第12話 止められない止まらない

 部屋が広くなった。うん。広くなって二人分の布団が敷けるようになった。


 ……わかってはいたけど、ここでティア様と同棲すんのかオレは……?


 いや、なにかするわけじゃないが、女性経験のないオレに過酷すぎやしない? なんか部屋の匂いがティア様に漂っている気がするよ……。


「深く考えるのは止めよう」


 オレにはやらねばならないことがあるんだ、欲情なんかに構っている暇はない。愛華を救うために魔王軍を殲滅しないとな。


「ティア様。オレは街の外で魔物を狩ってきます」


 魔王軍が王都に閉じ籠ってしまったが、有象無象の魔物は外を徘徊しており、他の街との往来を邪魔しているそうだ。


「兵をつけなくて本当によろしいのですか?」


「いりません。一人のほうが楽ですから」


 リミット様は仲間を集めろとは言ったが、数が少なくなった兵士を使うわけにはいかない。地下牢にいたような魔物なら仲間はいらないさ。


「武器は持たないのですか?」


「とりあえず、元の世界から持ってきたナイフをつかいます」


 スーツのポケットはすべて十倍の収納力がある。刃渡り三十センチのナイフでも余裕で入る。念のため五本は買ったからしばらくは問題ないだろうさ。砥石もあるしな。


「あ、セフティーホームに食料を入れててもらえますか? 腹が減ったら食事しに戻りますんで」


 物資不足みたいだが、備蓄していたそうでそこまで食糧には困ってないとか。パンと塩漬け肉があればなんとかなるだろうさ。シチュールーとカレールーは一箱ずつ買ったしな。ちなみに米は百キロ買いました。


「はい。料理を運んでおきます。なにかあっても夜は帰ってきてくださいね」


「野宿は無理なので帰ってきますよ」


 どこでも眠られるとは言え、さすがに魔物が出るような外で眠るとかあり得ないわー。アフリカのサバンナで野宿するようなもの。朝起きたらライオンに噛られてました~とか嫌だわ。


 ……それで死ななくても噛られて目覚めるとか悲しいわ……。


「まあ、外までの案内はお願いします」


 城下町で迷子とか情けなさすぎるし。


 ロイズさんが呼ばれて城下町の外まで案内してもらった。


 異世界の街を堪能したいところだが、今は魔王軍の侵略でピリピリしている。そんな中を見回ってもおもしろくないのだから魔物退治に勤しみましょう、だ。


 城下町の外に出る門までくると、門は堅く閉ざされており、武装した兵士が守っていた。


 この門もデカいな。巨人が出入りできるようにしてあるのか?


「ソレガシ殿。お気をつけてください」


「ええ。死なないていどにがんばってきますよ」


 扉の下に人が通れるほどの出入口があり、そこから外に出れるようだ。


 そこから外に出ると、弓を持つ兵士が並んでおり、魔物の侵入を防いでいた。


「下町には多くの魔物が隠れています。充分お気をつけください」


「はい。では、いってきます」


 柵を退けてもらい、魔物退治へ出発した。


 とりあえず大通りをまっすぐ進んでいくと、豚頭──トールの群れが現れた。


「姿はアレだが、美味い魔物なんだよな~」


 せめて四足歩行の魔物なら印象も変わるんだが、二足歩行だと倫理観があれこれと湧き起こってくるんだよな。


 それでも襲ってきたら殺すまで。ズボンのポケットからククリナイフを抜いてトールの首を狩って──いや、刈っていった。


 ワンパンで倒せる相手だが、殴り殺すって意外と汚れるものだと知った。いくら汚れが落ちると言っても顔にかかるのは気持ち悪いわ。


 二十匹ほどの首を斬り落とし、心臓の辺りを斬り裂いて魔石を取り出した。


「小さいな」


 これだけいても大した足しにもならない。変換(換金?)率、もっと上げてくださいよ、リミット様~。


「また出てきたか」


 魔石を取り出すまで出てこなかったのだからよしとしよう。


 現れては首を刈り、魔石を取り出しての繰り返し。なんだろう? オレはRPGじゃなく無双ゲームの世界に連れてこられたんだろうか? 現れる数がハンパないんですけど!


 せっかくククリナイフで刈っているというのに、数が数なだけに返り血を浴びる量もハンパない。全身血まみれだよ!


 それでもトールの勢いが止まらないのでこちらも止められない。あまりのことに怒りがふつふつと湧いてきた。


 ちょうどよく落ちていた木材を拾い、力を抑えて振り回した。


 リーチが長いので返り血は浴びなくなったが、辺り一面血と肉の海である。現実の戦いとは凄惨なものだよ。


 二百、いや、三百は殺しただろうか、やっとトールが退いてくれた。


「ふー。退き際を知らんヤツらだよ」


 木材を放り投げ、きた道を戻った。


「すみません。手を貸してください」


 あんな量のトールから魔石を取り出すなんて無理。やったら夜中までかかるよ。


 血まみれのオレに戸惑う兵士たちだったが、理解ある人がいてくれたようで、門の中に報告して三十人くらいの兵士を出してくれた。


「すみませんね。一人じゃ魔石を取り出せないんで」


 指揮する兵士に謝罪した。


「あ、いえ、トールはこちらで片付けでよいだろうか?」


「構いません。オレが欲しいのは魔石なんで。そちらで処理してください」


 街の足しとなるならどうぞどうぞだ。

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