Chapter20. 顛落


無事私は志望校に入学する。高校はわざと家から電車などに乗って一時間くらいかかる学校にした。少しでも母のそばから離れている時間を増やしたかった。


真面目に学校にも行っていた。インターネットで知り合った5個上の大学生の彼氏もできた。バイトも22時ギリギリまでほぼ毎日入れた。少しでも家にいたくなかったからだ。臨床心理士になりたいって気持ちも変わってなかったし彼氏の家の近くに臨床心理士科の学校もあった為その頃になったら同棲したいね、なんて話もしていて一生懸命お金を貯めた。本当に真面目な人で大好きだった。


高校2年生の春だった。突然彼氏に『別れよう』と言われる。理由を問うと大学院の研究でそっちに専念したい事とそして将来的なことを考えるとアル中の母を持つ私との結婚はできないと言われた。


彼の家は父親が銀行員、母親が教師という由緒正しい家の長男だった。薄々勘づいていたけどやっぱりそうだよな、と思いながらもやっぱりショックだった。

恋すら障害になってしまう。


私は誰とも幸せにはなれない。


そこからやけくそになって転落するのは本当に早かった。

悪い友達と連む様になり友達の家やナンパされた男の家に入り浸り家に帰らない生活になる。学校もサボる様になった。飲酒、タバコ、万引きなどにも手を染めた。


当然帰ってこない私に母からの鬼電も凄くてかかって来るたび嫌な気持ちになったけど全部どうでも良くなってしまった。富田先生にも全く連絡をしなくなってしまった。というより、出来なかった。現状を知ったら悲しむと言う事は分かっていたからだ。


毎日馬鹿みたいに仲間達と騒いで遊び歩いた。

全部忘れて目を逸らしたかった。過去もこの先のことも何もかも。


とある日の日曜日洋服を取りに昼間家に帰った時の事だった。

何故か珍しく父親が居たのだ。たまたま休みだったのだろう。


私が帰ってきたと分かると父はツカツカと私のところまで来て思いっきり私の頬を引っ叩かれた。


『文句があるならでてけ!!!!』


そう父親に言われたのだ。

この言葉を言われた瞬間抑えて居た何かが沸々と私の中で溢れ返ってしまったのだ。


『文句あるに決まってんだろうが!!言われなくたって出てくよ!!!』



初めて親に反発した瞬間だったかもしれない。

荷物をバサバサとまとめる。


この日もほろ酔い状態だった母親が『何ででてくの?!どこに行くの?!やめなさい彩花!』と私の荷物を引っ張ったが振り払った。



『全部あんたのせいだよ!!!』



と言い残し家を出た。

全部、全部どうでもよかった。



私は家を出て近くのバス停でバスを待っていた。

友達の家は流石に迷惑かかるし足がつくかもしれない。

とりあえず何にも当てないけど新宿に行こうなどと考えていた。


そうしたら自転車に乗って当時小学4年生だった弟の拓也が追いかけてきた。


『本当にどっかいっちゃうの?』


弟が心細そうに私に聞く。


『うん。ごめんね。』


『考え直そうよ…』


『無理。本当ごめんね。もう会えないかも。』


そう言うとその場で自転車に乗りながらくるくる回りだして黙った。


『お母さんに止めて来いって言われたんでしょ?もう行っちゃってたって言って帰りな、寒いから。』


弟は黙ったままその場に回り続ける。

弟は本当に優しい可愛い子だった。


やがてバスが来る。



『じゃあ、いなかったみたいだけど実紗にもよろしく伝えて。』



私はバスに乗る。



『絶対帰ってきてね!!約束してよ』



『…いつかね』



バスが発進してからも弟が自転車で追いかけて来ていたのは気付いてた。

でも、振り返らなかった。私は逃れたかった。



現状から。

母と父から。




昔の私から。




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