第12話 東北大会に出てやってもいいっすよ!

 春の県大会は、わたしにとって半年ぶりの実戦だった。久しぶりだしいっぱい走ってもいいか、と特に深く考えずに八百、千五百、三千メートルの三種目にエントリーした。

 千五百は大会初日で、八百は二日目に予選、三日目に準決と決勝。三千も三日目。

 八百は全然練習してないし、中日に走らないのもなんか間が空いて嫌だからとりあえずエントリーしとこう、くらいの動機だった。もし準決に進んでしまったら、一日で八百と三千を走らないといけなくなるスケジュールだったが、どうせ準決なんていけるわけねーし大丈夫だろうと楽観視していた。


 初日は千五百メートル。このあたりでわたしは、自分の得意距離についてようやく理解し始めていた。自分はどうやら持久力寄りのランナーだということ。カンナはそれよりも瞬発力寄りで、三千では勝てても千五百では負けることが多かった。

 県大会の千五百は一発勝負。この時のわたしは、自分の走りがそんなに悪くないんじゃないか、と感じていた。ほぼ一年続けて、ゆっくりながらも何か掴めた気もしたし、前の年の秋に思い切ったレースをして大敗したのもかえって良かったと思っていた。一回試してダメだったことは繰り返さなければいいのだ。ただし攻める走りは忘れない。誰かの後ろについて順位を上げてもつまらない。常に集団を引っ張って、最後まで押し切るレースが一番かっこいいし、自分が強いと思えて良い。自己肯定感……なんて言葉はこの時知らなかったが、自分を好きになれるレースをしたいという漠然とした希望は持っていたんじゃないか。

 最後に急失速しないためにはどうしたらいいか? それは、ラストだからと急に足を使い過ぎないこと。最後頑張るより、平均を上げる。常に同じようなスピードで走り続ける感覚だ。

 これを試してみたところ、確かに失速はしなかったが、ラストに足を爆発させるスタイルの連中にはやっぱり抜かれた。今回も見事に標的にされたわけだけど、前回ほどは負けなかった。いや──負けなかったどころではなかった。

 カンナは最後わたしを狙い澄まして抜き去り、そのまま三位でゴールになだれ込んだ。わたしは抜かれはしたが六位。一定のペースで集団を引っ張り続けたことで、後続の選手に足を漫然と使わせられたのだろう。もっとも、当時はそんな分析出来なかったけれど。

 この六位、という順位はそんなに悪いものではなく。悪いものではないどころか、なんと、東北大会に進出できてしまう順位だったりした。わたしは大威張りで浅井監督に報告した。

 と言うのも、大会前にわたしは浅井監督にこう大見得を切っていたのだった。

「先生もこのままじゃ校内で肩身が狭いでしょうから、ここらへんで一丁わたしが東北大会に出てやってもいいっすよ! そしたらちょっとは先生の評価も上がるでしょ?」

 と。先生は苦笑いしていた。

 何はともあれ、初日にして東北大会進出を決めてしまった。しかも、四戸高校から二人もである。先生はいつか、わたしたちに素質があるようなことを言っていたが、それがもしかしたら本当なのかもしれないと思って、カンナと顔を見合わせたものだった。実際は、トラックの試合が行われない冬期間に向けてわたしたちの練習へのモチベーションを下げないために使った方便だと思っているが。本当にそう思ってたのかな? 今度聞いてみたい。


 二日目は八百メートル予選のみだったが、ここで、わたし的には大誤算が起こってしまう。

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