Chapter.22 普通


最初は抵抗があった〝接客〟も気付いたら慣れてしまって何にも思わなくなっていった。離人感に身を任せただ時間が過ぎるのを待った。私は人形と暗示を掛けたら辛いものもなかったがいつまで私はお人形ごっこをしているんだろうとも考えていた。生まれた時からずっと人形。感情のない人形。いや感情はあったんだと思う。ただ死んでしまっただけだ。


そんな生活が2ヶ月程経った頃だった。友人達3人がこちらまで遊びに来ると言うのだ。最初は迷ったが久しぶりに友達と会える事に胸が躍った。


JR新宿駅東口の喫煙所で待ち合わせをした。友達の軍団を見つけると嬉しくて思わず駆け寄ってしまった。すんげぇ都会なんだけどと田舎者丸出しではしゃぐ友人達を見て楽しかったあの日々を思い出して懐かしくて涙が出た。


『彩花!元気にしてたの?!

いきなりお前東京行くっつんでさーびっくりしたべな!!

もー…やめてよー!!もー!!』


と、泣きながら私の肩をバシバシ叩いてきた。

今回私に会いに行く旅を計画してくれたのはこの亜純だ。


『うん、元気だよ、ごめんね…』


半分嘘で半分本当のような気分で言った。



『んでいつまで経ってもけぇって(帰って)こねぇじゃん!

だからうちらで会いに行こうってなったんだよね』


『そうだよね、ごめんね』


『何でよ、うちんちにいたら良かったんでねーの?』


『いや…だって迷惑かかるし、親に見つかりたくないしさ』


『迷惑ってことはねぇけど、でも見つかる可能性は確かに…。

とりあえずご飯食べよ、お腹すいた!ね、皆!』


気付いたら皆泣いてた。

私なんかの為にそんな綺麗な涙もったいない。


新宿までわざわざ来てなんと食べたいものが

ガストがいいって言うからガストへ行った(笑)


山手線一周してたどり着いたこと、東口が永遠に分からなかったこと、

そんな事を話しながらあぁ、この世界に帰りたいなぁとふと思ってしまった。

普通ならこんなの夢とかじゃなくて普通の日常なんだろなぁ。


この前ママと喧嘩してさぁ、とかママと出掛けた時にさぁとか

何気なく話す友人達の普通の日常が本当に羨ましかった。

喧嘩もウィンドウショッピングも私には経験がない。


どこかでずっと線引きをしてた。

この人達と私は違うんだって。


どこか 私は違う星で生まれてる様なそんな孤独感があった。



『彩花、あのね。今日もう1人来てんの。』


その瞬間血の気が引いて意識が戻った。


『え…まさかお母さんとかじゃないよね?!』


友達の目線が私の頭上に向いたのを感じた。




『彩花。』




その声は





彼氏の颯太だった。




『え…』



『来ちゃった。びっくりした…?』



涙が混じったような声。



『……びっくりは、してる』



『帰ろう、一緒に』



颯太は諭すようにゆっくりと言った。

いやでもと言い掛けた時



『俺、帰らないよ。一緒じゃなきゃ。』



友人にも彼氏にも知り合いの家にいると嘘をついていた。

私はもう綺麗なままではない。自らの手で汚してしまった。


今更 彼とどう普通の幸せになれるって言うの?



『どこで何をしていたかなんて聞くつもりもないし知りたくもない。

でもやっぱり寂しいよ、彩花、一緒に解決しようよ。』



あぁ、懐かしいなぁ。

友人達がいて、彼氏がいて。


普通だったのになぁ

あの日々って。


過ぎ去って初めて気づくのだ。


失ったものの大きさも

失ったものが何だったかを


いつもそうだ。





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