Chapter.26 捨鉢


時は流れ私はなんとか高校3年生になっていた。いよいよ受験に向けて周りも本格的にモードに入り始めた頃だった。私は臨床心理士になりたいとこの時思うようになっていた。結局通えなくなってしまったけど中学2年生の時に私を救ってくれたあの先生みたいになりたい、そう思った。


その話を父親にした。そうしたら父親はとても喜んでくれた。


『自分が決めたことなら最後までしっかり頑張れよ、応援してるからな!』


そう言ってくれた。


颯太は県内の大学に進学するようだった。学校正反対の場所にあるのが少し不安だったけど臨床心理士科がある専門学校がそこにしかなく、その専門学校を志望する事にした。3年生になってから普通科から特進科へ変えた。


同じ学校を志望していた3人の友達とオープンキャンパスにも行った。これを機に絶対立ち直ろう。自分の人生に負けず頑張って生きていこう。

講義を聞きながらそんな事を思っていた。


私はAO入試を受ける事になり、特進科に進んだ事もあって今までに無い位熱中して勉強や面接練習に打ち込んだ。颯太も時間を割いて勉強や面接練習をしてくれた。夢を抱いた事で私は強くなれた気がした。


高校は母親と距離が置ける位置で、と何となくで選んでしまったが

今回は自分で志望校を決め前に進めてる事が嬉しかった。


面談、適正試験、論文提出も終わり、その後研究発表に参加したりし、

いよいよ結果を待つのみとなった。毎日毎日気が気じゃなかった。


ある日バイトから帰りポストを確認すると専門学校から書類が届いていた。

私はバタバタと階段を上がり、震える手で封筒を開けた。


結果は合格通知だった。


私は有頂天で父親にすぐさま電話で報告した。


『もしもし、お父さん!!合格もらえたよ!!』


なんて言葉をかけてくれるんだろう!

本当に本当に嬉しかったから。


『え?』


『専門学校の合格通知!今日届いたんだよ!

でね、入学金の案内が書いてあって…』


書類に目を通しながら父にそう切り出すと父は



『無理だ。』



『え?何が?』



『学校には通わせられない。

お前にはアパートも借りてやっただろう。

だから思えにはもう金は出せない。』



何が起きたのか、何を言っているのか分からなかった。



『え…ちょっと!そういう冗談はやめてよ(笑)!』



『本当に受かると思わなかった。』



手に持っていた書類が勝手に膝に落ちた。



『え…だって応援してるって言ってくれたじゃん、

じゃあ明日先生に奨学金の事とか聞いてみるよ…』



携帯を持つ手が震え始めた。




『高校もまともに行けなかったお前が何になれるってんだよ!』



ピシャリとそう言われ父は続けた。


『お前には妹や弟がいるだろう。実紗は来年高校受験。

大学行かせるなら実紗だ。だから諦めて欲しい。』



『…』



実紗は成績優秀だった。そして私が高校2年生まで学校にまともに通えていなかったのも事実。何にも言えなかった。



『そっか、そうだよね。分かったよ。また電話する。』



そう言って電話を切って数秒宙を見上げ

そうだ、破っちゃわなきゃ。こんな、ただの紙切れ。


ビリビリに破いた。さっきまで嬉しくて抱きしめていた合格内定通知書が自分の手で破けていく。何にも文字が分からない位に



『わぁぁあぁぁぁ!!!!!!』



声をあげて泣いた。

悔しくって、悲しくって。



どんなに頑張ったって報われないんじゃん。

何にも変わんないじゃん。



私は こうやって この底辺な場所で沈んでるしかないんだ。

人が変われるチャンスなんて存在しない。


ずっと飲まずに済んでた薬をまたODしてリストカットをした。

部屋に散らばる夢にも見た内定通知書と薬の抜け殻達、血液。




こんなに泣くなら こんなに辛いなら

歯向かえばよかったじゃない。


怒ったらよかったじゃない。



それが私はいつも、出来ない。




明日、目が覚めませんように。

視界が揺らぐ、滲む。

左腕がジンジンと生を主張してくる。



あぁ、神様。




いるのならどうか

お迎えに来てください、今すぐに。




痛みも苦しみも何もない世界へ

連れていってくれませんか、私を















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