第8話 キングゴブリン討伐

「き、キングゴブリン……おい、依頼はマジだったのかよ」


アーガス達はキングゴブリンの存在を疑っていたようで、目の前の光景を受け入れられていない。


「た、隊長!!どうするんですか!?」


アーガスの仲間の一人が取り乱しながら問いかける。


「クソッ! ……まぁいい。金は取れたんだ、お前ら逃げるぞ!」


そういうとアーガスの仲間のガタイのいい男が金の入った木箱を持ち、村の裏口に向かって走り出す。


「隊長、俺たち追いつかれたりしないですよね?」


仲間にそう聞かれたアーガスは少し考える……


「キングゴブリンはまずこの村人どももを喰らうだろうから時間は稼げるだろ、それにこうやって……」


アーガスはミィを持ち上げると村の表口の方へ投げる。


鈍い音を立てミィはごろごろと地面を転がる。


「まずあのガキが食われるし、もし魔法が解けた村人がいたとしても心優しいやつらだからガキを放って逃げるわけないしな」


そう言ってアーガスは仲間が連れてきた馬に乗り、余裕の笑みを浮かべながら去っていった。



 


 ……動け動け動け!


ミィを助けなきゃ、村のみんなを助けなきゃ!


ここで寝転んでいる場合じゃないだろ!!!!


あと少しで解けるはず………………よし!


俺は万が一の為に金をとりに行く際、自身に魔力障壁をかけておいた。


まさかあんな複数から魔法を同時に喰らうとは想定外だったが、他のみんなより早く状態異常の魔法が解けるのだ。


俺はすぐにミィのもとへ駆け出した。


「ミィ! 大丈夫か!?」


ミィを抱き上げる。


「あ、アレン……おにいちゃん……ママ、ママを助けて」


唇から、額から血を流し、投げられたことで体中に傷を負いながらも、彼女は家族のことを思っていた。


「あぁ、絶対に助けるから!」


グガァァァァァという重低音が響き渡る……


どうやらキングゴブリンがこちらに気づいたようだ。


重苦しい足音を鳴らしながら奴はこちらに走ってくる。


……怖い。どうしよう……


その瞬間頭が真っ白になった。


何をしたらいいんだ?


俺にはなにができるっけ?


あぁ逃げなきゃ……でも絶対追いつかれる。


あぁ戦わなきゃ……あんな怪物と?


ふぁ、ファイヤーボールがあるじゃないか?


あれ? でもミィを抱えたままじゃ動作規定が……


どうしようどうしようどうしよう


「アレン!!」


後ろを振り返るとそこにはアンがいた。


「何してるんだや!! 早く逃げるだやよ!!!」


アンは俺の二の腕を掴み引っ張る。


「逃げるたって……村のみんなは……」


「私は低級だけど転移魔法をつかえるんだや!それで子供たちだけでも逃がす!!」


アンの目から覚悟を感じた。


子どもたちだけ逃がすということは母親のレイアさんを……



…………何がネット小説の主人公だ。何が異世界でチート生活だ。


この目の前の素朴な少女の方がよっぽど主人公じゃないか。


うちのクラスメイト達にこの判断ができるだろうか?


この子は今自分にできる最善を尽くしている。


なら俺にできる最善は……


俺はアンにミィを託す。


「ありがとう、アン。ミィを任せた」


「……わかった。任せてほしんだや!!」


アンは俺を引き留めることはせず、そのまま真っすぐ村のみんなのところに向かっていく。



 「……さて、どうするか」


もうじきキングゴブリンさんがこちらに到着なさるわけだが。


1秒以内で発動させられる魔法(ジレントの書いたやつ)はいくつあるだろうか。


その問いかけに対しメモは24個の魔法を提案してくる。


その中にはファイヤーボールもある。


やっぱり使ったこのあるファイヤーボールが安定か……いや、これはこの村にどれだけ被害を及ぼすかわからない。


なら……


「アレン!!!!」


アンの声にハッとした時には、もうキングゴブリンは目の前で棍棒を構えていた。


そしてそれは勢いよく俺に振り下ろされる。


真っ白な土煙が上がる。


「ふぃー、アブねあぶね、間に合ってよかった」


俺は片手で棍棒を受け止めた。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇ!!」


村の皆さんが驚いている声が遠くから聞こえてくる。


「ぐがぁ?」


キングゴブリンも何が起こったのか分からないといった様子だ。


「わからないだろ、何が起きたか。いいさ、嫌でもわかるからよ」


俺はそのまま棍棒を握りつぶす。


そしてキングゴブリンの顔の高さまで飛び上がるとその左頬に右ストレートお見舞いする。


ゴシャっという鈍い音と共に牙が折れ、キングゴブリンは村の門の外まで吹っ飛んでいく。


筋力強化――こんな低級な身体強化魔法でもこの威力。


本当にチートだな。


俺は足にぐっと力をためるとキングゴブリンの方へ向かって思い切りジャンプする。


そして追撃に次ぐ追撃。


どんどんと村から遠ざけていく。


「――よし。このまま」


本当はファイヤーボールで倒そうと思ったのだが、圧倒できているのでこのまま押し切ろうと判断した。


――のだが。


突然体に力が入らなくなり地面に膝をつく。


自身のステータスを確認するとMPが恐ろしく減っていることに気づいた。


「何で、ファイヤーボールの時は消費MPはかなり少なかったのに」


もう一度、メモで筋力強化の部分を調べる。


すると魔術式のところの余白に追記で何か書かれていた。


“なおこの魔法は必要な時に必要な体の一部にだけ魔力を込めるという想定のもと効果時間を想定している。効果的な魔力コントロールについての訓練法は……”


……なるほどただ魔術式を覚えて、動作規定を守ってってだけじゃあうまく使いこなせない魔法もあるのか。


「甘く見てたな……ジレント魔術式」


「……ユルザナイ」


突然、低く鈍った声が背後から聞こえてくる。


次の瞬間――


キングゴブリンの重い一撃を脇腹に喰らう。


骨の砕ける音が体内に反響する。




【その頃】


「おかしいな、魔物の魔力反応の位置が変わったからルートを変えたんだが、まさかお前らがいるとは思はなかったぞ、アーガス」


アーガスはライラ村に向かっていたリディアと偶然出くわしていた。


「り、リディア。あぁまぁ野暮用があってな、お前こそ何でここにいるんだよ?」


アーガスは生唾を飲み込む。


「またおかしなことを言うな。ライラ村から依頼が出てたはずだが、お前は無視してきたのか?」


リディアは目を細めアーガス達を見渡す。


「そ、そうなのか気づかなかったよ! じゃ、俺たちは他のクエストを受けなきゃなんねーから」


「その木箱、随分と重そうじゃないか。何が入っているかの見せてくれないか?」


アーガスは滝のように汗を流す。


「クソっ! お前らこいつを殺せ!!」


アーガスは剣を抜きリディアにとびかかる。








 「……グハッ」


咄嗟に上半身に魔力を集中でたから即死は免れたが……


俺は吐血を繰り返す。


「……あいつしゃべったよな」


口についた血をぬぐいながら俺は思考を巡らせる。


本で読んだキングゴブリンの情報では奴は人の言葉をしゃべれるほどの知能は持っていないはずだ。


「……個体差ってやつか」


文字に書いてあることと実際の戦闘は違う。


こんなの当たり前のことだが、戦闘経験皆無の俺はそんなことすら頭になかった。


……魔力ももうじき底をつく。


魔力は血液に多く含まれると読んだ気がする。


さっきの一撃で結構な血を失ってしまった。


「……使えてもあと1回だな」


キングゴブリンも丁度こちらに向かってきている。


俺はふらつく足で立ち上がると、動作規定を順守する。


視界はかすみ、耳もよく聞こえない。


……でも何だろう。不思議と恐怖はない。


全ての意識を魔法に集中できている気がする。


死の前の境地というやつだろうか。


まぁ、そんなことどうでもいい。


ただ俺は目の前にいるこいつを俺の炎で燃やし尽くしたいだけ。


「闇夜に熱き灯を 《ファイヤーボール》」


杖の先に巨大な火球が生まれる……と思ったのだが、その火球は試し打ちした時よりも二回りほど小さいものだった。


……動作規定、どこか間違えたのだろうか?


ただ、火球は試し撃ちの時の倍の速さで飛んでいきキングゴブリンに命中する。


一瞬だった。


キングゴブリンの体は瞬く間に燃え上がり灰と化す。


そこには静寂と焼け焦げた匂いだけが漂っていた。


「…………勝った。やった、」


この俺が……やったんだ。


村のみんなを守った……


体の力がフッと抜ける。


魔力が完全に尽きてしまった。


俺は仰向けに倒れたまま一ミリも動けなくなってしまった。


意識がだんだん薄れていく。



 「面白い!実に面白かったぞウヌの魔法!!」


突然甘い香りが鼻腔をくすぐり、俺は少しだけ意識を取り戻す。


眼球だけ動かし、傍らに立っているその人に目を向けると、そこには巨大なおっぱ……背の高い魔女が立っていた。


胸元の大胆にあいた黒いドレスに身を包み、その上から真っ黒なローブを羽織っている。身長は180cmはありそうだ。


少し紫がかった黒髪は腰下までのばしており、とんがり帽子をかぶっている。


元居た世界の創作物でよく見るザ・魔女って感じの風貌だ。


ていうかおっぱいだ。めちゃくちゃおっぱいがでかい!!


こうやって寝転がって下から見ると胸が大きすぎて顔が全く見えないくらいだ。


……神はいる。人生最後にこんなおっぱいを見せてくれるとは、なんて粋な神様なんだ。


胸をみて すべてのことを許そうと おもゆる心は かくも美し


これを辞世の句としようではないか。


我が生涯に――


「……おい、聞いておるのかウヌ! 名前と歳を教えろと言っておるのだ」


魔女様の低い声で怒られる。


どうやらまだ死なないらしい。


すぐに答えたいのだが、如何せん口もうまく動かせないのだ。


俺はア……ア……と言葉にならない声を発する。


「あぁそうか、魔力が尽きているのだな」


そういうと彼女は指輪をたくさんつけた手で俺を抱きかかえる。


そこで初めて彼女の顔を見る。


右目は前髪で隠れていて見えないのだが、左目はいわゆる猫目とでもいうのだろうか黄色い瞳に黒目は細い。


鼻筋はスゥと通っていて高く、真っ赤な唇はふっくらとしていて厚めだ。


ハリウッド女優のような海外の美人を彷彿とさせる顔立ちをしている。


そんな彼女は目を細めると、…………俺にキスをした。


しかも深いやつ。


彼女の唾液を強制的に飲まされる。


唇と唇の接着面から垂れるほどの量だ。


俺のファーストキスは魔女の味であった。


「――プハッ、これで少しは喋れるだろ。さぁウヌの名前と歳を教えてもらおうか」


彼女は俺を抱きしめたままめちゃめちゃ至近距離でそう問いかけてきた。


……俺はポケーとしてしまった。


なんかこういうの見たことあるぞ、イケメン男子がパッとしない純情女子にキスするみたいな。


この場では男と女が逆なんだが。


…………というか、そうだ質問に答えないと。


俺は体に魔力が満ちていっていることを感じる。


あぁ確か、魔力は血液の他に唾液にも含まれるんだっけか。


つまりさっきのキスに愛はない。


ひどい……初めてだったのに……


「名前は……アレン。歳は16です」


そう答えると彼女はニヤッと笑い、俺の首にキスをする。


キャー---------! もうやめて! これ以上乙女の純情を弄ばないでよね。


体は屈しても心だけは……


「アレンよウヌの傷が癒えたら、ワシのところへ来い。このワシ、レギが魔法使いにおける最高の戦い方を教えてやろうではないか」


彼女はそういうと俺の首にキスマークを残し、俺を村へ転移させた。




《あとがき》

この作品が気になった方はぜひ、評価、フォロー、コメントしてくださるとすっごく嬉しいです!


次の話は11月02日水曜日の20時46分に投稿予定です。


入れ込めなかったのでリディアがアーガス達をどう倒したかは次話の頭で書きます。

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