第5話 ギフトの正体

 門まで来ると騒ぎの原因はすぐに分かった。


 大きな荷台に竜が載せられており、皆、驚きを隠せないようでざわざわとしている。


「おいおい、あいつ昨日も竜を狩ってなかったか?」


「なんでも異世界からの戦士らしい。それであの手に持った斧がすげえらしいぜ」


 荷台の先を歩く戦士に注目し見てみると、光り輝く巨大な斧を持っていた。


「戦士って奴は、みんな何かしらのとんでもねぇ才能やアイテムをギフトとして授かっていやがるんだってな」


「そりゃあ、神々に選ばれし者たちだからな。見た目は甘っちょろい奴らだが」


 人混みの会話を一通り聞いた後、その場を離れた。


「私のギフトの正体って何ですか?」


 ブレスレットをまじまじと見つめながら女神様に尋ねる。


「はい。伝説の鎧~七英雄バージョン~です」


「……なんだか俗っぽい名前ですね」


 もっと、こう……厨二のハートを刺激するような名称は無かったものか!


「元々は七英雄の方々のために創られた鎧なんですが、それをミツオさんに授けました」


「へ~、すごそうですね」


「もっと喜んでくださいよ! この鎧は七英雄の命を守り続けたすごい鎧なんです! ミツオさんはその七つの鎧を授かったのですよ!」


「鎧が七つあってもなぁ。予備とかにしかならないのでは?」


「それだけじゃ無いんですよ!? なんとこの鎧には七英雄の力がそれぞれ宿っていて、鎧を装着している間にその能力を使うことができるんですよ!」


「じゃあ、7つの能力が使えるっていうことですか? え、チートじゃないですか、それ?」


 女神様のテンションが上がる理由が、ようやくわかってきた。


 七人の英雄の能力となれば、きっと強いこと間違いなし!


 異世界でチートを使って世界を救うなんて、まさに王道そのものじゃないか!


「そうでしょ! そうでしょ! 1回で壊れるのを差し引いても、破格の性能ですから! チート過ぎて、事前に全能神様に確認を取ったぐらいです!」


 ん?


「今なんて?」


「チート級の性能だけど、全能神様には確認済みだから、使っても問題ないって……」


「いや、1回で壊れるって言いませんでした?」


「え、ええ。でもそれほどの力を――」


「だめじゃん! 1回で壊れる鎧なんて、鎧じゃないじゃないですか!」


「うう。で、でもワタシの持つ鎧の中でも、最高のものをミツオさんにあげたのに……」


「泣かないでくださいよ……他のギフトは無いんですか? もっとまともな鎧とか?」


「い、いえ。堅くて耐久のある鎧なら有りますが、これほどの魔力がこもった鎧となると、他にはありません」


「うーん……」


 悩みどころだ。普通の鎧をもらってもどうにもならない。だって私は元々、単なるサラリーマンだもの。


「じゃあアイテムとかじゃなくて、才能をもらうとかできないですか?」


「で、できますよ! 鎧の才能!」


「鎧の才能? 鎧を着たらパワーアップするということですか?」


「い、いえ。鎧って着ると動きづらくなりますよね。鎧の才能はそれを軽減してくれます」


「……」


「どんな重い鎧でもある程度は動けるスグレものですよ!」


 いや地味。すごい地味。


 きっと役に立つ能力なんだろうけど、その能力だけ持って異世界で生きろと言われたら絶対にヤダ。


「いや、もっと鎧を生み出したりするとかないんですか?」


「それは厳密には鍛冶の神様の管轄なので、ワタシはちょっと……」


「分かりました。じゃあ今のままで大丈夫です。……しばらく一人にしてもらっても良いですか?」


「……はい」


 女神様との通信が切れる。



 7回しか使えない鎧を使って世界を救えだって?


 無理に決まってる!


 幸田ミツオ32歳。いつもこんな展開ばっかりだ。


 輝きに満ちた生活などは、ほど遠いものだ。



 その後、ギルドに戻り、とりあえず危険のなさそうなクエストを受けることにした。


「この薬草を摘むクエストをお願いします」


「良いんですか? これはFランクの依頼ですよ? 他の戦士の方々は……」


「ええ、これで結構です。身の程はわきまえているので……」


「そうですか。わかりました。それじゃあ、よろしくおねがいしま~す」


 薬草の特徴はすでに道具屋で見たからなんとかなるだろう。


「すみません、ミツオさん。地道な生活になってしまって」


「いえ、それが性に合ってますんで……」


 高望みをした私の方が悪いのだ。


 地道に薬草を摘むのが自分には合っている。


 世界を救うのは他の人たちに任せ、自分は困らない程度に生活するのがふさわしいだろう。


 私は地道に生きていこう。


 その方が後悔しないだろうから。

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