2. 〝鍛冶の灯火〟『ヘファイストス』

 滝の裏側に隠されていた洞窟で発見したエンシェントフレーム。

 それは人語を理解し応答することの出来る特別なエンシェントフレーム、『マナトレーシングフレーム』だった。

『マナトレーシングフレーム』って言うのはヒト族と同様に考えることができ話をしたりすることができるだけじゃなく、普通なら様々な操縦が必要なエンシェントフレームの操縦も思考するだけでできちゃう優れものらしいんだ。

 伝聞でしか聞いたことがないんだけどね。

 なにせこの『マナトレーシングフレーム』、世界で数十機しか発見されておらず、そのほとんどが個人の所有物。

 情報が出回らないんだよ。

 そのひとつがいま私の目の前にあるだなんて……。


『レディ。まずは君の名前を教えてもらえるか?』


「え? ああ、ごめんなさい。あたしはアウラよ」


『アウラ……登録完了。アウラ、君はどうしてここに? ここは巧妙に隠蔽されているはずだが?』


「隠蔽? 普通にあたしの魔導カンテラで反応したわよ?」


『魔導カンテラというのは?』


「え? これよ」


 私は腰に吊していた筒状のカンテラを手にぶら下げ持ち上げてみせた。

 すると、ヘファイストスはそれをじっと見た……ような気がして次の言葉を発したんだ。


『理解した。それのおかげか。それには特別な発信ビーコンが備え付けられている。それからの信号を受けて隠蔽を解除したんだろう』


 なるほど、わからない。

 なんであたしの魔導カンテラにそんなものが?

 これはお父さんたちからもらった私にとっては特別なものだけど、それだけのはず。

 わけがわからない。


『さて、ここに来た理由はわかった。ここに来て我になにを望む?』


「え? ええっと……」


 どうしよう?

 いまさら売り払うなんてできないし、そもそもマナトレーシングフレームって売れるの?

 かと言って回れ右して帰るのも違う気がするし、どうしたものか……。

 あ、そうだ。


「あなた、巨兵を生み出し修理するっていっていたわよね? あたしサイズの武器も作れる?」


『お安いご用だが、なにを作る?』


「短剣とバックラーを。ちょっとへたり気味なのよね」


『わかった。資材をいま用意させるので待っていろ』


 ヘファイストスがそう言うと、小型の浮遊型ゴーレムがどこかから飛んできて見たことのない金属を私の前に積んでいった。

 一体なにが始まるんだろう?


『では始めよう。……終わったぞ』


「終わったって……本当に終わってる」


 気がつくと金属の塊はなくなっていて私の前には片刃の短剣とバックラーが落ちていた。

 それらを拾い上げて確認してみると、私にちょうどいい重さとバランスでできている。

 ただ、短剣の方に刃がついていないんだけど……。


「ねえ、これじゃあ切れないわよ?」


『魔力を流してみよ。魔力刃が形成されるのでそれで切ることができる』


「……物騒ね。試すけど」


 言われたとおり魔力を流してみると、刃の部分が鈍く光って魔力刃が形成されたみたい。

 不要品の金属を切ってみたけれど、焼けたナイフでチーズを切るような感触だったしなんでも切れるんじゃないかな。

 ちなみにヘファイストスに言わせるとバックラーも魔力の防護壁を形成できるらしいね。

 こっちも試してみると、あたしの周りを包み込むように魔力の壁ができていた。

 防御力はどこかで検証かな。

 さて、ほかには……。


「鞭って作れる?」


『鞭? なにに使う?』


「モンスターと戦ったり高いところに上ったりするためのものよ」


『モンスター……ああ、認知外危険生命体のことか。作れるぞ。少し待て』


 次に飛行型ゴーレムが持ってきたのはなにかの皮のようなもの。

 これをどう使うのか見ていると、一瞬だけ赤く火が揺らめいたように輝いて鞭に変わっていた。

 すっごい。


『できたぞ。ふるってみるといい』


「じゃあ、遠慮なく。って、ずいぶんと扱いやすいわね?」


『扱いやすい長さに調節したからな。アウラの意思次第で伸び縮みもする。試すといい』


「……長くするとものすごく遠くまで。短くするとほとんど手元しか残らなくなるのね」


『持ち運びに便利であろう?』


「お気遣いどうも」


 さて、今度こそ頼むものがなくなった。

 どうしよう、帰るべきかな?


『さて、武器は整ったな。次は防具だ』


「防具? あたし、見ての通り最低限のレザーアーマーしか着てないわよ?」


『そこは鍛冶師の腕の見せ所だ』


 そう言うとあたしの周りに飛行型ゴーレムが集まってきてあたしの体に光を当てて飛んでいった。

 そしてしばらく待っていると、私の翼と似たような白いブラウスとロングパンツ、青く染められた武器や道具を納めるためのウエストポーチやベストなどを持ってきてくれた。

 あと、こちらも履きやすそうな靴も一緒に。


『着替えてみるといい。特殊な繊維から作られた布でできた服だ。魔力刃どころかモンスターとやらに噛みつかれようと切り裂かれようと破けないぞ』


「本当? 試してもいい?」


『構わない』


 許可が出たのでさっきの短剣や鞭で切り裂いたり叩いたりしたけど傷痕ひとつつかない。

 シワさえできないってどんな素材よ、これ。

 強度チェックも終わったのでいそいそと着替えてみたんだけど、すっごく肌触りもいい。

 翼も動かしやすいし、便利なことこの上ないね。

 着替えもたくさんあるし、いいものもらっちゃった。


『さて、要望はこれくらいか?』


「武器も防具ももらっちゃったしね。あなたの方は望みがないの?」


『あると言えばある。期待薄だが』


「失礼ね。できるかどうか、言うだけ言ってよ」


『我の操縦者、パートナーになってほしい。魔力波長が合わなければいけないので、我には現れたことがないのだが』


 操縦者、パートナーね……。

 魔力波長って確か個人個人で異なるって言う魔力のパターンらしいし、それが合わないと操縦者になれないってどういう設計なのよ、マナトレーシングフレームって。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る