S.3 Act.7 ミーティングエピローグ

 朝のミーティングが終わり、室長は魔法少女かずさの後方支援にあたるため指令に戻る。あかりもそれに続いて、モモを引き連れて司令室に入った。

 かずさが元気よく出発していくと、室長は自分の椅子に、あかりとモモは指令室の机にある椅子に座る。


「は? なんでだ。なんであのオヤジがしゃしゃり出てくるんだ」

 あかりが会議で言いたかった議題のひとつを話した途端、室長の怒号が響いた。

「SNSでバズちゃったもんね~」

 あかりの横にいたモモは、合いの手のようにぼそっと言葉を漏らした。

 どうも、紀の川放火事件で紀州ゾーンに問い合わせが殺到したらしいのだ。その事に紀州ゾーンゾーン長が腹を立てている。その彼が室長の言うオヤジである。


「そうです。こんな訳のわからん案件で休日にもかかわらずこっちで対応したんだ。どうしてくれる。って、私宛に直接電話かけてきました」

「あかりにか。ふっ、何故この私に電話してこないんだろうな。ビビってんのかあのクソオヤジ」

「あの、ちょっと室長。発言はもっとオブラートに……」

「あのクソオヤジにオブラートなんか使うか。馬鹿馬鹿しい」

 室長は足を組み少しご機嫌斜めだ。ゾーン長は吉野ゾーンと紀州ゾーン両方のトップだが、吉野と紀州は長い間仲違いをしている関係上、こちらでの印象が極めて悪い。紀州ゾーン生え抜きの文官なのでなおさらだ。


「でも、今回そこが問題なんです。今までなら〈橋本は越境管理で吉野がやってる。五條の本部に聞け〉ってだけでこっちに振って来るんですけど、今回に限ってはやたらと突っかかるんですよね」

「橋本に新人が入ったからじゃないのか? 妬んでんなよ、あのクズ」

「うーん、そう言うんやない気が……」

 室長の対面に座っていたあかりは、机にひじをつき、少し考えたようにつぶやいた。

「何かあるのか?」

 室長があかりに質問するが、少し間を空けて、

「……テクラちゃんを紀州ゾーンに取り込みたいんかも」

 あかりはそう話すと、室長もモモも顔が歪む。

 元々テクラの住んでいる橋本市は和歌山県だ。本来は紀州ゾーンが管理する場所である。が、橋本は和歌山よりも五條の方が近く、そのため吉野ゾーンが長年越境管理をしている。


 あかりは続けてこうも言う。

「もしそうだとしたら、橋本郡を紀州に戻せって言うて来るんちゃうかなあと」

 室長は目を閉じで考え込んだ。さらに続けて、

「そうなると吉野ゾーンから魔法少女がおらんくなるから、実質吉野潰せるしね」

 紀州ゾーンにとって、吉野ゾーンはお荷物の何物でもない。魔法少女不毛の地で無駄に面積が広い。吉野郡管轄エリアには魔法少女がおらず、毎回紀州ゾーンと伊勢ゾーン(三重県の中南勢部)からの応援に頼っているのが現状だ。


「あのオヤジ。そこまで考えてるかな~」

 モモは、指令室に持って入っていた自販機のコーヒー入り紙コップを飲みながら感想を述べた。

「モモまでオヤジ呼び。あんたはまだ職員1年目だからやめといた方がええよ」

 あかりは先輩なので少しだけ注意した。いちおう〈クソオヤジ〉は吉野ゾーンのヘッドでもある。先輩としては指摘しておくべきだろう。

 考え込んでいた室長はあかりに対してこう言った。

「あのオヤジはずる賢いところもあるからな。そういう考えを持つ可能性はあるだろう。だた、奴は結局バカだからな。下手にこっちから嗅ぎ回るのは避けた方がいいんじゃないのか?」

「いや、……バカって……まあそうなんですけど、少し気になって」

「今お前がやることは、テクラをきちんとした魔法少女に育てることだろ。それに専念しろ。あのバカオヤジが何か言ってくるようなら私がいるから」

 すこしあかりはほっとするような表情を見せ、立ちあがった。


「さすが室長です。感動しました。大好きです」

 笑顔を室長に向けるあかり。それを見た室長は、

「私に桃の能力を使っても無効だと何度も言っているだろう」

 と白い目を向けたが、あかりは室長にすり寄りハグをした。

「いやあん、本当に大好きですから。寂しい時は、いつでも慰めますヨ?」

「ふざけんな! また殴られたいのか!」

「大丈夫ですよー。私、耐えてみせますから-」

「ああ! うっとおしい!」

 ふたりは抱き合いながら言い争いをしている。そんな仲睦まじい風景を見ていた桃は、


「私、あかり先輩が女性もいけるクチって話、本当に信じてしまいそうやわ」


 そう言いながら立ち上がり、「お幸せに」と言って司令室から出て行った。

 少し後、指令室からは大きなたんこぶを作ったあかりが出て来た。あの後何があったかは大体想像がつく。


 とりあえず、これにて一連の騒動のミーティングは終了した。そして、今週もMGU(ウィッチエイド)の通常業務が始まった。

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