職員室にて

 職員室にはほとんどの先生が揃っていた。もちろんそれぞれ自分の席に着いているが、僕達の会話を聞く為に集まって来ているのは疑いようもなく、書類、答案を見ている素振りだが聞き耳を立てている様子はうかがえた。


「まずは今回のこの騒ぎについての説明とそれに対する弁明を聞きます。言えるわよね?それとも一方的な処分を甘んじて受けるつもり?」


 言い終わると広瀬先生は右手の中指、人差し指で自分の鼻の上の眼鏡フレームを"くいくい"と押し上げた。無自覚に出る決めポーズなのは本人は自覚していないらしい。

 先生全員を代表して対応しているプレッシャーもあるのだろう。普段以上のペースで"くいくい"と繰り返していた。


「今回の一連の騒ぎについて、僕達は無罪だと主張します」

「ボクも琢磨と同意見だよ」


 後は任せたと響が隣で頷くのを確認して僕は話を続けた。


「まず第一に僕達は放課後の中庭で告白しただけです。僕が響を呼び出して告白しただけ、ただそれだけの事です。

 校内での告白するなんて、年頃の高校生ならよくある事です。特段、僕達だけが咎めたてられる理由はないですね」

「それに関しては――」


 広瀬先生は後ろを振り返り、職員室の奥で首を振る先生達の姿を見て僕達の方に姿勢を戻した。


「――学校側には規制する理由がないから不問になります」

「では次に――」


 口調がペースダウンした広瀬先生にたたみ込む様に追撃を掛ける。


「大勢の生徒達が集まった事についてですが、これは響の親衛隊がSNSで拡散した事が原因だと思われます――」

「それなら――」

「今は琢磨が話しているんだよ?割り込まないでくれるないか?」


 口を挟もうとした広瀬先生の口元に向かって響が右手をパーの形で突き出して黙らせた。

 自分が行儀の悪い事をしていると認識した広瀬先生が黙ったのを確認して話を続ける。


「親衛隊の行いに対してその責任を響に取らせるのは筋が違うと思います。さらに、スマートフォン等の通信電子機器の持ち込み、使用を学校側が認めている現状で、逆に被害者とも言える僕達が責め立てられる理由がわかりませんよ?」

「それについて――」


 先程と同じ様に後ろを振り返った広瀬先生が肩を落として前に向き直った。


「――も同様に学校側には規制する理由が無いので不問です」

「そういう事なら僕達は帰っても良いですよね?」

「さあ、琢磨、こんな辛気臭いところからはさっさと退散しようじゃないか!」


 響がいつものように両手を広げてオーバーリアクションで退出を促した。

 お互いの為にもこの辺りで折り合いを付けた方がいいと僕も思う。

 異論がないようなので振り返り職員室の出口に向かって歩こうとした時に声を掛けられてた。

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