第12話

査定は終わったかな、とトイレを出て戻る。


「すみません。査定終わりました?」


ウカノが戻ってくると、その場の全員の視線が一斉に向けられる。


「……えっと、なにか問題でもありましたか??」


思ったより、解体の仕方が雑で買い取れないとかかなぁと思っていたら違った。

受付嬢が、ツカツカとウカノに歩み寄る。


「問題どころじゃないですよ!!

これ、レッドアークドラゴンですよ!!

スタンピードの兆候の一つです。

いま、ギルドマスター呼んで来るんで待っててください!!

動かないでくださいよ!?」


「わかりました」


受付嬢はウカノの返事を待つことなく、また建物の奥に行ってしまう。

しかしすぐに、今度は大柄な男を連れて戻ってきた。

彼がこのギルドのギルドマスターらしい。


「なるほど、たしかにレッドドラゴンの上級種だな。

で、これを持ち込んだのが、お前か」


ギルドマスターは、綺麗に並べられた解体されている素材と、ウカノを交互に見た。


「はい。

冒険者ギルドの方が高く買取ってくれるからって、農業ギルドで言われたんです」


「なるほど。

それで、このドラゴンはいつ、どこで討伐したんだ?」


「今日、南部で討伐しました。災害が立て続けに起きた所です」


ウカノは正直に答えた。

その答えに、他の冒険者達がざわつく。


「おいおい、いくらなんでも嘘だろ」


「南部って、馬車で何日かかると思ってんだ」


「いや、転移魔法を使えば行ってかえってくることはでききるぞ」


「でも、転移魔法なんて上級魔法使える魔法使いは限られてるだろ?

居るとしたら高ランクパーティになるぞ」


「あの小僧はそのパーティの見習いかなにかってことだろ」


派手に諸々勘違いされている。

転移魔法以外は、全てウカノが一人でやったことだ。


「頭と尻尾が無いのはなんでだ?

内臓も一部無くなってるな?

捨ててきたのか?」


ギルドマスターがさらに聞いてきた。


「え、そんな勿体無いことする訳ないじゃないですか!

炊き出しに使うから、置いてきたんですよ!

被災地は田んぼも畑も流されちゃったんで、食糧不足が深刻なんです。

だから、現地の人たちのために置いてきました。

今頃、その人たちの胃袋におさまってると思います」


ざわつきが消えて、シンと静まりかえる。

そして、戸惑いが広がっていく。


「え、炊き出し??」


「待って待って、ドラゴンって食えるの??」


「尻尾はわかるけどさぁ」


「わかる、脳ミソが美味いんだよなぁ。

新鮮なうちに醤油につけて食うのがいいんだ」


約一名、農民出身の冒険者らしき人間の発言が混ざっている。

しかし誰も気にしない。

その程度には戸惑いが大きかった。


ギルドマスターは頭痛でもするのか、頭を抑えている。


「わかった、とにかく南部には俺から連絡する。

それで他の仲間は?

出来れば転移魔法の使い手と話がしたいんだが」


(農業ギルドは転移魔法を組織的に使えるようにしてるんだけど。

知らないのか)


知られていないのなら、わざわざ説明するのは気が引ける。

なので、ここは相手の勘違いに乗ろうと考えた。

ところが、ウカノが嘘八百を並べ立てるよりも先に受付嬢が説明する。


「そ、それが、ギルドマスター。

彼の保護者兼仲間達には連絡が取れないらしくて」


そこから先は、ウカノが説明した。

勿論、嘘だらけの説明ではあるが。

ギルドマスターは、渋々ではあるが納得していた。


(さて、本当はスタンピードはもう起こらないんだけど。

……言わない方がいいか)


今日は、エリの勧めで冒険者ギルドのギルドカードを作りにきただけだ。

査定もついでだった。

つまり、今回以降ウカノは冒険者ギルドを利用する気が欠片も無いのだ。

あとは冒険者ギルド内で適当にやるだろう。

そうすると、残っているのは。

ウカノは、自分で解体した素材を見た。


(これの買取くらいか)


「それで、この素材は買い取ってくれるんですか?」


とりあえず、ウカノはせっついた。

結局、金貨三百枚になった。

新品の魔導農機具が一台買える金額だ。

かなりの大金である。

それを受け取って、ウカノはすぐに併設されている食堂へ向かった。

そろそろ空腹がいい感じなのだ。

その間にも他の者達の視線が突き刺さり続けていたが、ウカノは気にしなかった。

適当にガッツリメニューを注文し、空いてる席に座って食べ始める。

丼物だった。

一口食べて、ちょっと残念そうな顔になる。

そして、小さく一言。


実家ウチの米の方が美味い」


聞こえるとまずいので、本当に小さな呟きだった。

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