第3話 理系のカノジョに理詰めで告白されたけど、容易く論破してやった件 3/6

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 ボクと姉川の交際は、極めて順調に進んでいた。

 そう思っていたのだが、ある日問題が発生した。

 というか、その問題自体は付き合い始めた当初から存在していたものである。

 それに目を背けていたが、そうも言っていられない状態になった。


 当時、ボクと姉川はところかまわずいちゃつくようになっていた。

 親密な行為は人の目の届かぬ場所でするようにしているが、年頃の少女たちのパパラッチ根性はすさまじく、ことごとくボクらの情事は彼女らによって暴かれていった。ボクらの交際は、公然のものとなっていた。


 そんなある日、ボクたちは進路指導室に呼び出された。

 呼び出したのは学年主任の教師。

 きつい目つきをしており、ロッテンマイヤー先生みたいな人だ。

 ちなみに、ボクはハイジのアニメを見たことがない。

 クララが経ったシーンだけは知っているが、それ以外の知識は皆無だ。

 ロッテンマイヤー先生ってハイジの登場人物であってるよね?


 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 ロッテン先生(仮称)は、ボクたちを前にして座った。

 厳しい表情をしており、これからお説教が始まることは目に見えている。


 ボクは逃げたくなったが、それも無駄だ。

 学校に来る限り、このロッテン先生とも顔を合わせなければならない。

 ロッテン先生は、眼鏡をクイっと上げると、お小言を始めた。


「お二人の噂が学内に流れていることはご存じかと思います。今日は、その関係でお話をさせてもらうことにしました。噂によれば、お二人はお付き合いをされているということですが、それは事実ですか?」

「「はい、事実です」」


 二人の声が重なった。

 こういう展開は姉川にはきついかと思ってボクが答えようとしたのだが。

 姉川はむしろ、誇らしげに答えていた。

 その反応を見たロッテン先生は告げる。


「事実と言うことですね。噂の中には、あまりよくないものも含まれています。そのことについて、詳しく聞き出すつもりはありません。ですが、アナタたちの今後の生活やこの学校の風紀に悪影響を及ぼすようであれば、それを指導しなければなりません。まず、姉川さん。最近、勉学の方がおろそかになってはいませんか?」

「いませんよ?」

「最近、授業に集中できていないのではないか、という指摘が他の先生方からきています」

「授業に集中できていないのは昔からです。最近までは、一応聞いているふりはしていましたが、それも面倒になって止めただけです。教師陣よりも私の方が知識も経験も上だということはお判りいただいているはずです。成績についても、理数系はこれまでと変わらず一位ですし、文系科目は最初からビリです」

「……そのようですね」


 姉川は理路整然と言った。

 ここまで堂々とした態度を取れるとは、大したものだ。


 そんなことを考えていたら、ロッテン先生は矛先をこちらに向けた。

 姉川に向ける視線よりも厳しい、責めるような目でボクを見ながら言う。

 まぁ、それも仕方がないだろう。


「さて、姉川さんについては、ここまでにしておきましょう。次は山田さんです。私は大変失望しています。それが何故だか分かりますか?」

「大体は」

「完全に理解してくださっていると思っていました。我々はアナタの持つ『予知能力』をあてにしています。それは、事件が起きるということが分かっていれば、それを防げなかったとしても、対処することが容易になるからです」

「それは重々承知しています」


 ボクは以前から、超能力を使ってこの学校に貢献をしてきた。

 問題が起きると分かっていれば、事後処理の手はずを事前に整えることが出来る。

 それは、この学校という組織においてとても重要なことらしい。


 だが、最近はそれも出来なくなった。

 最近ボクが見る予知夢は、すべて姉川に関連するものになってしまった。

 


 それが気に入らなかったというのもあるのだろう。

 ロッテン先生は、語気を強めて言う。


「予知夢が使えなくなったことについては、仕方がありません。自分ではいかんともしがたい部分があるのでしょう。ですが、それならせめて迷惑をかけないよう自重するようにしてください。アナタがスキャンダルを起こすというのは、あってはならないことです。それをご理解いただいていますか、山田頼子先生!」

「はぁ……」


 ボクは気の抜けた返事をする。

 まったく、

 生徒の模範とならなければならないらしく、自由に動くことすらできない。

 だけど、目的のためなら仕方がない。

 目的のためなら首になっても構わないが――。


 いや、むしろ首になったほうがいいのか。

 すでに彼女とは出会ったのだから。

 もうこの学校は用済みだ。


 ボクはこの日、退職願を書いた。

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