第12話 元ギルドメンバーとの再会

 翌日、目が覚めるとジニーの姿はなかった。

 騎士のお勤めに行ったのだろう、ご苦労さま。


 僕も僕でこれから仕事がある、まずは下準備してっと。


「エッグオブタイクーン・ウィル! 約束通り来たよ」

「ああ、その声はビャッコ? 他人の家に勝手に上がるのは禁止な」

「何してるのウィル?」

「今日は忙しくなりそうなんだ、ビャッコもついて来てね」


 と言い、彼女に荷物の半分を持ってもらう。


「う、意外と重い。ウィル、無理しないでね」


 じゃあ行こう、聖女教会で従業員たちが待っている。

 聖女教会前に着くと、フレイヤは僕たちの来訪を待ち受けていた。


「お待ちしておりましたよ、ウィル」


 彼女の隣には子供たち目を輝かせながら列をなしていた。


「フレイヤ様、家お借りしますよ。みんなも家に移動してねー」

「はーい」

「何をやればいいの?」

「内職だよ、卵を詰めるためのパックを作成してもらう」


 子供たちに口頭で説明すると、反応はさまざまだった。

 中には内職を好む子もいて、真剣にやってくれそうだ。


「うーん、上手くできない」

「大丈夫、このくらいなら使えるから。そう言った目利きも出来るようになってね」

「これ一個作れば銅貨一枚くれるってほんとー?」

「本当だよ、今からお昼まで一生懸命作って、出来た分だけ銅貨あげるからさ」

「はーい」


 子供たちの紙パックの作り方は大体こんな所でいいだろう。

 あとは本命のママに会い、彼女に渡したいものがあるんだ。


「ママはどこかな?」


 子供の一人であるナッシュに聞くと、ナッシュは完成した紙パックに達成感を得ていた。


「よし、ママだったらたぶん洗濯物干してると思うよ」


「ありがとう、みんなは引き続きお願いね。すぐ戻って来るから。ビャッコ、ここは頼んだよ」


「OKです!」


 ではママに会いに行こう。

 家から出て、日当たりの良さそうな所を探すと、ママはいた。

 教会の横に隣接している芝生の上で洗濯物を干している。


「ママ!」


 僕は遠くから声を掛け、彼女に手を上げてあいさつした。

 ママはこちらに手を振って歓待してくれた。


「君に渡したいものがあるんだ、これ」

「これは何かな?」


 ママに渡したのは汚れた大学ノートで、中身は僕の研究メモが書かれている。

 プリンの章であればプリン製造に関する研究成果が。

 マヨネーズの章であればマヨネーズの製造に関する研究成果が。


 ママは中をぱらぱらと確かめると、鋭いことを聞いてきた。


「……貴重なんじゃないのこれ?」

「大丈夫、どれも卵を必要とするから、僕たち以外には関係ないよ」


 たぶん。


「君には一か月でこのノートのメニューを完成させて欲しい。そしてそれは商品として僕の卵専門店に卸してくれ、それがママの仕事と報酬内容。君の能力を見込んで新商品の開発も暇があったらやって欲しい」


 だけど先ずはノートに書かれているプリンを完璧に再現して欲しい。


「今からお願いできるかな、洗濯なら僕がやっておくし」

「仕事熱心だね、そういう人好きだよ」

「頼むよママ、もしノートのメニュー全部再現したら一つなんでも言うこと聞くよ」

「わぁ嬉しい、わぁ」


 ママはノートを手に持ち、家に向かった。

 彼女ならきっと美味しいプリンを作り上げてくれるはずだ。


 一応それを子供交えて試食して、店に出せそうか判断しよう。

 今日の仕事はこれだけだけど、重要な時間だと思えた。


 店が開くまであと一か月、軌道に乗って来て今はとても楽しい。


 ママの代わりに洗濯ものを干していると、思わぬ人物から声を掛けられた。


「ウィル! よかった会えたよウィル!」


 死角から誰かが僕を両手で抱きしめていた。


「その声、もしかしてトレント?」

「ああ、俺だよウィル! ウィルがいなくなったギルドは詰まらないから飛び出してきたんだよ!」

「おお、そっか。ならまた一緒に働こうよ」

「ありがとうウィル! ありがとう!」


 トレントは興奮気味に強く抱きしめてくるが、若干痛いからそろそろ離して。


「ちょっとー、男子たちだけで楽しそうにしないでよー、私も混ぜてよー」

「ミーシャも! そっか、来てくれたんだ」

「にゃー」


 トレントは倉庫の責任者だから僕と同じ商売勘はあるし。

 ミーシャはギルドの事務を請け負っていたから、これで会計の間違いは起こらない。

 さらに言えばパティシエとして有力なママもいるし、これはいける。


 僕の店は絶対に、盛況して、大人気店になる!!


「所で、二人がいっぺんに抜けちゃってギルドは大丈夫なの?」


 素朴な疑問を聞くと、トレントは悲しそうな顔をしていた。


「ウィルが抜けた後、ギルドの業績がどんどん下がっていったんだ」


 事務をやっていたミーシャは証拠としてギルドの売上表の転写をだした。


 見ると、売り上げのグラフが右肩下がりで落ち込んでて。

 一方、新商品開発のための予算は膨れ上がっていて。

 あのギルドは僕が抜けた三日目からさっそく赤字を出していた。


 落胆したよ、兄弟子たちの汚い感情によって招かれた結末に。

 三日目以降も赤字は続いてて、転写はそこで切れている。


「ウィルがいなくなったからって、三日で赤字はやばいにゃ」

「だから俺、ミーシャに相談してウィルの後を追ったんだ」


「はぁ、いやごめん、今のため息は兄弟子たちに向けての奴だから」

「なんでウィルがあの時頭下げなかったのか、わかったぜ」


 というトレントは、あの時僕の代わりに頭を下げるって言っていたな。

 よほど僕を信頼してくれていたことがわかり、感謝を伝える。


 旧知の親友たちとの再会に喜んでいる所に、ママが来た。


「プリン、作ってみたよ。食べる?」

「もちろん」

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