第6話 猟兵

 ――魔導列車の先頭車両に、ヴェルト・アーヴァイスはいた。

 数名の部下を引き連れて、完全に制圧した状態だ。

 ここに待機していた騎士もいたが、すでにヴェルトによって葬り去られ、遺体は魔導列車の外に投げ出された。

 それだけで、見せしめには十分な効果がある。――逆らえば死ぬ、という絶対の恐怖が。


「……なぁ、オレはこんな仕事を終わらせて、今日はさっさと飲みに行きたい気分なんだ」


 不意に、ヴェルトは口を開いた。

 それを聞いて、部下達は少し焦った様子を見せる。


「ターゲットは小娘一人。オレ達、猟兵団の敵じゃあねえ……だろ?」

「はい、その通り――」

「だったら、なんでまだ終わってねえッ!? どころか、乱入してきた小娘にやられて帰ってきた奴までいやがるじゃあねえかッ!」


 ドンッ、と拳を床に叩きつける。

 先ほど、ルーテシアを始末するために送り込んだ六名のうち――生きて帰ってきたのは一人だけ。

 ヴェルトはそんな簡単な任務に失敗した部下を生かしておくほど甘い男ではない。

 車両の壁にめり込むように打ちつけられ、絶命した死体がそこにはあった。


「わ、分かりません。確か、護衛のメイドが一人いたは――ず!?」


 答えた部下の一人が、ヴェルトに頭を掴まれて驚きの声を上げた。


「メイドが一人? なら、小娘は二人になっただけだ。それで、どうしてまだ終わらねえ? オレの部下に弱い奴はいらねえんだ……分かるよな?」

「ギ……ァ」


 ミシミシと頭を握るだけで、骨が軋む音が響く。

 だが、ヴェルトは不意に何かに気付いたように離した。


「おっと、いけねえな。お前はまだ失敗はしてない奴だ。ここで殺すのは、ただの損失になる。オレとしたことが、危うく自分の信条を破るところだったぜ」


 頭を潰されそうになった部下は、怯えた表情でヴェルトを見る。まだ失敗していない――生かされた理由はそれだけだ。

 そんな時、部下の一人がまた報告に戻ってきた。


「ご、ご報告が……」

「いい報せなんだろうな?」

「それが……始末に向かった者が次々と――」

「おい、失敗したのなら、何でお前は戻ってきたんだ? オレは『始末した』以外の報告を聞くつもりはないんだが」


 ヴェルトが言葉を遮ると、周囲は静寂に包まれた。

 ゆっくりとした動きで、ヴェルトは報告に来た部下の前に立つと、そのまま拳を振り下ろした。

 ズンッ、と車両全体が揺れるような衝撃。拳一つで、簡単に人を殺せる威力があった。


「どいつもこいつも使えねえ……オレが直接、潰してきてやる」


 血に濡れた拳を握りしめ、ヴェルトは隣の車両へと移る――


「なんだ、もう来やがったのか。手間が省けたな」


 そこには、刀を握った少女が一人、待ち構えていた。

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