厨二でぼっちな私と陽キャな貴方〜私はみんなとは違う。だから隣の席になったとしても話しかけないでください〜

肩こり

第1話

葉山引子はやまいんこさん……だよね?」


唐突に話しかけられたことで、葉山引子は一瞬固まる。


ーー葉山引子は厨二病である。時は小学6年生、八月の中頃、そこで出会った一つのアニメにより、彼女の才能は開花した。


「ふっ……この私を誰と心得る? 葉山引子とは世を忍ぶ仮の姿。私の真名まなは漆黒のダークネスよ、覚えておきなさい!」


左手を顔に添え、右手を前に突き出して話しかけてきた人を指差すという独特なポーズをとりながら彼女は言う。

 葉山引子はぼっちである。最初は皆彼女に話しかけてくれたのだ、最初は……しかし独特なポーズと共に、彼女が一度声を発すれば、皆離れていく。「私はみんなとは違う、だから相容れないんだ」とその都度己に言い聞かせている。どうせ今回もまた離れていくんだろう、そう思いながら彼女はそのポーズを解き、愛読書である「黒の書(自作)」に目を落とす。


「漆黒のダークネス……なんか頭痛が痛いみたいなネーミングだね! 私は高槻美波っていうんだ、今日から隣の席だけど、よろしくね!」


高槻美波、そう名乗る彼女の言葉に、引子は衝撃を覚えた。今までのやつとは、明らかに何かが違った。今までの奴らは皆、彼女が最初に自己紹介をした段階でそれ以降話しかけようとはしてこなかった。無論自己紹介もしてはくれなかった。

 学校の奴らは自分とは違う、平凡な存在なんだ……と頭では分かっていても、やはり無視されるのは悲しいものだ。だからこそ葉山引子は衝撃を覚えたのだ。自分の紹介を聞いても尚話しかけて来る彼女に。


「……よろしく」


しかし孤高の存在ぼっち故に今まで誰とも話してこなかった彼女は、咄嗟のことで声を出すことができなかった。


「もー、無視はひどくない?」


無論無視したわけではない。声が小さくて、もはや音になってなかったのだ。


「高槻美波……覚えておいてやろう」


長年この喋り方だったため、世間一般から見て普通の喋り方が出来なくなっていたことに、彼女自身驚く。


「うん! よろしくね!」


しかし、そんな自分に綺麗に笑いかけてくれる彼女に少し心を許しかけていたところ……


「それにしても……葉山さんって面白いね!」


面白い、その言葉を聞いた瞬間に、許しかけていた心が一気に遠のく。まだ中学の頃の話だ、中学の頃に隣になった男子から「こいつおもしれーぞ!」などと馬鹿にされたり、少し赤い顔で「この我と共に世界を救おう、漆黒のダークネス!」などとわざわざ呼び出されて言われてから言葉には敏感になったのだ。ちなみに後者はこの学校にいるためとても嫌だ。


「面白い……この私をバカにしてるのか!?  ふざけるなよ!!」


あまりの激昂に一際大きな声を出してしまった。いきなり大声を出したからか、視線が一挙に集まって来る。

 普段、闇の組織ブラックバードから姿を隠す、という名目でぼっちになっている彼女が突然向けられた多数の視線に耐えられるわけもなく……


「わ、私をバカにするなーっ!!」


そう叫びながら教室を飛び出してしまった。ちなみに現在時刻8:30分、後十分でSHRショートホームルームが始まる時間だ。


「美波、あの厨二どしたの?」


突然叫び出した葉山引子が気になり、一人のクラスメイトが状況を聞きに来た。


「あ、涼香おはよー、えっとね、よくわかんない。うん本当に」


「そか、まああいつの隣って色々大変だと思うけど頑張れよ」


過去に引子の隣になって、彼女の言動に苦しめられた涼香はこれから美波が辿るであろう運命を思い、肩に手を置いて労ろうとする。


「んー? 引子ちゃんすごい面白い子じゃん! 私は楽しみだよ?」


「はは、いつまで言ってられるかな」


ちなみにこの五分後、引子は教室に戻ってしっかりとSHRに参加した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る