第30話 ルート検討 ~エリの提案に乗ってみる

 一眠りしたら少し落ち着いた。

 まだ少しばかりムラムラするのは事実だけれど。


世界樹ユグドラシル、今は何時だ?』


『17時23分です』


 夕食までまだまだ時間がある。

 ならば今日の探検の結果を確認しておこう。

 今日の歩いた経路を地図に印刷して貰ったのを出して、次の探索に繋げようという訳だ。


 地図の提供はエリかマキに頼む必要がある。

 だから部屋を出てリビングへ。


 今回は2人とも『何にもしない』をしていなかった。

 エリはテーブル上で地図と『当拠点付近の動植物』を開いて何かを確認している。

 マキはキッチン部分で料理を作っているようだ。


 さっきはこの2人とそれぞれ風呂に入ったんだよな。

 それも水着着用じゃなくて。

 なんて思うと微妙に現実感が無いような、それでいて何かムラムラするような妙な感じだ。


 まあその辺はともかくとして、とりあえずはエリに地図を頼むとしよう。


「エリ、また世界樹ユグドラシルに提供を頼んでいいでしょうか?」


「大丈夫です。何でしょうか?」


「今日外で歩いた経路を印刷した地図を御願いしたいんです。今日どれくらいの距離を歩いてどれくらい時間がかかったかを確認したいので」


「それでしたら提供済みです。こちらです」


 エリは手元から紙を1枚取って僕に手渡す。

 見るとA3程度のサイズに印刷された地図だ。

 恩恵の地の東側部分だけを印刷したもので、かなり細かい。


「ありがとう。用意しておいてくれたんですね」


「私が出したのは何処でどんな物が採れたか、確認する為です。ただハルトも確認する事があるだろうと思って、余分に出しておきました」


 気を回してくれた訳か。

 昨日までとやはり違う。


「ありがとう。早速今日の行程を検討して、明日どうするか考えてみます」


 エリから受け取った地図を確認する。

 最初に印刷してもらったものと比べずっと細かい地図のようだ。

 見ると縮尺2千5百分の1と書いてある。

 等高線も1mで引かれているようだ。


 最初に提供を受けた地図は2万5千分の1と10万分の1だった。

 これはきっと世界樹ユグドラシルが僕の時代の日本で一般的だった地図の縮尺にあわせたのだろう。

 国土地理院の地形図は標準が2万5千分の1。

 全国版のロードマップは概ね10万分の1だから。


 ここまで細かい地図があるなら、最初から世界樹ユグドラシルに注文するべきだったなと思う。

 地図の提供を依頼した時点で、提供可能な縮尺を尋ねるとかして。

 でもまあ、こうやって入手出来たからいいとしよう。


 さて、この地図には俺達が歩いた経路が赤線と赤字で印刷されている。

 今日森を歩いたものだけではなく、昨日恩恵の地の周囲を一周したものもだ。

 地図の範囲は恩恵の地の東側しか無いから、昨日の分は途中で地図外に出てしまうけれども。


 そして歩いた部分が赤線で表示されている他、赤文字で5分単位の時刻が記されている。

 なるほど、やはり森の中は歩行速度が遅い。

 5分で100m行くかどうかくらいのペースだ。


 そして歩いた経路、やっぱりまっすぐでは無い。

 ちまちま左右に動きつつ、途中で大きく左に曲がって、その後も少しずつ左に曲がりながら歩いている感じだ。


 それで明日以降、河口を目指すとしたらどう行くべきか。

 今度は等高線が1m間隔と細かいので結構凹凸が読み取れる。


 河口までできるだけ近い道を辿るなら、次に進むべき場所は昨日ヌタ場へ行く途中、大きく左へ曲がった場所の先だ。

 その地点に南東側に向かう低い支尾根筋がある。

 昨日は気付かなかったが、そこを上手く辿ると河口近くまで下りられそうだ。


世界樹ユグドラシル、僕のシャープペンシルを出してくれ』


『わかりました』


 想定するルートをシャープペンシルでなぞる。

 何とか崖マークを避けて川沿いまで下りられた。

 ただしあくまで地図上では、だけれども。


 それに台地上と川沿いの低地との境はそれなりの急斜面だ。

 ほとんどが崖で、今描いたコースも崖でこそないが急斜面。

 実際に通れるかは行ってみないとわからない。


 でも待てよ。

 世界樹ユグドラシルに聞いてみたらどうだろう。


世界樹ユグドラシル、今僕がシャープペンシルで描いたルートは、道を作って通る事が可能か?』


『そういった判断は現地でハルトが確認する必要があります。世界樹ユグドラシルの方では行いません』


 駄目か。

 でもまあ仕方ない。

 それならエリに相談しよう。


「エリ、ちょっと相談していいでしょうか?」


「はい、何でしょうか」


 シャープペンで書き込みをした地図をエリに見せる。


「明日歩くルートをこんな感じで考えてみました。出来るだけ河口に近づくように、また尾根筋を通るように考えてみたんですが、何か他にいい案はあるでしょうか?」


 今まではこういった質問、『ありません』、『わかりました』という返答しか来なかった。

 しかし今のエリなら何らかの意見を言ってくれる気がする。


「海を目指すならそれでいいと思います。ですが私は出来ればこの辺りを調べてみたいです」


 エリはそう言って地図上を指さした。

 今日行ったヌタ場から北北東に100m程行った所にある谷間になっている部分。


「そこに何かあるんですか?」


「地形から水場の可能性が高いと思いました。ならば水を求めて動物が立ち寄っている可能性が高いです。


 またこの場所は昨日の泥の地点からも比較的近いです。この間に動物、鹿か猪が頻繁に通る獣道がある可能性が高いと思います。ならば落とし穴を仕掛ければ、大物が獲れる可能性があります」


 なるほど、狩猟的な発想か。

 確かにそれもいいかもしれない。

 大物が獲れればまた食料事情が変わる。


「確かに良さそうな場所ですね。

 なら明日はまず、エリの言う通り此処へ行ってみましょう」


「いいですか。海の方を目指さなくても」


「海を目指そうとしたのは食料確保の為です。近場で大物を確保出来るなら、まずはそっちを試す方がいいでしょう」


 海を目指してもどうせ明日明後日には辿り着けないだろう。

 なら明日にでも何かありそうな場所の方がいい。

 それにエリが自発的に提案してくれたのだ。

 僕が優先したくなっても仕方ないだろう。


「なら、明日はここまでどう行きましょうか」


「まずは昨日のヌタ場に出て、そこから獣道があれば辿るのがいいと思います。予想としては……」

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