第10話 厄介払い ※スターム侯爵家当主視点

 婚約を破棄された娘のベリンダをどうするのか、今後について考えなければならない。


 妹のペトラについては心配ない。ベリンダの代わりに、フェリクス殿と婚約をすることが決まったから。ハルトマイヤー公爵家との縁が切れなくて、本当に良かった。だが代わりに、ベリンダをどうにかしなければならない。


 私は妻と共に、頭を悩ませていた。新たに婚約する相手を探さないといけないか。しかし、候補が居ない。婚約を破棄されて、色々と厄介な問題も抱えている。なのにまた、新たな相手を探すというのも面倒な話である。


 しかもペトラがハルトマイヤー公爵家に嫁ぐことになったので、ベリンダには婿を取って、子供を生んでもらう必要がある。その子にスターム侯爵家を継承する。そうしないと、スターム侯爵家が途絶えてしまうから。しかし。


「あなた、やっぱりあの子は修道院に送るべきじゃないかしら」

「まあ、それが一番いいかもしれないな」


 妻の提案に、私は同意する。我がスターム侯爵家やペトラの邪魔をしないように、遠くへ追いやる。


 スターム侯爵家の跡継ぎ問題については、ペトラの生んだ子を養子に迎えれば解決するだろう。子供が生まれるまで、少し待たないといけないだろうが。それが最善の策のように思えた。


 だが、ベリンダを引き取ってもらうために寄付が必要になりそうだ。お金が必要になる。それが嫌だった。


 せっかく貴族令嬢としての教育を受けさせてやったというのに、全て無駄になってしまった。それなのに更に、お金を出すことになるなんて。どれだけ無駄金を払わなければいけないのだろうか。


 そんなことを思いながら、ため息をつく。本当に面倒だな。


 そうやって娘の処遇について悩んでいた頃に、ナハティガル男爵家からベリンダを引き取りたいという話が舞い込んできた。


 今まで、ナハティガル男爵家と関わったことのない我が家にどうして、ベリンダを引き取りたいという話を持ってきたのだろうか?


 疑問に思ったので話を聞いてみた。どうやらこの養子の取り引きについて、あまり世間には知らせたくないらしい。取引の内容を隠して、内密に引き取らせてほしいという事だった。


 最初からナハティガル男爵家の娘だったと、経歴を隠蔽する。そのため、引き取る相手に多少の問題があっても気にしないということらしい。なるほど、だから問題のあるベリンダに目をつけたのか。


 スターム侯爵家がナハティガル男爵家と関係が薄いのも、この取引を隠すのに都合が良い。


 この取引に関して、あのエンゲイト公爵家が証人になってくれるらしい。


 大臣にも既に話を通してあるらしいので、後はベリンダを引き渡すだけで終わる。既に、取引する準備は整えてある。取引のお礼に、大金を支払う用意もある。そんな説明をされた。


 この話は渡りに船だった。ベリンダの処遇について悩んでいた私達に、有利な条件を提示してくれた。断る理由など無かった。


 むしろ、願ったり叶ったり。さっさと娘を家から追い払いたいと思っていたので、すぐに了承する。


 こうして、スターム侯爵家からベリンダを引き取ったナハティガル男爵家。娘との関係を断ち切って、これからは無関係を装うだけ。


 スターム侯爵家のベリンダは、病気で亡くなった。そして、ナハティガル男爵家に引き取られた娘とは一切関係ない。それが事実。


 大金を受け取り、娘のベリンダをナハティガル男爵家に押し付けることに成功した私は、とても満足していた。

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