28
――次の日の朝。
レミは調査隊のメンバーたちと共にギリシャはアテネから出発し、トルコのイスタンブールへと入り、そこからは車で移動。
もちろんツナミや他のメンバーたちに実力を認められたユリも参加し、アダナへと入る。
イスタンブールからサゴール遺跡にある地域で一番大きな街はアダナ。
アダナはトルコ中南部にある都市で、トルコで五番目に大きな都市である。
イスタンブールからアダナへは直行便が出ているので、本来なら一時間半ほどで着くが、レミたちは先に述べたように移動には車を使用した。
それはトルコ到着後に入手した武器やら道具を運ぶためだ。
イスタンブールからアダナまでのバスが出ているが、その移動平均時間は約半日で舗装されていない道を進むのでかなりしんどい。
スキヤキ率いる調査隊はアダナから出発後、アダナから少し離れたサゴール遺跡に車で数時間というところで一泊――キャンプをすることになった。
それは、これからやってくるディスケ·ガウデーレとの決戦に備え、移動の疲れを残さないためであり、当然アテネの屋敷でやっていたパーティーもなしだ。
数十人でのキャンプというだけあってまるで軍隊の駐屯のような仰々しさもあり、張られたテントもかなりの数だ。
サゴール遺跡の周りは谷で囲まれており、空気も澄んでいて気分は山登りだが、誰にもそんな気楽さはない。
一泊するための準備を終え、夕食も各自調理不要な缶詰めや保存食といった簡素なものだった。
「探しちゃったよ」
その静かな夕食の時に、ユリはアテネではあまり話せていなかったレミに会いに行った。
レミは皆がいるキャンプから少し離れた原っぱに腰を下ろし、缶詰めの中身をフォークで突いていた。
「大丈夫?」
すでに食事を終えていたユリは、レミの隣に座ると心配そうに声をかけた。
視線を彼女が持っている缶詰めにやると、まったく減っていない。
それを見るだけで、明日に迫ったディスケ·ガウデーレとの決戦――母であるクレオ·パンクハーストとの対峙するのが、彼女には辛いのだということがわかる。
食事も喉を通らない。
だが、それでもユリは言う。
「ちゃんと食べたほうがいいよ。スキヤキさんの話だと今日がゆっくりできる最後の食事になるって言ってたし」
「うん……。わかってるんだけどね……」
覇気のない返事。
なんとか元気づけてあげたいが、アテネでのときと同じくユリにはレミにかける言葉がない。
母親と殺し合わないといけない状況で、他人に何か言われたくないだろうと思ってしまって、ここ数週間で考えていた励ましの言葉の数々も消えていってしまう。
(友だちの力になれないって、こんなに辛いことだったんだ……)
落ち込みながらユリは思う。
なんて自分は無力なのだろう。
これなら声なんてかけずにそっとしておいてあげればよかったと。
ユリは自分の情けなさを責めながら、ただレミの隣で俯いていた。
それから数十分、いや数時間だったかもしれない。
しばらく沈黙が続くと、レミは立ち上がって皆のいるテントのほうへと戻っていく。
「レ、レミッ! あ、あのさッ! あたしは、そのッ!」
そんな彼女の背中を見て堪らず声をかけたユリ。
当然かける言葉はないが、必死で頭を働かせる。
しどろもどろでみっともないと自分でも思いながら、元気のない友人にかける言葉を探す。
レミはそんなユリを見ると、覇気のなかった彼女の顔が緩んだ。
そして、レミは手を振りながらユリへと言う。
「ユリ、ありがとうね。僕はもう寝るよ。おやすみなさい」
「えッ? あぁ……。うん、おやすみなさい……」
去っていくレミに何も言えなかったユリは、一人その場に残り、周囲に見える山々を眺めていた。
広大な山脈に囲まれた場所で、次第にその身を震わせた彼女は突然山々に向かって声を張り上げる。
「あたしやるからッ! レミのために頑張るからッ!」
そして、今頃出てきた友人にかける言葉を吐き出した。
ユリの吠えるような声は谷へと響き渡り、彼女の言葉はレミを含め、調査隊のメンバーの誰もが聞いていた。
――ユリが山に向かって叫んだ次の日の朝――ディスケ·ガウデーレの面々は、サゴール遺跡の前へとやって来ていた。
蜂の巣のような不思議な形をした断崖にあるサゴール。
クレオ·パンクハーストを先頭に、彼ら彼女らは遺跡内へと入って行く。
中は山を繰り抜いて岩で舗装された道でできており、上下左右ともに石壁が続いていた。
クレオたちディスケ·ガウデーレの面々は、分厚い棍棒のような懐中電灯で真っ暗な遺跡内を照らしながら進んでいく。
「……やはり来ていたか」
彼女たちが大きく開いた空間に出ると、そこは昼間のような明るさになっており、スキヤキたち調査隊が待ち構えていた。
全員が棍を構え、いつもとは少し違う道着を着ている。
その服は、ずっと着ることを拒んでいるように見えたレミも身に付けていた。
当然ユリもだ。
「お前の求める力はこの先にあるだろうが、それ以上に危険な魔物が中にはいる」
スキヤキが前に出てきてクレオに声をかけると、彼女はフンッと鼻を鳴らした。
そして、どうでもよさそうに首を左右に振ると、その口を開く。
「そんなことは知っている。普通の人間ではその魔物に喰われるだけだろうが、私には力がある。扉を開けてちゃんと魔物も殺してやるから、安心して帰るといい」
「クレオ·パンクハースト。魔物のことを舐めるな。たとえインパクト·チェーンの力を使おうともかなりの犠牲が出る。それに、もし取り逃がして魔物が世に放たれたら、世界は大混乱に陥るぞ」
「何度も言わせるな、ご老体。魔物は私が必ず殺す。だから、そこをどけ」
「話にならんな。ならば、わしらは世界を守るのみ」
スキヤキの言葉を聞き、調査隊のメンバーたちが一斉に前へと出てきた。
それを見たクレオは、またも鼻を鳴らすと部下たちに声をかける。
「全員殺しても構わん。私の進む道を作れ」
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