第3話 落ちこぼれ女騎士

 王都ヴァリアブルの家屋は石造建築が多かった。僕が元々いた商業都市にも石造建築の物件はあったけど、それにしたとてここの建築レベルは地元の比じゃなさそうだ。さすがは王都。


 大通りと言った主要な路地はコンクリート仕立てになっているし、小路地は赤茶色のレンガ仕立てととても小綺麗に出来ている。土肌が目立つのは外壁に沿った敷地にある軍の訓練所のような場所だけみたいだ。


 訓練所にいた兵士らしき人に聞いた話だと、王都の近郊では魔物も出るらしい。


 その日は王都を練り歩いた、まるで観光客みたいだな。


 そうしていると日はすっかり落ち、王都に茜が差し込むと、目の端に男の影が映った。


「おら! いいから大人しくしてろよ姉ちゃん」

「もしかして処女か? 大丈夫、痛いのは最初だけだって」


 どうやら不肖な男二名が、女性に無理やり迫っているみたいだった。

 僕は特に逡巡することもなく。


「誰かー! 女性が悪漢に襲われてまぁああああす!」


 大声を張り上げて町中に知らせると、何事かと思った町人たちが顔を出した。

 その後も僕は大声を張り上げつづけ、三人の方を指で差してアピールしまくる。


 そしたら二人の男は逃げてくれたみたいだ。

 僕は解放された女性に近づくと、その女性の恰好は騎士のような鎧姿だった。


「大丈夫ですか?」


 体勢を崩した彼女を中腰で見る。

 紅蓮色したウルフカット調の髪の毛に、宝石のような青い瞳ときめ細かな白い肌。

 あの男たちに襲われる理由が、容姿端麗な彼女の外見で察しがついた。


「……平気です、助けてくれてあ……ありがとう」


 彼女は立ち上がると、僕よりも少し目線を高くした。

 身長は168センチある僕よりも2、3センチ上かな?


 お礼は口にしたが、彼女はバツの悪そうな顔をしている。

 そこに、騒ぎを聞きつけた彼女と同じような鎧姿の騎士がやって来た。


「誰かと思えば、お前かヴァージニア」

「は、はい、申し訳ありません。私は不審者を目撃し、職質を行っていた所、相手が逆上して」


 逆上して、犯されそうになったのか。

 僕がいた街と違って、王都にはちゃんと悪漢もいるんだな。


 すると、駆けつけた二人の騎士の一人が彼女の頬を平手打ちした。


「ヴァージニア、いかなる理由であろうとも、王国に仕える騎士にしては目に余る体たらくだと私は考える。明日にでも騎士の位を捨てたらどうだ、っその方が国に迷惑をかけずに済むぞ!」


 騎士は彼女を厳しく叱責し、立ち去ってしまった。

 残されたもう一人の騎士が襲われていた彼女の肩に手をやる。


「今の隊長の言葉、酷いと思うか?」

「……いえ、決して」


「まぁ、当然だよな。王国の騎士と言えば生え抜きの部隊。力なくしては生き残れない世界だ。けどお前は例外。家名ばかりでなんの役にも立たない騎士もどきのお嬢様。騎士は憧れの職務だったかもしれないが、さっさと結婚でもして引退した方がお前のためだよ」


 恐らく、二人は襲われた彼女の先輩だったのだろう。

 彼女は先輩から叱責を受けて、唇をかみしめ体を震わせていた。


「……あの、貴方のお名前はなんと言うのですか? 僕はウィル、王都には今日ついたばかりで商人として働きたくやって来ました」


「あ、私の名前はヴァージニアと言います。これでも一応王国の騎士団に所属していまして、さきほどはお恥ずかしい所をお見せし、大変失礼しました」


 僕は、なんとなくだけど彼女に自分を重ねていた。

 僕は兄弟子からうとまれ、彼女も先輩から表立って嫌味を言われている。


「今のやり取りですが、そんなに気にしない方がいいですよ。あれは純然たるパワハラ――優位な立場からものを言っているだけの自分にとっては何の役にも立たない、一見助言のように聞こえる向こうの感情論ですから」


 と言うと、彼女はあっけにとられたように口を開いていた。


「……あ、すみません」

「大丈夫です、僕は貴方と似たような状況に最近まであっていたので」


 お気持ちお察しします、そう言い自慢のスキルで卵を生成。

 背負っていた荷から卵を詰めるための紙パックを取り出し、彼女に渡した。


「この卵で美味しいものでも食べて、元気を取り戻してください」


 それじゃ。

 にしても王都に来て早々、嫌なものを見てしまった。

 それと少し後学になった、王都で商売していく上で警備費は必要費っぽい。


「ま、待って!」

「はい? どうしました?」


 僕もその場から立ち去ろうとすれば、ヴァージニアから呼び止められた。


「その、ウィルさんは今日泊まる宿はもう取ってあるんですか?」

「いえ、これからですよ」

「それでしたら、私の家に来ませんか……?」


 父さん、そして母さん。

 僕、もしかしたら産まれて初めて、女性に好意を持たれたのかもしれません。

 産んでくれて、ありがとう。



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