この恨みはらさでおくべきか

チンチラ すず



「あら飼い主、起きたのね」

「さぁ、おやつを入れなさい」

「そう、それでいいのよ」


「朝食が済んだのであたちは寝るわね。って」

「あ!何よ!何するのよ!」


飼い主に抱かれ移動用キャリーに入れられる。

ちなみにお嬢様気質だが抱っこも撫でるのも嫌がらず寧ろ大人しい。ツンデレってやつだ。


「ちょっと!どこに連れていく気なの!」

「あら、足元が温かいわね」

「ちゃんとカイロを入れてるならまぁ許すわ」


チンチラは暑くても寒くてもダメなのだ。


「ここどこなのよ。何する気?」


かかりつけ病院が移転して新しくなっている。


じーーーーー。

じーーーーーーーーーー。

メッシュ越しに細目で見てくる。


「寝るわね」


そう言って彼女は寝た。


診察室に呼ばれたので移動し、先生が言う。

「ではこちらのケースにお願いします」


暴れられない絶妙なサイズのタッパーに入れ蓋をしめる。もちろん息は出来る。


「ちょっと!何よ!レディの体重を測るなんて!哺乳類の風上にも置けないわね!」


等と言いながら大人しい。

検査とブラシが通らなくなってしまったおしり周りの処置をするため奥に連れていかれる。

その間にご自由にの箱からサンプルの餌を頂き待合室で再び待ち、また診察室に呼ばれる。


「ちょっと、飼い主。聞いてないわよ」

「あたちのおしりの毛を刈るなんて」

「処刑に値するわよ」


非常に繊細な毛のためブラシが通らない毛玉は早めに刈らないと皮膚の引連れや病気に発展してしまうのだ。

今回は耳の診察がメインで結果を先生が話す。

「瘡蓋部分の培養をして結果をみるので2週間後にまた来てください。それまでこちらの消毒液をコットン等につけて拭いてあげてください」


チンチラは湿度が高い環境になると耳カビになってしまう事がある。しかしうちは室温湿度共にいつも管理している。が、思い当たるフシがひとつだけあった。


「あ!ここは家ね!早く出しなさいよ!」

「はぁー、疲れたわ。まったく」

「って、いつものが無いじゃない」

「どこにやったのよ。早く用意しなさい」


そう、お気に入りのクッションベッドだ。


「あたちはあれをコネコネして形を作って挟まれて寝るのが気に入ってるの知ってるでしょ」

「2個あるの知ってるのよ。早く敷きなさい」


あまりに気に入ってしまったので洗濯した時用にもう1つ買いヒーターの上に敷いていたのだが、まるで横向きにしたホットドッグのようにしてクッションに挟まれて眠るので耳が蒸れてしまったのではないかと推測した。


「え?あれは旅に出た?」

「なによ、いつ帰ってくるのよ?」

「わからない?」

「早く帰ってくるように伝えておきなさい」

「ってまた何よ!私に触れないで!汚らわしいじゃないの!手が湿ってるわ!気持ち悪い!」


夫に抱っこしてもらい耳の消毒をする。


……ズーーーーーン


「最悪だわ。耳がなんか湿ってる」

「もう、嫌、無理。ふんっ!」


耳の消毒をすると恨み節でずっと背中を向けて動かなくなるのである。


「この恨みはらさでおくべきか...」


恨みの対象はいつも夫である。

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