第35話 帰還した彼女
昨日、悪の組織666は一日にして壊滅した。
僕は666の壊滅の立役者として表に立たされる。
今日はそれについて各新聞社による取材を店の二階で受けていた。
色々と聞かれたよ、内容は666についてばかりじゃなく、僕の出生についてまで。
「では最後になりますが、ウィルさんはまだ独身だそうですね? 誰かお目当ての人などいないのでしょうか? もしいなければ弊社の新聞にて大々的に募集をかけておきますよ」
「はは、確かに独身で、現在はそれらしい人はいませんが、そんなこと書かなくても結構ですよ」
って言ったのに、その新聞社の速報を見たら末尾にちゃっかり書いてあった。
僕の写真が掲載された新聞と言う新聞を集めたエンジュが、持ち家の食卓で聞く。
「どうして私を引き合いに出さなかったの?」
あの新聞社は許さないぞ?
「明日、大変なことになると思う」
「って言うと?」
「この記事を見て勘違いした王都の女がウィルに張りつくんじゃないかな」
「……たぶん、それはないよ」
「もう一回聞くけど、どうして私を紹介しなかったの?」
理由なんてない、僕は事実をのべたまでだ。
そう言うとエンジュは悲しい顔つきになり、話題を切り替えた。
「ロイドが提案した祭りは進行してるの?」
「着々と、王室に祭りの話を伝えたら色よい返事が来たしね」
「ふーん、いつやるんだっけ?」
「三日後ぐらいかな」
「楽しみにしてる、それはそうとなんで私を恋人って言わなかったの?」
「その話いつまで続けるつもりなんだ?」
◇ ◇ ◇
翌日、エンジュがあやうんでいたことは本当になった。
お店で働いていると、声を掛けてくる女性がいて。
「恋人いないんですよね?」
「えっとー、いない、って言うと語弊があるかもしれませんね」
「えー、新聞に書いてあったのに」
その対応にじゃっかん追われたりもした。
彼女がさると、一緒に店番していたビャッコが近づいてきて。
「またウィルの恋人立候補さん?」
「うん、けどお断りしたよ」
「あらら、でもまぁしょうがないよね、ウィルは私にメロメロだもんね」
「は?」
「……ねぇウィル、私、あの時言われたこと、なんていうか、嬉しかった」
だから、は?
いいから仕事に戻ってくれと、言おうとすれば、ビャッコは耳元で囁く。
「金貨十枚で、いいからね。ちなみに結婚したい場合は財産の半分ちょうだい」
やめてくれ。
その後も、僕の財産目当ての女性がたずねてくる。店で働いていたミーシャには白い目で見られ、トレントは大声で「ウィル、今日はモテモテだね!」といって僕に羞恥心をおぼえさせていた。
「ウィル、新聞の記事見ました。今回は大手柄でしたね」
「あ、はい、ありがとうございます。って君かジニー」
その日、一か月半振りに彼女の顔を見た。
透き通った青い瞳に、炎のように燃え盛る赤い髪のヴァージニア。
「いつ王都に戻ったの?」
「今日ですよ、王城で任務達成の報告をした時に貴方の名前がでたので」
「王城で? 下手に有名になるのは嫌なんだけどな」
彼女はいしゅくする僕をみて、薄紅色の唇をつりあげる。
「お店が終わった後でいいのですが、少し時間をくれませんか? 貴方に話したいことがあるので」
「あ、ああ、うん、わかった。けど一応これだけは言わせて欲しい、おかえり」
「ええ、ただいま。それじゃあ夜にまた来ますね」
出会った当初の彼女のことを考えると、今は自信にあふれていて、騎士の称号にふさわしい。ジニーは王都近郊の魔獣討伐の功績をたたえられ、騎士団のなかでも出世街道にのったらしい。
立ち去る彼女を見ていると、ミーシャが声を掛けた。
「ウィルは屑にゃ」
酷くない?
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