神ノイルセカイ first world

Mです。

第1話 正義の在り方①

 この世界には神と呼ばれる少女が居た。

 この世界の中心に位置する聖域に、世界の心臓と呼ばれる場所が存在した。

 少女はその聖域で世界の創造と修正を繰り返している。

 少女は幾度も想像と修正を繰り返し世界を正そうとした。


 そして、その答えに辿り着けない神は一つの掟を作り上げた。

 神が定める日…

 そして、神が定めた7名の戦士が集められ、

 その中で勝ち上がった1人の願いを神が聞きいれ、

 その願いどおり神が世界を書き換えるというものであった。


 幾度か繰り返されたその争いを、

 いつしか、世界ではこう呼ばれるようになった。


 神奪戦争と。





 正義の味方になりたかったんだ……


 誰もが望む正義の味方に。


 この崩壊しかけている世界を救う救世主になりたかった。


 たぶん……それが僕が産まれてきた理由でもあるんだ……と。


 だから……一人でも多く、その手を僕が……


 なのに、どうして……


 一つ、また一つ守りたい手は遠ざかる。


 僕に……その資格が無いと……そう、言うのか?そう、言いたいのか?







 リゼストハイネル……神奪戦争の開催地となる聖地の少し南に位置する国。


 かつては神殺しと言われる目を持つ者と神を殺すための腕を持つ者が居た。


 結局その力を持つ者も、神の元に辿り着くことも無くその使命に終わりを迎える。


 しかし、そんな能力者のスキルを失いたくない国はその遺伝子を使い、その両方の能力を持つ人間を作り出そうとした。


 そんな人間はこの世界に産まれたと……言えるのだろうか?

 そんな人間は正義の味方になれるのだろうか?


 悪魔でも魔女でも無く……神を殺すものとして……


 しかも、それも全部含めて僕は偽者しっぱいさくだ。


 僕じゃない……彼が神殺それしを成し遂げるだろう。

 僕じゃない……本物それが正義を成し遂げるだろう。


 それが正義なのかはわからないけど……


 だったら……なぜ、僕は彼と一緒に神奪戦争こんなものに選ばれたのか……

 意味があるのか……


 同じ国から、神奪戦争の参加者が二人も選ばれるなんて聞いたことが無かった。

 同じ思想を持つ者が選ばれることは無かった。


 もしも……理由があるのなら……


 もしも……その理由を神が知るというのなら……



 神亡き世界、神のいない世界を作り出そうとする我国かれらに代わり何を願う?


 正義の味方になりたかったんだ……

 父のように強く……母のように優しい……正義の味方に。


 そんな僕が造り者だと知りながらも……

 そんな僕が失敗作だと知りながらも……


 そんな強く優しい正義の味方に……


 例え、父と母が偽者だったとしても……

 例え、僕が本物じゃなくても……


 助けを求める手を掴めるだけの人間になりたかったんだ。

 そんな本物になりたかったんだ……


 だから……僕がこの神奪戦争に選ばれた時……


 見えたんだ……錯覚かもしれない……

 それでも……


 今も聖地の神の心臓と呼ばれる場所で……神は一人。


 助けて……って、そう僕に言った気がしたんだ。


 だから……僕はその手を取ろうと思った。

 でも……それはこの国の意思に反する。

 だから……僕の正義は偽者だ。



 「どうした、イシュト……悩み事か?」

 そんな、凛々しい女性の声に現実に戻される。


 「リーシアさん……」

 僕はそう僕に声をかけた女性の名を呼ぶ。


 騎士として、人の在り方として憧れていた。

 そんな彼女から日々、剣を習い……


 例え、僕が正義にせものだったにしろ……

 そんな偽者を育ててくれた人たちのためにも……


 僕は……僕の戦いをするだけだ。


 「全く君という奴は、すぐに難しい顔をする……」

 リーシアさんは僕の顔に触れる。


 「いいか、君は私よりも4つも年下……その年で神奪戦争の権利を得たんだ、胸を張れ、君は正義の味方になるんだろ?」

 そう……どんな男も見惚れるような長い金髪の髪……

 そして、女さえも虜にしてしまいそうな……バイオレットの瞳

 そんな凛々しい彼女が僕に言う。

 

 「僕がやらなくても……本物は他に居るよ」

 僕のその言葉に、リーシアさんは鼻で笑い……


 「君の言う、その本物、偽者ってのはなんだ?正義の味方になるのに本物、偽者があるのか?」

 リーシアさんは僕の瞳を覗き込むように……


 「少なくとも……私の写す正義の味方はほんものだよ」

 そう告げられる。


 「それでも……人は、偽者ぼくを認めない……人は本物かれだけを信じている……」

 

 「……私がそうさせない……イシュト、君が例え悪に染められようと、私が君を正義ほんものにしてあげる」

 そう何かを決意するように……

 その言葉の真意にも気がつけず……僕はその後悔にすら気がつけない。


 だから偽者ぼくは何も止められない。


 


 ・

 ・

 ・




 神奪戦争……大陸の中央に位置する神が居ると言われる聖地。

 そこから、遥か東に位置する小さな国、サンフレア。


 片方にしか刃の無い剣、刀と呼ばれる武器。

 その剣術は美しくも最強と呼ばれていたが……

 それも、何年も前の話。


 技術も科学も発展を繰り返す。

 

 サンフレアの国の中でも、刀という武器も技術も受け継がれることがなくなっていた。



 「カアサ……ここに居たのか」

 納屋のような場所。

 カアサと呼ばれた20代半ばくらいの女性。

 長く黒い髪……


 そこに現れたのは、その半分くらいの年の少年。


 「……シグレ、ありがと、そこ置いておいて」

 食事を運んできてくれた少年にカアサと呼ばれた女性が答える。


 「キョウは……どうした?」

 そうシグレという少年に他の誰かのことを尋ねる。


 「カアサの特訓が厳しくて、死んだように眠ってる」

 それを聞いて、カアサはおかしそうに笑う。


 「口だけは一著前に上達するんだけどな」

 そう居ないもう一人の少年に言う。


 母親という訳ではない。

 シグレもキョウも親が居ない。

 親代わりというわけでもない。


 神奪戦争など、関係なしに度々起こる国同士の争い。

 この刀と剣術で一時はその強さを独占に近い状態であったが、

 科学と技術の発展、その剣術に並ぶ魔法や武器が誕生した。

 特に開発された銃器の発達により、

 そこで、敗戦までしないまでも、深い痛手を負ったサンフレア。


 そんな争いの中で両親を失った二人の子を見て……

 彼女はただ……


 生きたければ、ついて来い……き方くらいは教えてやる、後は勝手に生きろ。

 とだけ、言った。


 そして、サンフレアの中でもその剣術は、女で在りながらずば抜けていた。

 刀と呼ばれる武器。

 それだけでも珍しい一品だったが……

 彼女の持つ刀はその中でも特注品で、普通の銀色の刃ではなく。

 紅と蒼の刃のものが二本。


 「なぁ……本当に、こんなもの一本で最強になれるのかよ?」

 シグレが自分の腰に下げている刀を持ち上げて言う。


 「何度言わせるんだい、我国うちの武器と技術は最強だよ」

 そう彼女は言う。


 「だから、こうして私は神奪戦争これに選ばれた……」

 そうカアサはゾクリとする目でシグレを見る。


 「……怖く、ないのか?」

 そんな神奪戦争なんてものに……半ば強制的に参加を命じられたようなものだ。

 シグレはそうカアサに問う。


 「最強であるなら何を恐れる必要がある?全部倒して神を奪い取ればそれも証明される……それが、私が生きるさがだよ」

 そう自信満々に語るカアサに……


 「カアサらしいけどさ……そこまでして、そこで満足してから、神に何を願うつもりなんだ?」

 そうシグレに再び問われ、カアサは少し困った顔をする。


 「確かにな……まぁ、大金でも貰って、余生を楽しむさ」

 そう一人楽しそうに笑った。


 


 ・

 ・

 ・



 聖地より南東に位置するオーガニスト。

 その国の中にある一つの洋館。


 激しく扉を開け男が入ってくる。


 「グレウスッ!!」

 一人の20代後半くらいの男が入ってくる。


 「フィルトか……しばらく家に顔を出さないと思えば、こんな大事な時に何しに戻ってきた?」

 そう温度差があるように冷たく返す。

 8つ年の差のある実の兄。


 「リリアちゃんはどうした?何処に居るっ!」

 そうフィルトと呼ばれた男は叫ぶ。


 「……何かと思えば、わたしの実の娘の話だ、貴様に関係ないだろ」

 そう冷たく返す。


 「関係ない?ふざけるなっ……あんたみたいな親の子でも、姪っ子だ、心配くらいする権利はあるっ」

 そう叫ぶ。


 「……大事な時期だと言っているだろ……レイ家、魔王と呼ばれる魔力を継承を続けるはずの家庭……それを出来損ないの父、母の世代で閉ざすわけにはいかないんだ……父やお前に代わり私がその力を再びレイ家に取り戻そうとしているんだよ」

 そうグレウスは眼鏡越しにフィルトを見下すように見る。


 「そんな話をしているんじゃないっ、リリアちゃんは何処か、そう聞いているっ」

 そう何度も叫ぶように言う。


 「……わからない奴だな、お前の聞きたい話は何度もしている、大事な時期だと言っているだろ、魔王と呼ばれる魔力を再び取り入れる……そのためのうつわが必要なんだ」

 その言葉に……


 「っ!?」

 現状が最悪なことに気がつく。


 「実の娘に……何を考えている、自分のその身を器にすればいいだろ!」

 そう叫ぶ訴えるが……


 「わからない奴だ……魔王の力を呼び出す術者と器を両立することなど不可能だ、それにわたしでは器を勤めるには少々年老いてしまったからな……魔力を書き換えるなら若く新鮮な魔力の方がいいんだよ」

 そう返される。


 「リリアちゃんっ! 何処だっ何処に居る!!」

 目の前の男からの答えは諦め、洋館内のドアを次々と開けていく。


 「ここは……」

 一つの扉の前でフィルトが止まる。

 確か地下室に通じる扉……

 鍵がかかっている。


 かまわずに扉にてのひらを向ける。

 光の玉がドアをめがけ飛ぶ。


 館内に爆風が起こる。

 自分の魔力、魔法では軽く扉がへし曲がる程度……

 それでも、後は……

 何度も体当たりを繰り返す。


 何とか自分の通れるくらいの隙間を作ると、その奥に入っていく。

 一直線に伸びた地下への階段。

 その先にはまた一つの扉があった。


 その扉はすんなりと開いて……



 瘴気のような霧が漂っている……

 紫色の霧のようなもので視界が悪い。


 「リリアちゃんっ!」

 その姿を見つけると、フィルトは構わず中に入っていく。


 何も無い部屋で……椅子でぐったりと座っている。


 「……お爺さん?」

 その向かいに座る老いた男……

 もはや、生きているのかすらわからない。



 「死した人間から魔力を抜き取る……そしてそれを伝承させる、わたしはその域にたどり着いたのだよ」

 ゆっくりとグレウスは歩いて部屋に入ってくる。


 「老いた魔力でも若い魔力に書き換えてやればそれは立派に魔王の力として成立する……」

 そう説明する。



 「あんたは、家族をなんだと思っている、父さんを産んでくれた人……あんたの奥さん、マイアさんが産んだ実の子を……あんたの玩具じゃないんだっ」

 そう叫ぶ。


 「これは……レイ家、お前のためでもあるんだよ」

 そうグレウスはゆっくりと続ける。


 「先に開催される神奪戦争、それに参加するにはそれなりの魔力、実力を持つものだけが選ばれる……オーガニスト、この国はその神奪戦争に参加するだけの能力者を欲している、そして国はわたしに魔王の力を持つ者を期日までに準備するように言われているのだ……フィルト、わたしも被害者なんだ」

 視界の悪い霧の中……グレウスがそう告げる。


 それが本音なのか……奴はそんなこと抜きで実の家族を犠牲にする。

 知っている……目の前の人間はそんな奴だ。

 自分の実験と成果のために簡単にそれを切り捨てる。


 それでも……国が魔王それを必要としている……

 それは恐らく本当で……それを拒めば……


 「わたしたちもただでは済まない」

 そうグレウスが告げる。


 弱々しくその場にフィルトは立ち上がると、ゆっくりとリリアの元へと向かう。


 「……リリアちゃん、聞こえる?」

 今は16歳……だったかな?

 最後に会ったのは何年前だったか……

 こんな使命まりょくを押し付けられるには、余りにも幼い。

 身体をゆっくりと椅子から引き起こす。


 「フィルト、聞いていたか?」

 その行動にさすがに怒りを覚えるようにグレウスが言う。


 「聞いていた……理解もしている」

 そう返す。


 「リリアちゃん、出口はわかる?ひとりで行けるかな?」

 そう、彼女よりもずっと若い子供に言い聞かせるように……

 

 「……でも」

 朦朧としている目で……ぼそりとリリアが言う。


 「……大丈夫、後は叔父さんが何とかするから」

 そう彼女に告げる。


 「……自分でもわかっている、ぼくにはたいした魔力も……あんたの言う若さも新鮮さもないかもしれない……、それでも、同じレイ家の端くれだ、彼女の代わりくらい務めてみせる」

 そうフィルトは言い、薄気味悪い瘴気の漂う部屋の椅子に座る。


 「なるほど……はじめは何しに戻ってきたかと思ったが、少しは役に立ちそうだな」

 そうグレウスは不適に笑った。


 しばらくして……部屋に一人……いや、目の前の祖父……もはや息をする音さえ聞こえない。

 そんな祖父の身体から抜け出すように瘴気が部屋に充満していく……

 そして、しばらくそんな中座っていると……



 「な……なんだ……?」

 まるで、その瘴気は意思でも持っていたかのように……

 次の拠り所を見つける。


 瘴気が目や鼻、口、耳……穴という穴からフィルトの体内に入り込んでいく。


 「あっ……あああああああっああああああーーー」

 恐怖……


 同時に体内が……まるで別の人間の血が流れ込むかのように……

 自分の体内が何者かに支配されるかのような感覚。


 「やめろっ……やめろぉ」

 必死に拒むが金縛りにあったかのように身体は動かない……

 まるで、寄生虫にでも支配されたかのように、望んで口を開きそれを受け入れている。


 「あっああああーーーーーっ」

 後悔している……

 自分なんて無能な人間が……

 彼女の身代わりくらいならなれると思い上がったか?

 これまで無能だったぼくが……そんな器に……

 これまで全てから逃げたぼくが……神奪戦争なんてものに……

 思い上がったか……


 ぼくの人生……せいぜい誰かの犠牲にくらいなれると……

 だから……


 今くらい思い上がれよ……それがぼくだ。


 思い上がれ……それで魔王ぼくはやっと産まれる。

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