第19話 誰がやった (次話は15時13分投稿予定)

 俺は沈んでいくププラを見ながら昔のことを思い出していた。  


「アレンよ、ウヌとアンにはワシの教えられることは全て教えると決めておる」


修行が始まって10カ月ほどたったころだろうか。


レギから突然話があると呼び出された。


「なんだよ、改まって。そんなの言われなくてもわかってるぞ」


「――そうじゃな。だがこれから教えること……いやこれから行う修行はウヌにだけ受けてもらう」


「――!?」


修行だけでなく寝食ともにアンと一緒にいることを決められていたので、ひどく驚いたことを覚えている。


「なんだよ、怖い顔して。これから何をするつもりなんだ?」


俺は今まで見たことないシリアスな雰囲気を出すレギに戸惑いながら、明るく振舞おうとするのだが、告げられた修行の内容にそんなことをしている余裕もなくなる。


「アレン……ウヌには人を殺してもらう」


「――は?」


喉に乾いた痛みが走る。


俺は緊張した。


きっとあの時のレギの顔から一切の冗談を言っていないこを悟ったからだろう。


「アンは優しすぎる。あの子は敵の命を奪うことはしないだろう。じゃが、その優しさは戦いの中でいつか大きな弱みとなる。その時、有無を言わさず相手の命を奪う者の存在が必要なのじゃ」


レギは目をつぶってゆっくりとした口調で言葉を紡いでいた。



「――アンにはできない。そこを俺が埋める」


俺は自分に言い聞かせるようにつぶやく。


「そうじゃ、だがそれだけではない。ウヌの力を呼び起こすためにも必要なことなのじゃ」






 【一方その頃、ビバレント本部 地下巨大都市『ドグ』 にて】


「アマデウス様、伝令です」


全身真っ黒なローブに身を包んだ暗躍部隊の男がアマデウスの前に現れる。


ローブの男がアマデウスと呼び跪くのは、ビバレントにおいて魔法系統の裏稼業 兼 戦闘部隊の魔法部門幹部マジクスタビライザーアマデウス・アルトトである。


「――! 突然アマデウス様の道を塞ぐとは、貴様無礼であろう‼ 」


アマデウスに仕える親衛隊隊長シャギットが憤慨した様子で進み出る。


「よい」


しかしアマデウスはシャギットを手で制し、ローブの男に話を続けるように促す。


「――は! 昨晩からププラ様率いる奴隷部隊の一団との連絡が途絶えており、ただいま原因を調査中でありますが……恐らく」


「――死んだか」


ローブの男は言葉を発することなく首を縦に振る。


その瞬間アマデウスの後ろにいた部下たちがひどく動揺した様子を見せる。


「――亡くなられた? どういうことだ」


シャギットはローブの男に詰め寄るが、男もよくわからないといった様子だ。


「おそらく――」


動揺している部下たちに対して冷静な様子で、アマデウスは口を開く。


ざわついていた部下たちもアマデウスの言葉に傾聴する。


「――戦いに敗れ、殺されたのだろう」


「殺された!? あのププラ様が! ―失礼ながらアマデウス様、このビバレントが発足して以来、幹部クラスの方が敗北することなど――」


「なかったな。だが、今奴の魔力を探ってみたが気配がない」


アマデウスは目を閉じながらそう告げる。彼が魔力探知をして、そういうと言うことはシャギットにとってそれは確定情報に等しい。


シャギットは力なくその場に崩れ落ちてしまう。


「一体、誰が」


呆然としているシャギットを横目にアマデウスはローブの男に問いかける。


「このことは他の幹部には伝えたか?」


「いえ、まだアマデウス様だけです」


「――私は今からV様にこのことをお伝えする。その後、幹部共に私から告げよう」



のちに、Vからププラを殺した者を捜索するようにビバレント部隊に命令が下る。







【そのまた一方冒険者組合サイドでは】


「えー、私、山理が今回の隊長を務めさせてもらうんで、口答えしないように」


ビバレント奴隷部門のアジト突き止めた冒険者協会は、アジト制圧のための精鋭部隊を立ち上げ、進軍していた。


A,Bランクの冒険者を中心に編成されているが、幹部対策としてSランクであるシリルとララも同行している。


「はぁー、何が悲しくてあんな軽薄な男が隊長してるんだか……」


ララは愛馬の上でため息を吐く。


「しぃ―! 声が大きいわよ、仕方ないじゃない。アジトを突き止められたのも召喚された勇者たちの力のおかげなのだから」


「ほんともう、ユウシャサマの能力は飛んでもないよね。何よあの賢者とかいうスキル。一発でアジトの場所見つけだしちゃうんだから……」


アレンの同級生、選ばれた勇者の1人 木更きさら アイリ 彼女の持つ賢者のスキルによってビバレントのアジトは突き止められたのである。



【そして数日後】


「おい、なんだよこれぇぇぇ!!!」


山理たち一行はアジトに到着する。


中央の広場にはご丁寧にビバレントのメンバーが拘束されていた。


縄には名札がつけられており、ビバレントの誰で、どの役職なのかもしっかりとわかるようにしてある。


そして奴隷たちは誰一人としてそこにはいなかった。


呆然とする一行であったが、突然シリルに連絡が来る。


「どうした?…………なに!?」


シリルは、ずれた眼鏡そのままに一人で考え込む。


ララはそんなシリルの肩を叩き顔を覗き込む。


「どうしたの?」


「あぁ、すまない。あの……人さらいによって捕まったと被害届を出していた人達から、次々に捕まっていた者達が帰ってきたという報告が上がっているそうだ」


訳が分からないと困惑するシリルであったが、ひとまずビバレントのメンバーの身柄を確保しようと山理に進言を試みる。


しかし――


「くっっっっっそ!! どこのどいつだ!! 勝手なことしやがって!」


山理は荒れていた。


(くそ!! 賀口が奴隷の中からいい女見つけたら俺の性奴隷にしていいって言うから動いてやったのに。本来どこの誰が奴隷になっていようがどうでもいいってのによ!)


「山理様、ここはひとまずビバレントと思われる者達の身柄を確保した方が良いかと」


シリルは落ち着いた声色で山理に進言する。


「……ッチ あぁもう好きにしろよ、俺は帰るから」


そいうと山理はそそくさと馬に乗りアジトを後にしてしまった。


その後の指揮はシリルとララ中心に行われた。


そしてほどなくして、ビバレント対策部隊が編制されるのだが、最初に行われた会議では”一体誰が一連の事件を解決したのか”について話合われた。






《あとがき》

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次回は12月 11日 日曜日の12時13分に投稿します。

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