする。

 気分のおかげかな、なんだかいつもより心地よいなあ。


「「「ルシオ様ー!」」」


「ん?」


 そんな中で王城の前に集まっていたのは、王城を護る衛兵たちや平民の方々など、貴族以上の地位を持たない市民の者たち。


 それも、もはや群衆と呼べる数。


「本当に行ってしまわれるのですね!」

「大変……お世話になりました!」

「ルシオ様! 寂しいです!」


「お、おお……。どうしたんだよみんな」


 衛兵は勤務中外してはいけない面を外し、みんな涙ぐんで手を振ってくれている。


「ルシオ様は、それほど平民の方には慕われていたのですよ」


「……そうかな」


「はい、間違いありません」


 隣で言葉をかけてくれるリーシャの言葉で、余計に嬉しくなる。

 

 上流社会の嫌われ者の俺は、平民には慕われていた。

 それは、頭のお堅い貴族連中は聞こうとすらしなかった、“便利道具”や娯楽の数々を素直に受け入れてくれたからだ。


 あちらの世界で言うドライヤーやポット、水回り関連の物から、ニッチなところでいうとひげりや香水とかもかな。

 突飛とっぴなものだと、眼鏡やコンタクトなんてものも提供した。


 おかげで生活が豊かになった、とすごく称賛されたものだ。


 対して、貴族連中はコソコソとその情報を掴み、隠れてそれらを使用したりして、哀れだなあと思いながら俺は黙って見てた。


「みんな、こんな俺をありがとう! またどこかで会う事があったらよろしく!」


「「「わああああ!」」」


 その「ルシオ様~」だったり「行かないで~」といった声が、一つの声援となって聞こえてくる。


 最後の言葉は本心だ。

 この人たちには、またどこかで会えるといいな。


「いこうか」


「はい。ルシオ様」


 目指すはグロウリア王国とは関わらないであろう、遠くの地。

 いずれじっくり時間をかけて、遠征しようと思っていた未開の地だ。


 こうして、嫌われ者で慕われ者の、追放された元王子の生活が始まった。




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プロローグのみ少し長めですが、次話以降はさくっと読める文量で書いております!

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