第5話 推理

 俺はもう一回、美緒ちゃんの事務所に電話した。ああ、美緒の初恋の方ですね・・・親戚の。ということで、現状を正直に話してくれた。


 結局、美緒ちゃんという人はどこの誰かもわからなかったそうだ。住んでいた部屋は事務所が借りた物だったし、彼女の本名を誰も知らなかったらしい。


 もともとはスカウトだったけど、その時は銀座でホステスをしていたそうだ。そのお店にも行ってみたけど、出身が〇〇県ということ以外は何も言わなかったそうだ。取り敢えず、俺のことを知ってるのだから、〇〇県と関係があるのは間違いないだろう。いや・・・名前がサトシ君で、背が高くて、サッカーがうまい人なんていくらでもいるだろう。あれ・・・。あれ・・・あれぇー‼


ただの偶然?

まさか!

仕込みだったってわけ?

だって、おじさんとおばさんがいて養子だったって言ってたじゃん。

わけわからん。


***


 しばらくして、敏行さんが遺体で見つかった。自殺だったみたいだ。遺書があったそうで、養父母を殺害したと書いてあったらしい。


 被疑者死亡のままあっけなく書類送検された。

 敏行さんを見かけたことはあるけど、元ヤン風の人だった。

 不機嫌そうで話しかけずらい感じ。

 気の毒だけど何の感情もなかった。


 警察は美緒ちゃんに多少なりとも辿り着いたのだろうか。いや、美緒ちゃんは関係ないのかもしれない。変なタイミングで俺の前に現れて、そして行方不明になった理由は一体何だったんだろうか。


 おじさんとおばさんは殺害された。

 同居していた敏行さんは遺書を残して亡くなった。

 美緒ちゃんはいなくなった。

 そもそも、美緒ちゃんは本当に誘拐されたんだろうか。


 おじさんとおばさんは資産家だったが、脱税もしていたようだ。

 そのおかげでか、多額の現金が家にあった。

 美緒ちゃんは誘拐されて、おじさんたちは金を要求されて支払ったのかもしれない。

 これは俺の推理。

 しかし、美緒ちゃんは戻って来なかった。

 やがて敏行さんを養子にもらった。


 美緒ちゃんは義理両親からも世間からも忘れ去られた。

 自由になった頃には、戻る場所はなかった。

 おじさんたちは身代金を要求され、払ったのに美緒ちゃんの捜索願いを出さなかった。それが脱税した金だったからだ。おじさんたちは世間に誘拐されたと言えなくて、家出だと触れ回っていた。

 誘拐犯たちは、美緒ちゃんに「おじさんたちはお前を捨てた」と言ったのだろう。幼い子どもだったら嘘を信じてもおかしくない。美緒ちゃんは養父母に見捨てられたと思っていたから、ますます家に帰れなかった。


 もしかしたら、俺を介して義理両親に自分の活躍を伝えて欲しかったのかもしれない。俺が電話したことで、テレビを見てくれたりしたかもしれない。

 俺は事件に対して勝手にそう決着を付けた。


 ***


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