第2章 来て2日目の午前中。最初の外出

第12話 外出準備(1) ~飛び道具も物によっては

 起きて、ついでに服とタオルを綺麗にして。

 そして僕はベッドに横になったまま本を読む。

 まずはサバイバルの本からだ。


 目次を見てすぐ気づく。

 この本はあまり参考にならなそうだ。

 本のかなりの部分が、衣食住を得る為の方法論で占められているから。

 僕の場合、衣食住は取り敢えず確保されている。


 狩猟とかの本を取り寄せた方が参考になったな。

 そう思いつつベッドから身を起こし立ち上がり、机上から『当拠点付近の動植物』を取る。


 何か食用になる物があるだろうか。

 危険なもの、注意すべきものは何だろうか。

 そう思いつつ、本をめくる。


 哺乳類系の肉食獣で注意すべきなのは大山猫。

 猫というよりヒョウに近い存在のようだ。

 熊も地続きの場所にはいるが、この辺にはほとんど姿を見せないとある。

 他の肉食獣系はハクビシンっぽいのやイタチ類等、もっと小さいものばかり。


 草食獣や雑食系統は結構いるようだ。

 猪、小型の鹿、猿、蝙蝠、ネズミ類という感じだ。

 猪も鹿もどちらも日本で一般的なものより小型だが、肉としてなかなか良さそうだ。

 食用可能とあるし。


 猿はニホンザルと似たような感じで、30匹近い群れで行動するようだ。

 こいつらは結構厄介かもしれない。

 何か対処可能な武器が欲しい所だろう。


 問題は哺乳類よりそれ以外の方のようだ。

 毒蛇が3種類もいて、1種はそこそこ大きい。

 こいつらは自分より大型の動物も襲うとある。


 あとは大型のムカデなんてのもいるし、蚊だのダニだのヒルだのなんて嫌なのもいるようだ。

 長袖長ズボン襟高めの服が必須だな、これは。

 ただ余り装備を固め過ぎると動けないし暑い。

 ある程度の妥協は必要だろう。


 取り敢えず足元は一番危険だ。

 毒蛇に噛まれても問題ない位の装備にしておこう。

 ズボンも牙が噛みつけずに滑るような素材で。


 上半身は空調服にするのがいいだろうか。

 長袖で、やはり丈夫な素材で、かつ暑さに耐える為には。


 よし、起きて案を紙にまとめよう。

 僕はベッドから身体を起こした。


 本を読みながら装備の概略図を描いていく。

 靴はコンバットブーツでいいだろう。

 防水透湿素材と防刃素材を使って、安全性と快適性を重視して。


 服も軍隊の戦闘服を基本にしよう。

 ただし暑そうな気候だから、空調服のように空気を循環させる。

 更に靴下や手袋、襟周りや帽子なんてのも一通り考えて見直していると……


 ピピッ、ピピッ……

 アラーム音が耳元で聞こえた。

 時間のようだ。


世界樹ユグドラシル、アラーム解除。この紙と筆記用具、本2冊を収納してくれ。それと口腔内の清掃を頼む』


『わかりました。口を閉じて10秒ほどお待ちください』


 口の中をすっと水が動き回り、そして消えた。

 これで歯磨き代用は終了だ。

 手櫛で髪を整えてから扉を開け、部屋を出る。


 エリもマキもすでに食卓についていた。

 僕の分のディストピア飯も既に用意されている。

 予想通り昨日2回食べたのと全く同じものだ。


 まあ仕方ない。

 それより先に準備してくれた事にお礼を言っておくべきだろう。

 あと、朝の挨拶もついでに。


「おはよう。朝食の準備、ありがとう」


「おはよう、と言った方が良いですか?」


 おっと、エリから思わぬ質問が来た。

 これで少しは2人の行動も変化するだろうか。

 それなら出来るだけ僕なりに正しく答えておこう。


「どっちでもかまいません。挨拶そのものは僕の気分的なものですから」


 もちろんこれだけでは素っ気なさ過ぎるし、意味もわからないだろう。

 だから更に説明をつける。


「僕が、正確には僕に植え付けられた記憶では、朝に最初に会った知人におはようと挨拶するのが慣習でした。だからとくに深い意味はありません。

 ただなんとなく、そうしたかった。それだけです」


 強制はしないし指示はしない。

 指示してしまうと、機械的に返答してしまいそうだから。


 ただ日本語では無く今使っている言語にも、日本語の『おはよう』と同等の意味を持つ言葉がある。

 なら挨拶という概念もきっとある筈なのだ。


「わかりました。それではおはよう、ハルト」

「おはよう、ハルト」


「それではご飯にしましょうか」


「わかりました」

「わかりました」


 うん、今の一幕だけでも何となくエリ自身と会話出来た気がした。

 僕の錯覚かもしれないけれど。


 箱を焼き切り、粉末カ○ピスを作って、ディストピア飯をいただく。

 決して味そのものは悪くない。

 日本にあったバランス栄養食と似た感じで、たまに食べるなら悪くないと思うのだ。

 ただ毎食これというのは何だかなというだけで。


 全て食べ終えて一息ついたところで箱が消え失せるのは昨日と同じだ。

 さて、それでは本日の作業を始めよう。

 外へ行く為の装備の概略図を完成させる事だ。


 とりあえずコンバットブーツ風の靴と、戦闘服上下については概略図を書き終えている。

 だから今度はマキに頼も……

 いや、その前に少し思いついた事をやってみよう。


「ちょっとすまないけれど、エリ、マキ、いいでしょうか?」


「何ですか?」


 今回はマキ1人がそう尋ねた。

 さっきの挨拶についての質問がエリからだったから、世界樹ユグドラシルがマキに返答指示を送ったのだろうか。


世界樹ユグドラシル、筆記用具と先程部屋で仕舞った紙を出してくれ』


『わかりました』


 テーブルの上に先程描いた靴や服の説明を書いた紙とシャープペンシルが出る。


「今度外へ出る時の装備を考えてみたんです。まだ身に纏う服とかまでですけれど。

 これを見てみて、もしこうした方がいいというような意見があれば教えて欲しいのですが、いいでしょうか」


「特にありません」

「特にありません」


 駄目だったか。

 でもそういう返答が来る事は予想はしていた。

 念の為に、くらいのつもりだった。


「わかりました。それではこの説明にあるものの注文を御願いしていいですか? 靴と靴下、手袋、帽子はエリに、上着とズボンはマキに御願いする形で。勿論全部、僕、エリ、マキの3人分御願いします」


「わかりました。30分程度で出来上がります」

「わかりました。こちらも30分程度で出来上がります」


 こちらも、だけ台詞が違った事がちょっと嬉しい。

 片方だけとか2人同時に同じ台詞という状態だと、世界樹ユグドラシルの返答指示そのままと感じてしまうから。

 エリとマキという人間相手では無く。


「わかりました。それではエリもマキも今頼んだものが出来上がるまでは休憩にします。自由に過ごして下さい。僕が注文してこの部屋に出した物、またそれ以外にもエリやマキが使う事が出来るものについては、自由に使用して構いません」


 例によって、指示の幅を広げておく。

 何もしないをする、なんて事を出来るだけ避ける為に。


 服装系の装備が整ったら、次は武装だ。

 この辺は世界樹ユグドラシルにひととおり質問をしてからにしよう。


世界樹ユグドラシル、武器の提供は可能か?』


『物によります。どのような武器ですか?』


 何でもOKという訳ではないようだ。

  

世界樹ユグドラシル、銃器の提供は可能か?』


『火薬使用の鉄砲、銃、小銃、機関銃等の提供は不可となっています』


 つまり火薬使用でなければいいのだろうか。

 ならこんなのはどうだ。


世界樹ユグドラシル、高圧空気を使用したエアライフルなら提供可能か? また弾や高圧空気の補充は?』


『提供可能です。弾は銃本体と同様に巫女に注文して下さい。高圧空気はExtエクステンディッド-UQ《ユビキタス》が使用可能であれば何処でも補充可能です』


 よし、これで銃が確保できた。

 火薬を使う銃よりは威力が弱いだろうけれど、猿を追い払う程度なら余裕だろう。

 ただ狩猟用エアライフルに関する知識は僕には無い。

 参考書を取り寄せて読んでから取り寄せた方がいいだろう。


 銃を確保したから次は魔法攻撃だ。

 現実には魔法で無くExtエクステンディッド-UQ《ユビキタス》による攻撃。

 しかし使用する僕にとっては魔法とそう大差ない。


 これも世界樹ユグドラシルに聞いてみよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る