Chapter16.水端


翌週私は人生初の精神科に足を踏み入れそして今日までも続く長い闘病が始まる。白で統一された待合室は窓からの光が反射して眩しかった。そわそわとずっと歩き続ける人、項垂れてる人、一見普通な人、色んな人がいた。


私は一体何なんだろう。なんて病気なんだろう。

普通の人には何がなくて何があって普通なんだろう。先生どんな人なんだろう。

不安ばっかりだった。父はただ黙って横に座っていた。


間も無くして私の順番が来る。父も一緒に入室しようとしたが最初は私1人で、との事で1人入室した。


話した事はこの前学校でケースワーカー達に話した事を話したり、自傷行為はいつから始まっただとか医師に目を閉じる様に言われ雲の上にいる想像などをする治療?を行ったりした。その雲の上で誰に出会うか。私は母だった。それが何を示すものだったのかは知らない。


はい、戻りましょうと幻想の世界から現実に戻される。

次は2週間後にまた来てくださいね、と先生が淡々と言った。次に父が呼ばれ私は待合室で待った。もしかしたら何でもなかったのかも。先生何も病名とか言わなかったし…。この時の私は風邪などとは違い精神科の病名が付くのは長きに渡るとは知らなかくて呑気にそんな事を考えていた。


しばらくして父も診察室から出てくる。


『先生、なんか言ってた?』


『お前もこれから治療はしていかなくちゃいけないって…治療が必要なのはお母さんもそうだって言われたよ。』


『…そうなんだ、じゃあお母さんも連れてくるの?』


『なんて言うんだよ。精神科にお前も行けってお母さんに言うのか?』


少しイラッとした感じで言われた。


『……。』


父はどこかで私のこれらの症状は一過性だと言われるのを期待していたようにも感じた。だから思い通りじゃ無かった事にイライラしたのかなって。


『俺はな、精神病って心の甘えだと思うんだよ。

皆嫌なことなんてあるよ。でも頑張って歯を食いしばって生きるんだよ。』


『……。』


私は何も言えなかった。

正直少なからず私は甘えなんじゃないか、そうなんじゃないかって頭が少し私にもあったから。私が耐えられたら問題ないのに。


『とりあえず薬が出るらしいから。』


父は何かを考えてそうな顔をしながら言った。



でもね。お父さん。

本当に辛かったんだよ、私だって。今だって。


分かって欲しいなんて言わないよ、何となくそれが無理なんだって事も分かってる。でもそれをお父さんに否定されてしまったら私、どうしたらいいの?



どうしたら私は私を取り戻せるの。

そもそも私はどんな人間だったの。


思い出せないの。分からないの。


いつから私は〝私〟を演じる様になったのか

人の顔色が目に見えて分かる様になったのか


相手がどんな言葉を欲しがってるか手に取るように

分かるようになって 苦しくなったのはいつからだっただろうか。


言葉と裏腹な他人の感情に気付き白けるようになったのは

一体 いつからだっただろう。


いつしか誰にも心開けなくなってしまったのだ。

敵じゃなくても 味方にはなってくれないだろう。


白か黒かという考え方しかできず

グレーに染まることが出来なくって踠き苦しんだ。


若しくは目を覆うのだ。

母が白いものを黒と言ったら黒のように

真実を分かっていながら目は覆うのだ。


そうしたら嘘じゃない。

そいて私は言うだろう。


『それは黒です』と。

思い込めば白も黒になる。目に映るものなんてただの虚像だ。


母はそんな私を八方美人だとよく罵った。


きっと、間違えじゃない。

だって誰も傷つけたくない。私も傷つきたくない。


それの何がいけないの?

どうして叱るの、殴るの?


反発すれば 反論すれば 生意気だとどっちみち殴られる。

なら 八方美人で私はいい。


どちらかといえば 人に嫌われたくはないのだ。






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