第28話 質疑応答(2) ~想定外のダメージ

 重い。

 なおかつ今の状態で決めていいのかという気がしないでもない。

 何せ此処は世界樹ユグドラシルによって設定された、つまり作られた状況だ。

 それもエリとマキと僕しかいない、制限された状況。


 それでも僕は返答しない訳にはいかない。

 だから必死に脳味噌を働かせつつ筋道を考え、語彙をかき集める。


「僕はエリもマキも評価しています。自発的に僕が必要だと思っている事を考えて、動いてくれている事もわかっていますし、感謝しています。


 そして僕はエリやマキの事が好きです。

 この好きには姿形も含まれている事は否定しません。身近にいる異性だからというのも事実です。


 それでも出会った時よりも、今のエリとマキの方が好きです。色々考えて動いてくれている、今のエリとマキの方が好きです。

 そういう回答でいいでしょうか」


 真面目な話で信憑性も必要だろう。

 だから僕はエリの方を見て話している。

 勿論現在地は風呂で、お互い全裸の状況。

 拷問状態だが誤魔化すわけにはいかない。


「ありがとうございます。安心しました。私もマキもハルトの事が好きです」


 ちょっとほっとする。

 何せ2人とも無表情で感情がわからない。

 それでも今日は大分表情が見えてきた感じがするけれど。


「そう言ってくれると僕も嬉しいです。ただ今は多分に世界樹ユグドラシルが設定した環境に左右されている面が大きい状況です。


 だから周囲に僕以外の人がいて、あるいは世界樹ユグドラシルの巫女という枷が無くなった状態で、エリとマキはどうするか。


 世界樹ユグドラシルによって作られた巫女という基準では無く、自分の自由意志で全てを決められるようになったら。

 そういう前提でどうあるかも、これからは少し考えてみて欲しいと思っています」


 こんな感じでいいだろうか。

 上手く言えた自信はないけれども。


 

 今までに無かった行動だ。

 わかったという事だろうか、それとも言い分は理解したという意味だろうか。


「わかりました。今のハルトの要望はマキにも伝わっています。今後はその方向性についても考慮していきます。さて……」

 

 さて、何だろう。

 どう続くのだろう。

 

「確認させて下さい。今の状態で私やマキが好きというのは事実で、私やマキがハルトの事を好きなのは嬉しい。それでいいですか?」


 何かわざわざそう確認されると、ヤンデレな香りがしてきそうな気がする。

 そしてここは風呂で、僕もエリも全裸。

 脳味噌もうぐちゃぐちゃ状態だ。

 ただそれでも否定する訳にはいかない。


「ええ、その通りです」


 僕のこの回答は正しい筈だ。

 しかし先々の不安に襲われるのは何故だろう。

 

「なら御願いがあります」


 何だろう、この上で。

 温めのお湯とは言え、そろそろ限界に近くなってきた。

 風呂から上がって色々な意味ですっきりしたい。

 下半身がもう限界だ。


 しかしこの流れで断る勇気あるいは蛮勇なんて僕には無い。

 だからここは仕方ない。


「ええ、いいですよ。何でしょうか?」


「それでは立って下さい」


 全裸で、しかも下半身が頑張っている状態なのにか!

 しかしいいと言ってしまった以上仕方ない。

 それに此処に来た時に既に見られている筈なのだ。

 その時は下半身が頑張っている状態……だったかな、あの時は。


 いずれにせよ人生諦めが肝心だ。

 仕方なく僕は浴槽からそのまま立つ。


 エリも立ち上がり、そして僕の前に回る。

 肌が触れそうで非常に危険だ。

 何をする気だろう、なんて考える余裕もない位にヤバい。


 そして。

 僕の身体前面その他にぎゅっと柔らかく熱い感触。


「私はハルトが好きです。そして先程の会話の結果、ハルトも私が好きだと確認しました。

 検索した結果、お互いが好きならこうやって抱き合うという情報がありました。ハルトも私をぎゅっと抱きしめて下さい」


 そう来たか!!!!!

 確かに好きとは言ったけれど……


 こうなれば自棄だ! いや望むところだ!?

 脳味噌混乱パルプンテ状態のまま腕を伸ばし、エリに言われたとおりぎゅっと抱きしめる。


 こうやってみるとエリ、思ったより華奢だと感じる。

 身長は僕とそう変わらないのにずっと細く、柔らかい。

 そして触れた部分が熱い。

 なんて事を脳味噌の一部が妙に冷静に考えている。

 他の部分は混乱中というか、ヤバい行動しそうで制御中。


 かなり長い間そうしていた気がする。

 実際はせいぜい数秒程度なのだろうけれど。


 エリの腕の力が弱まったので、僕も回していた腕をもとに戻した。


「ありがとうございます。これからも宜しくお願いします」


「こちらこそ、宜しくお願いします」


 もう限界だ。

 性欲を抜けるExtエクステンディッド-UQ《ユビキタス》なんて無いだろうか。

 多分無いだろう。

 自家発電しか無い。


「それじゃ上がりましょうか」


 ここは一も二もなく撤退だ。

 僕は自室への最短経路をイメージしつつ、Extエクステンディッド-UQ《ユビキタス》を起動。


世界樹ユグドラシル、身体表面の水を拭いてくれ』


『わかりました』


 そう言えば今の行動の一切を、世界樹ユグドラシルやマキも知っている筈だ。

 思考レベルで常時接続されている筈だから。


 昼食で顔を合わせるのが恥ずかしい。

 しかしそれより、今は下半身の始末だ。


世界樹ユグドラシル、室内用の服を出してくれ』


『わかりました』


 とりあえず脱出だ。

 でもその為には服を着ないと。

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