4・元彼女の本音

「もう、なんですの? 急にしゃがみこんで。救護をお呼びいたしましょうか?」

 意外と親切で優しい蓮の元彼女に、悠は”大丈夫”とてをかざす。

「蓮が素敵すぎて悶絶を……」

と切り出せば、

「蓮が素敵なのは認めますわ。ですがね……」

と彼女。


 おやっ? と思う悠。

 だが、蓮は気づいていなかった。


「僕になら何を言っても良いけれど、彼女を悪く言うのはやめてくれないかな」

と蓮。

 この鈍感さですれ違ったのだろうかと思うと、少し彼女が気の毒になる。

「蓮、良いって。それよりも、そんな風に思ってるなら、何故『つまらない男』だなんて言うの?」

 蓮の腕に手をかけ、彼を制すと彼女にそう問う悠。彼女の強がりも嫌味も、きっと蓮には理解されないだろうと思ったからである。

 案の定、彼女は『よくぞ聞いてくれた!』と言うように、悠に向き直った。


「この男ったら、することしてるくせに”一度も”好きだとかか愛しているとかいってくださらないのよ? 酷いと思いません? わたくしは結婚する気でおりましたのに」

 ハンカチを噛みしめ”きいいいいいいッ”と言いそうな権幕で悠に訴える彼女。

 正直同情してしまった。そして、自分にも同じようなことがあったなと思ってしまったのである。

「うん、それは……蓮が悪いと思うよ?」

と蓮を見上げる悠。

 彼は今更の告白に固まっている。


「その上、別れをあっさり受け入れるなんて! 酷い以外の何物でもありませんわ。別れたくないとか、なんとかありませんの? かと思えば、次の女?!」

 ぎろッと蓮を睨む彼女。

 よっぽど蓮のことが好きだったに違いない。

「理由くらい聞いてくれればわたくしだって」

美果みか……あの、ごめん」

 たじろぎながらも黙って話を聞いていた蓮が言葉を発する。

 この女性の名は『美果みか』と言うらしい。

「遊びだったんだって思いましたわよ」

 涙目で連を見つめる彼女。


「あ、いや。あのッ。蓮はあなたが初めての彼女だったらしいですよ」

 敵に塩を送る気はないが、あまりに気の毒だったので、悠は彼女にこそっと伝える。すると、蓮から腕を引かれ、引き戻された。

 下がっていて、とでも言うように。

「ごめん。どうして良いか分からなかった。僕は美果と一緒にいるのは楽しかったよ。別れようと言われた時、それは自分だけだったのかなって思った。言葉が足りなくてごめん」

 悠は頭を下げる彼を見ていた。


「よろしくてよ。でも覚悟してくださいまし。わたくし、まだあきらめたわけじゃありませんので。今日はこれで失礼いたしますわ」

 蓮の謝罪を受け入れた彼女は急に姿勢を正すと、そう宣戦布告をする。

「客を待たせておりますので」

と蓮に指を突き立てて。

「絶対に、あなたを取り返して見せますわ」

と言うと踵を返し去っていく。


「え?」

 蓮が再び固まったのは、言うまでもない。

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