第6話 双子

「本日のゲームの景品はこちらでございます」


 檻の中に入った子供たちは、黒いドレスを着せられている。ここでは子供を商品や景品として出すとき、男だろうが女だろうがドレスを着せることになっているのだ。オウルス・クロウ側の言い分を借りると、「商品を華やかに見せるため」らしい。

 レイグスは舞台の上の司会者を冷ややかな目で見て、薄く笑う。


(今も変わっていないんだな。奴らのやることには、いちいち不快にさせられる)


「こちらは子供ですが、ただの子供ではございません。今はこの子達にも、目元にだけ仮面を付けているので分からないかもしれませんが、双子なのでございます」


 司会者の男は、檻の天井部分に手を置きながら説明すると、会場がざわめいた。


「それも血統書付きでございますよ」


 耳障りな声で司会者が場を盛り立てる。

 血統書付きというのは、人間でいえば貴族や王族のことを意味する。

 子供たちは自分たちの状況を把握しているのかどうか分からないが、何かを恐れて身を寄せ合い檻の奥で固まっていた。


「勿論、それ故に足が付くこともありますから、飼いならすのであれば地下のあるお屋敷が良いでしょう。ああ、召使にするのもいいかもしれませんね。今は仮面を被せていますから分かりませんが、大変顔立ちが整っているのですよ。美しい漆黒の髪に、色の付いた瞳カラーアイズ。ああ、瞳の色は、景品を手にした人だけが分かりますので、ここでは控えさせていただきます。この双子をおもちゃにするのもよし、道具にするのもよし。紳士淑女の皆様にお任せ致します」


 司会者の言葉とそしてその言葉に盛り上がる会場に、レイグスは腹の底で何かが燃え上がる気がした。久しぶりに沸き立つ感情である。

 人の子をそんな風に、おもちゃだの道具だのとしていいものではない。ましてや見世物でもない。レイグスも三人の子供の母親ということもあり、彼らのやり方は到底許せそうになかった。


「レイグス、あれが助けてほしい子供だ」

「見れば分かる」

 レイグスの素早い返答に、アレックスは一瞬驚いた後、にっと笑った。

「ゲームは『キャンドル』になる予定だ」

「好都合。私の得意分野だ」


「キャンドル」というゲームは、ボードゲームの一種で、色や長さ、形の違った十二種類のキャンドルを使う。とはいっても実際には火は使わない。火の付いたキャンドルを模した駒を盤上で動かし、相手が持っているキャンドルを多く取った方が勝ち、というゲームである。

 レイグスはこのゲームが得意だ。ここに来てアレックスが自分を呼んだ理由を、彼女は理解した。


 司会者は次にゲームに参加する人の募集に入る。ここに来る人たちは、景品を手に入れるために自分でゲームに参加することもあるが、自分よりも強い人を雇って戦わせることもある。その為、選りすぐりのゲーマーたちが集まると言っても過言ではない。


「では、準備するか」

 するとアレックスが、彼女の手を掴んで「レイグス」と名を呼んだ。

「何だ」

「この勝負、絶対に勝ってくれ」

 懇願する彼にレイグスはため息をついてから答えた。

「言われなくともそうする」


 彼女ははさっと彼の手を振り払うと、腰に紐で括りつけていた、司会者が使っているものと似た真っ白い仮面を取り出す。そして一度マントのフードを深くかぶり、顔が見えないようにすると、付けていた仮面を外し、白い仮面を代わりに付けた。


「行ってくる」

「頼んだ」


 レイグスは席を立ちあがり、顔を隠していたフードを下ろすと舞台の方へ向かった。

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