融けゆく
――視界が赤い
前後左右、三百六十度すべてが地獄のように赤い。
赤く黒く、青くもあり紫の部分もある。
それを水中よりも重く、揺られ漂っている
――何がどうなっているのか。何も思い出せない、自分が何者なのかすら。
いや、わかってはいる。だが考えがまとまらない、深く考えられない。手足の感覚はなく、視界は狭く掠れている。わかるのは恐ろしい色のみ。
どうしてこんなことに? 赤い閃光、爆発、痛み。
言葉ではない強いイメージが脳を駆け巡る。言語化できない恐怖体験、鮮烈な記憶。
ただひとつ、心の深くに焼き付いて離れない思い、願い。
「人の為」
ただそのためだけに我が生はあり、そのとおりに生き抜いた
長く、あるいは短く、時間の感覚も得られないまま、どこかを漂っている。
どこなのか検討もつかず、なぜなのか全くわからず。なされるがままに状況が続く。
永劫のようにも思える、経過が把握できない自己環境。
自己が薄れていく、体が軽くなる感覚。四肢が離れていくような、肉がほぐれていくような。
おぼろげながらも終わりを感じさせる出来事にどこか諦めている自分がいる。
こうなるのが当たり前のような、安らぎを受け入れる準備ができているようで――。
やがて感じることもままならないほど身が消えていく。これ以上ないほど希薄となった自分がどこか一箇所に導かれている気がした。
方向もわからぬような景色においてただ一点、吸い込まれていくような。体がそばだつように指向性が生まれていく。
得られるのは次の生か、あるいは罰か。
自覚も理解もないままに終りを迎える。
さらば我よ、愛しき我よ。愛していたかも思い出せぬが、そうであると願いたい。願わくば次もまた――。
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