過去編 姉川聡子

第1話 理系のカノジョに理詰めで告白されたけど、容易く論破してやった件 1/6

【まえがき】

白雪の相談相手、姉川聡子の過去編です。

語りも白雪ではなく、本編にはあまり影響しません。

全6話で、これが終わったら第2部に入ります。

ほぼ独立したものとして読んでいただければと思います。


     1


「あなたが好きです。つきましては、


 ボクがそう言われたのは、春先のことだった。

 愛の告白をしてきたのは、丸いフレームの眼鏡をかけた少女。

 なぜか白衣を普段からきている変わり者。

 学校内では『天才少女』と呼ばれている子だった。


 ボクは彼女のことを知っていた。

 ここ最近、ボクは彼女が出てくる夢ばかり見ている。


 その個性爆発な彼女は、不敵な笑みを浮かべながらボクを見据えていた。

 眼鏡の奥の瞳で、しっかりと。

 完全にロックオンされた気分だった。

 というか、実際にされていたのだろう。


 愛の告白の後に『付き合ってください』ではなく『話を聞いてください』と言っている。

 その時点で、何らかの陰謀が彼女の中にあると見ていい。

 その証拠に、彼女は何やら策を弄し始めた。


「返事はまだ待ってください。私たちがそう簡単にお付き合いすることが出来ないということは分かっています。世間の目とか、色々ありますから。それに、いきなり告白されて戸惑っていらっしゃるでしょう。そこで、提案があります」

「提案?」

「私と勝負をしませんか?」

「ギャンブルはちょっと……」

「ギャンブルじゃありません。純然たる勝負です」


 愛の告白と勝負との間にどんな因果関係があるのかは分からない。

 だが、彼女の話に少し興味がわいていた。

 少しくらいなら、このまま付き合ってやってもいいだろう。


「それで、勝負の内容は?」

「山田さんは、超能力者だそうですね?」

「ああ、うん。そうだね」


 ボクはあっさりと肯定した。

 何を隠そう、ボクは超能力者だ。

 眠ると少しだけ先の未来を夢で見ることが出来る。

 そんな予知夢の能力を持っている。


「超能力のことは隠していないけど、これを使って勝負をしたいの?」

「はい。私にもちょっとした伝手がありまして、あなたの『ラーニングドリーマー』のことは、調べさせていただきました」

「ちょっと待って。その名前は何?」

「その名前というのは?」

「らーにんぐどりーまーとかいうやつ」

「ああ、これはアナタの超能力の名前ですよ? 私が勝手につけました。格好いいと思いませんか? もしかして、すでに別のものをつけていましたか? 格好良さでは負けないつもりですが、一応そちらが考えたものがあるのでしたら、お伺いしておきましょう」

「そんなものはつけてないよ。これからもつけるつもりはない」

「では、ラーニングドリーマーを採用ということでよろしいですね?」

「よくないよ」


 これまで、この超能力を悪く言う人間は多くいた。

 だが、勝手に中二病ネームをつける者はいなかった。

 このような悪意なき暴挙は初めてだった。


「ところで、超能力の具体的な内容まで知ってるの?」

「勿論ですよ。アナタの『睡眠予知ラーニングドリーマー』は『99%』当たる予知能力なんですよね? 100%でないところが素敵です」

「それはどうも……」


 いまいち、どう接すればいいのか分からない。

 実際のところ、

 だけど、まさかこんな性格の人間だとは思わなかった。


「そこで、私と勝負をしましょう。山田さん。アナタには、私に関連する予知をしていただきます。私がその予知に反する行動をすることが出来たら――残り1%を引き寄せることが出来たら、私のものになってください。いいですね?」

「要求がさりげなくひどいことになっているね」

「ちなみに、いいと言うまでは動きません。付きまといます」


 天才少女は自信にあふれた声で告げた。

 周りの目を気にしないその態度は、才能に裏打ちされた自己肯定感からくるものなのだろう。

 正直、少しだけうらやましい。


 さて、問題はこの子に対する対応をどうするか、ということだ。

 何かを企んでいることは確実。

 だが、それも大体予想がつく。

 ボクは適当にあしらうことにした。


「分かった。じゃあ、ボクの予知と違う行動が出来たら、君と付き合うことにするよ」


 実際のところ、それは不可能だ。

 1%というのは、狙って引き寄せられるものではない。

 とりあえず、この場を収めるために提案を了承しておいた。


 だが――。

 小賢しい天才少女は、にやりとした表情を浮かべ、自らの策を披露した。

 それはもう、楽しそうに。


「かかりましたね! アナタの予知は99%当たります。ということは、1%外れるということです。つまり、私が何度も告白を続けていれば、いずれは、本来の未来と異なる予知夢を見ることになります! 1%を引き寄せる事が出来ます。私はこれから、ありとあらゆる手段を講じて、毎日一回ずつ情熱的な愛の告白をして差し上げましょう!」

「毎日?」

「はい。アナタの超能力は、未来に訪れる印象深いイベントを予知する者だそうですね。ですから、私は毎日アナタに印象的な愛の告白をすることで、アナタの予知夢に確実に登場することが出来るのです! そしれ、いずれは私に関する予知が外れる日が来る。つまり、私が諦めなければ、絶対に付き合えるということになるのです!」

「うん、まぁ、理屈の上では間違ってはいないね」

「理屈が正しいなら、現実でそれは実現されるはずです。すでにあなたは、私の手の内にあります!」


 確かに、その通りだ。

 机上の理論は、現実でも通用するべきだ。

 だが、今回だけはそうはならない。

 


「さぁ、それでは一発目! 私はあなたが好きです。付き合ってください!」


 論破である。

 彼女の理論は、ボクが彼女の提案を断ることが前提となっている。

 だから、その前提を覆してやれば、彼女の計画は瓦解する。


 彼女は、とても途惑っていた。

 天才的な頭脳が作り上げた図式を、一言で瓦解させられたのだ。

 無理もない。むしろ、当然と言える。


「それじゃあ、よろしくね」

「あ、どうも、よろしくお願いします」

「ところで、一つ聞いてもいいかな?」

「はい」

「君の名前は?」

「知らないでOKしたんですか?」


 それは仕方がない。

 彼女と直接会ったのは、これが初めてだったのだから。


「私の名前は『姉川聡子』。人は『天才少女』と呼びます。ちなみに、天才少女にはルビがついて『天才少女ザ・ジーニアス』と読みます」


 そのあだ名、気に入っていたらしい。

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