第18話

軽食も済ませたので、そろそろ頃合だろうと農業ギルドを出た。

盗賊が出たという街へ向かおうとする。

そうして冒険者ギルド前を通りかかった時だ。

驚いた声が、かけられた。


「お前ら生きてたのか?!」


それは、冒険者だった。

冒険者ギルドの建物の中から声をかけてきたのだ。


「てっきり盗賊退治に行ってやられたのかと」


「行こうとしたら邪魔されたんです」


ライドが説明した。

さらに、


「というか、まだ二時間かそこらしか経ってないですよね?」


そう訊ねた。


「実は、街道で待ち伏せされてたみたいなんだ」


「待ち伏せ??」


ライドは疑問符を浮かべ、ウカノは欠伸をする。


(まぁ、ですよねー)


話によると、街に向かう途中で冒険者たちは襲撃を受けた。

それをたまたま旅の僧侶が目撃した。

僧侶が目撃したのは、すでに盗賊達が仕事を終えて去るところだった。

冒険者達は皆殺しにされ、身ぐるみを剥がされていたらしい。

その僧侶が冒険者ギルドに駆け込んできたのだという。

つまり、ほぼウカノの考えは当たっていたということだ。


「手馴れてるな」


ウカノは呟いて、考えを巡らせる。

手馴れているし、手練が揃っているということだろう。

腕に自信あるものの、さすがに数を揃えて襲われたらどうなるかわからない。


なにが起きるのか、それがわからないのがこの世界だ。


ウカノだって、一人ぼっちになるまで、あの地獄を見るまで世界が滅びるなんて考えたこともなかった。

腕に自信があったって、殺される可能性は否定出来ない。

この盗賊を確実に退治するには、他にも策が必要だと感じた。

なら、どうするか?

考えて、思い出したのはエステルの顔だった。


――仕方ないなぁ、ママが寝物語でも話してやろう――


エステル達に保護されて、しばらくの間、ウカノは悪夢に悩まされていた。

家族が死んだ、あの光景が繰り返されるのだ。

そして、ウカノを責め立ててくるのだ。

そんな彼に、エステルが冗談めかしてそんなことを言ってきたのだ。

エステルは、いろんな物語をウカノへ話して聞かせた。

その中の、とある物語を思い出したのだ。

彼女達の故郷で語られている、化け物退治の物語。


それを思い出して、ウカノは頭をポリポリかく。


「どうしましょう!?

思ったよりヤベェっすよ!!」


ライドが、泣き言を口にした。


「やばく無いことなんて、ないだろ。

というか、ほんとなんで盗賊退治しようって思ったんだよ?」


「だってだって~~」


半べそ状態のライドはそのままに、ウカノは向きを変えた。


「え、ウカノさん何処に行くんですか?」


「どこって、盗賊退治するにはまだ道具が足りないから買いにいく」


言って、スタスタとウカノは歩いていく。

その背をライドが追いかけた。


さらに一時間後。

準備を整えたウカノ達は荷馬車で街道を進んでいた。

荷台には、高級な酒が詰まった樽がたんと積まれている。

馬を操るのはライドである。

その隣に座るウカノは、見目麗しい少女に化けている。

傍から見れば、酒を扱う商家の娘とその護衛だ。


「あのぅ、ウカノさん?

本当は女性だったんですか?」


「そう見えるか?」


「……ぶっちゃけ、抱けそっ」


さすがに殴って全部言わせなかった。


「この仕事終わったら、俺と結こんっ」


もう1発殴った。

ゾワッとしたのだ。

冗談に聞こえなかったのである。


「ウカノさん、酷いっす。

でも、ほんと何なんです?

その格好。

それにこの、大量の酒も」


「前、人から聞いた話を思い出したんだ。

物は試しで実行してみようかと思ってな」


ちなみに化粧は、エステルに教わっていた。

覚えてて無駄なことはないんだな、と実感しているところだ。


「話?」


「こっちのことだ、気にするな」


なんて言ってから、訂正した。


「いや、そうでもないか。

とりあえず、作戦教えるぞ」


ウカノは盗賊退治のための作戦を、ライドへ話して聞かせた。

それを聞いたライドは、


「上手くいきますかねぇ」


「大丈夫だ」


「というか、冒険者や男は基本殺されてるんですよね?

俺、その作戦だと死んだりしません?」


「…………」


「え、ちょっと、ウカノさん?」


「……墓に刻む詩と供える花はなにがいい?」


「ちょっとちょっとぉぉおお!!??」


「まぁ、頑張って逃げろ」


「うそでしょぉぉおお!!??」


正直、そこまで考えて無かったとは言えないので、弔いくらいはしてやる、ウカノは遠回しにそう言ったのだった。

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