第14話

翌日。


「すいません。この鱗買い取ってください」


冒険者ギルドの受付で、ウカノはダークドラゴンの鱗の買取をお願いしていた。

鱗を見た受付嬢は驚いて、ウカノを見た。


「これ、邪龍……ダークドラゴンの鱗じゃないですか!

どうしたんですか、これ?!」


「あー、落ちてたんで拾いました」


嘘だった。

本当は、昨日ダークドラゴンの尻尾を解体して出たものだ。

農業ギルドでも買取ってくれるのだが、そちらは在庫過多のため冒険者ギルドに持っていくようエリに言われたのだ。


ちなみに、尻尾肉はあの後ステーキにして美味しく食べた。

残りは、塩漬けにしてある。

それでもまだ余ったので、今日帰ったら燻製を作る予定だ。

塩漬けと燻製にしたら農業ギルドでも買いとってくれるのだ。


「落ちてたって、こんなに沢山??」


受付嬢が怪しそうにウカノを見た。

ウカノはと言えば、ヘラヘラと人好きのする笑みを浮かべている。

昨日、冒険者ギルドにとあるパーティから邪龍が討伐されたと報告が入っていた。

その証拠となる邪龍の死体は冒険者ギルドが買い取った。

しかし、尻尾だけが切り落とされていた。

ウカノが持ち込んだのは、偶然にも邪龍の尻尾部分の鱗だ。


「あの、ウカノさん」


受付嬢がウカノを問いただそうとした時、


「あーー!!!!

昨日邪龍倒した人じゃん!!」


そんな声が横から上がった。

ウカノは驚いて、声のした方を見た。

そこには、金髪碧眼の少年がウカノを指さしていた。

歳は、ウカノと同い年くらいだ。


「倒した??」


受付嬢が金髪碧眼少年へ訊ねた。


「そーそー!!

俺見たんスよ!

昨日、薬草採取のクエストで森に行ったら、ダークドラゴンとゴンザさんのパーティが戦闘になっちゃって!

あ、俺は離れたところにいたんですけど」


金髪碧眼少年は、ピーチクパーチク説明する。

ちなみにゴンザというのは、Aランクの冒険者パーティのパーティリーダーの名前である。


「この人、ちっさいナイフでスパッとダークドラゴンを倒しちゃったんです!」


「それ本当ですか?

ライドさん?」


金髪碧眼少年の名前はライドと言うらしい。

受付嬢に、確認されたライドは力強く頷いている。

しかし、これにウカノ自身が異を唱える。


「何かの見間違いですよ。

俺、農民ですもん。

農民なんかが、ナイフ一つでドラゴンの首を落とせるわけないじゃないですか」


農民は弱っちくて、ドラゴンすら倒せないと信じられている。

そこをウカノなりに強調したのだが、何故か受付嬢は真顔でウカノを凝視している。


「どうしました?」


ウカノは不思議に思って、受付嬢へ訊ねる。


「今、なんて言いました?」


「何かの見間違いですよ、と言いましたね」


「その後です」


「俺、農民ですもん」


「さらに後です。

なんて言いました??」


「えーと、農民なんかが、ナイフ一つでドラゴンの首を落とせるわけないじゃないですか?

って言いましたね」


「…………」


受付嬢の顔が怖い。


「なんで、知ってるんですか?

ドラゴンの首が落とされていたって」


「……え?」


「ダークドラゴンの首が落とされていたと知っているのは、ゴンザさんのパーティの面々だけですよ?」


「いや、そこの金髪のお兄さん、ライドさんも言いましたよ?」


冷や汗ダラダラで、ウカノはそう言った。

けれど、他ならないライドに否定される。


「言ってないっすよ?

俺は、『ちっさいナイフでスパッとダークドラゴンを倒しちゃったんです』って言ったんです。

ダークドラゴンの首を落とした、だなんて一言も言ってないっすよ?」


三人のやり取りを聞いていた、たまたまギルドに居合わせた他の者たちも、シン、静まる。

初めてこの冒険者ギルドに来た時のように、視線がウカノへと集中する。


「ウカノさん」


受付嬢の顔が、真顔から一転する。

ニコニコと笑みを貼り付けて、受付嬢は言った。


「ちょっと奥でお話し、しましょうか?」


「え、いや、俺この後用事があって」


「すぐ済みます」


ガシッと、受付台に何気なく置かれていたウカノの手首を受付嬢は掴んだ。

彼女なりに力を込め、ギリギリとウカノの手首を握りしめながら、


「少々、お話よろしいですね?」


逃がさねぇぞ、とばかりにそう言われてしまう。


「あ、はい」


ウカノは素直に了承したのだった。


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